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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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精霊の愛し子②

翌日、セラフィーネたちとオルフェウス夫妻、エドモンド、リリアーナは集まった。人払いは、すでに済ませてある。


セラフィーネが静かに切り出した。

「マルグリット様、もうよろしいのでしょうか?」


険しい表情のまま、マルグリットは小さく頷く。

「では、昨日の続きを」


セラフィーネは言葉を続けた。


「私の国、シルヴァルナでは、ときに《精霊の愛し子》が生まれます。精霊の愛し子は精霊に深く愛されますが、その愛は人の愛情とは性質が異なります。


精霊はまず、愛し子の近くに姿を現すようになります。そして愛し子が精霊に願いを託すと、その願いは叶えられます。

ただし、そこには必ず対価が必要です。


魔力を持つ者は魔力を差し出し、

魔力を持たぬ者は命を差し出すことになります。


魔力を捧げた者は、精霊の力を宿すようになります。私たちはこれを《魔力の書き換え》と呼びます。


魔力の多い者は、書き換えの間、……多い時は一年、眠り続けることもあります。」


セラフィーネは一度言葉を切った。

リリアーナの顔は青ざめ、オルフェウス、マルグリット、エドモンドが彼女を見つめていた。


セラフィーネはさらに語る。


「魔力の書き換えを終えた者には、精霊がより現れやすくなります。以前よりも容易に、精霊へ願いを託すことができるようになるのです。


さらに、魔力の豊かな者は精霊との意志疎通すら可能となり、その能力の延長上であれば、さまざまな願いを叶えることができます。」


セラフィーネは語りを続けた。

「シルヴァルナは、愛し子の存在によって発展してきた国です。愛し子を通じ、魔道具を生み出し、気候を安定させ、豊穣を約束してきました。


ただし、他の国では事情が異なるでしょう。

愛し子の能力は、権力者が囲い込めば絶大な力をもたらすのですから……」


セラフィーネはそこで言葉を止めた。


「それは、真実なのか……?」

オルフェウスが重々しい声で問う。


セラフィーネはリリアーナに視線を向けた。

昨夜、彼女が「お雪様」を肩に乗せ、弾き語りをしていた姿を思い出しながら。


「リリアーナ。……何か、願いをした?」


リリアーナは戸惑い、首を振る。

「そんな覚えは……」


セラフィーネはさらに問いを重ねた。

「精霊は――『誰か助けて』、あるいは『あの人を幸せに』……そんな願いでさえ、願いとして受け取るのよ?」


リリアーナは沈黙した。

大きな魔獣に対峙したとき、もしかして、心の奥で願ってしまったのだろうか……。


セラフィーネが言葉を紡ぐ。

「リリアーナは春まで眠っていたそうね。

そう、あなたの魔力は非常に少ない。願いが小さなものだったのか、あるいは途中で終わってしまったのか……。

もし大きな願い事が完全に叶っていたのなら、精霊に連れ去られていたはずよ」


「そんな言葉は……信じられない」

エドモンドが吐き捨てるように言った。


すると、オルフェウスが静かに口を開いた。

「昔は、『お雪様』も少なくはないが、普通に存在していた……。だが魔獣たちの襲撃が始まってから、徐々にその姿を消していったのだ」


セラフィーネは頷いた。

「つまり、愛し子が願いをしたのでしょうね。その結果、愛し子は命を落とした。もっとも、精霊は普通の、ささやかな願いは願いとして数えないみたいです。……よほど強い願いがあったのでしょう」


マルグリットが問う。

「魔力さえあれば……願いさえしなければ、愛し子は生きていけるの……?」


セラフィーネは力強く答えた。

「そうです。でなければ、私の国はとうに滅んでいます」


「そんな……」

マルグリットは呟き、唇を震わせた。


セラフィーネは、リリアーナを真っ直ぐに見据えて言った。


「リリアーナ。あなたの能力は《ゼネラリスト》。努力を重ねれば、魔力量を増やすことができるはずよ。

……私なら、それを教えられる。

ただし――リリアーナ、あなたがシルヴァルナへ来ること。

それが、教えることへの条件です。

よく考えて。……そして、皆様も」


そう言い残すと、セラフィーネはカイルスと共に静かに部屋を後にした。


「そんな……」

エドモンドが低く呟く。


「……しかし、嘘とは思えない」

オルフェウスが険しい顔で言葉を継いだ。


マルグリットは、しばし黙したのち、リリアーナに向き直る。

「……リリアーナ。あなたは、どうしたいの……?」


リリアーナは長い沈黙の末、口を開いた。

「……彼女は、嘘を言う人ではありません。

私は……魔力量を上げたいです」


「危険過ぎる!」

エドモンドが声を荒げる。


リリアーナは静かに彼を見つめ返した。

「以前、私の我が儘を聞いてくれると、言ってくださいましたね。

これは……私の我が儘です。

……聞いてくれます、よね?」


部屋の中に、重い沈黙が落ちた。


重苦しい沈黙を破ったのは、オルフェウスだった。


「……リリアーナの望みなら。エドモンドも、聞いてやれ」


その言葉に、場の空気がわずかに揺らぐ。

しかし、エドモンドの表情は複雑なまま動かない。

彼の胸中には、守りたい想いと、受け入れねばならない覚悟がせめぎ合っていた。





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― 新着の感想 ―
エドモンド、「守る」と思ってるのがおこがましい。 最初からほぼ共闘してるだろ それなのに「守る」と思ってしまってるところ、彼女をか弱き存在として信じてたいのかな、そろそろ認めないと、枷になって振り切…
エドモンドにあんま魅力感じなくて離れるならはよ離れてほしいな…
権力者から守る力を持たないと。
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