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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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シルヴァルナへ出立

リリアーナがシルヴァルナへ向かうことが決まった。エドモンドは、カイルスと話す事が多くなっていた。


「リリアーナ、本当に行くのか……」と、オルフェウスが問いかける。


「はい」

リリアーナは迷いのない声で答えた。


「エドモンドが一緒に行ければいいのだが。魔鳥来襲に、間に合わない。……領地を留守には、できないのだ」


リリアーナは一瞬だけ瞳を伏せ、静かに言った。

「……はい。わかっています」


「誰か、有能な共をつけたいのだが……」とオルフェウスが言葉を探すように呟く。


そのとき、セラフィーネが口を開いた。

「有能な人物に、既に随行者として頼んであります。私が認めた人物です。……配慮は不要です」


「……誰なのだ」オルフェウスの声にわずかな緊張がにじむ。


「心配は無用です。旅立ちの日に会う予定です」


リリアーナが小さく身を乗り出す。

「私の知っている人ですか」


セラフィーネは口元をやわらかく緩ませて言った。

「内緒よ」


リリアーナとオルフェウスには、誰なのか見当もつかなかった。



出発の日が訪れた。

リリアーナとセラフィーネの前には、見送りに集まった人々が立っている。


「必ず、帰って来るのよ。無理しないで……」とマルグリットが祈るように言う。

「はい、必ず帰って来ます」リリアーナは力強く答えた。


「怪我一つでもさせたら、許さないからな」エドモンドの声は厳しく響く。

「細心の注意を、払います」セラフィーネは静かに応じる。


そのとき、一人の男が姿を現した。

「ラディン、遅いわよ」セラフィーネが声を投げる。

「無茶を言うな。これでも急いだ方だ」


随行者として現れたのは、ラディンだった。


エドモンドの目が細くなる。

「……何故、彼なのだ」


セラフィーネは素知らぬ顔で答える。

「彼は意外と腕が立つのです。それにリリアーナとも面識があるようでしたし、其方の戦力を減らしません。最適でしょう?」


「信頼が……おけるのか」エドモンドの問いに、セラフィーネは揺るぎなく答える。

「……少なくとも、リリアーナを傷つけるようなことは、しないでしょう」


エドモンドは唇を噛みしめた。

旅立ちは、もはや決して止められぬものなのだ。


セラフィーネはカイルスに耳打ちをした。カイルスは静かに頷いた。

「カイルス、お願いね」

セラフィーネの、旅立ちの挨拶が終わった。


--------------------


リリアーナたちは知らなかった。

セラフィーネが密かにラディンを訪ねていたことを。


「貸しが、あったでしょう……?」

ラディンの前に立ったセラフィーネの声音は、冷ややかに響いた。


ラディンの瞳が揺れる。

「……本気か」


「私は嘘が嫌いよ。今、あなたがこうして生きていられるのは、誰のお陰なのかしら? それとも、……返せないの?」


ラディンは息を詰めた。

「しかし、俺には族が……」


「どうせ、族長に指名されているのでしょう?」セラフィーネの瞳が鋭く射抜く。

「でも、本音はやりたくない……違うかしら? どうしても、約束があるから、と、ここを出れば良いのよ。弟にでも、族長は押し付けなさい」


ラディンは言葉を失い、沈黙が落ちる。


「そんな、簡単な事でない……」

「……そうかしら」


セラフィーネは一歩近づき、低く告げる。

「出立の日、必ず旅装をして来なさい」


「待て……行くとは――」


その言葉を、セラフィーネが鋭く遮った。

「断りは、ないわよ」


その声と瞳には、「あなたをいつでも殺せる……」という無言の圧が宿っていた。


ラディンは肩を落とし、唇をかみしめる。

「……わかった」



ラディンは、弟に会いに行った。


「襲撃の時に助けてもらった、女性がいただろう。彼女が言うんだ……女性二人旅になるから、護衛をして欲しいって」ラディンは低い声で切り出した。


弟は怪訝そうに眉をひそめる。

「彼女に護衛が要るの? 兄さんより強いんじゃない?」


ラディンは苦笑を浮かべた。

「……多分、俺より強い」


「じゃあ、もう一人の女性の護衛とか?」弟が首を傾げる。

「……彼女が、守りきれないような?」

「想像が、出来ないな」


二人は長いこと沈黙していた。

「何にしても、断れない、ね」弟の言葉は淡々としていた。


「……そうなんだ」ラディンは深く息をつくと、懐から小さな袋を取り出した。

「ああ、それと。彼女がこれをくれた。万が一、俺が帰れなくなったら開けてくれ、ってな」


弟は目を丸くした。

「……何それ?」


「わからん。けど、それまでは中を決して見るなと念を押された」


弟は顔をしかめた。

「……怖いんだけど」


「俺もだ」ラディンは力なく笑う。


やがて真剣な眼差しを弟に向けた。

「族長と、母さんを頼むぞ」


「族長……俺が?」弟の顔に驚愕が浮かぶ。

「本気で……?」という言葉が喉元まで上がっていた。


兄弟の語らいは長く続いた。

夜の深まりとともに、その会話には覚悟と諦観、そして互いを思う無言の情が滲んでいった。


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