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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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精霊の愛し子①

セラフィーネが続けようとした時だった。


「……精霊の、愛し子……?」


マルグリットが小さく口にし、ふらりと身体を傾けた。

慌ててオルフェウスが腕を伸ばし、彼女を支える。


「マルグリット!」


顔色は紙のように白く、呼吸も浅い。

オルフェウスは険しい表情でセラフィーネを見やり、低い声で言った。


「……すまないが、話の続きは明日にしてくれないか。エドモンド、後は頼む」


そう告げると、彼はマルグリットを抱き抱え部屋を後にした。


残された静寂の中、セラフィーネは視線をエドモンドに向ける。


「体調を崩されみたいですね…。では、明日にでも続きをお話ししましょう。……滞在できる部屋を用意していただけますか?」


エドモンドは頷いた。

「わかった」


その時、カイルスがセラフィーネの耳元に何事か囁く。

セラフィーネは軽く目を細め、エドモンドに向かって言った。


「申し訳ございません。彼が、矢を作った職人に会いたいそうです。案内をお願いできるでしょうか?」


「落ち着いてからでも、構わないのなら」

エドモンドが応じる。


「ええ、では確かに。お願いします」

セラフィーネは静かに頷いた。


こうして、矢を作った職人へ会いに行くことが決まった。



その夜、マルグリットは夕食の席に姿を見せなかった。

重苦しい空気の中、オルフェウスは食後、エドモンドとリリアーナに声をかけた。


「……執務室に来れるか?」


二人は父の後を追い、静かな執務室に入った。

ランプの光が机の上を照らす中、エドモンドが口を開く。


「父上、話とは……?」


オルフェウスは深く息を吐き、低く問いかけた。


「エドモンド……“精霊の愛し子”を知っているか?」


「精霊の愛し子……あれは、お伽噺ではないのですか?」

エドモンドは困惑の表情を浮かべる。


彼はリリアーナの方を見やった。

「リリアーナは、知っているのか?」


リリアーナは小さく唇を噛み、答えた。

「私は……本で少し読んだだけです。“精霊の愛し子”という存在があり、類まれな能力を発揮すると……それ位しか知りません」


「……そうだな」

オルフェウスは遠い目をしながら、静かに語り始めた。


「精霊の愛し子……それは非常に稀な存在だ。……エドモンド、実はお前には姉がいたのだ」


「……姉、ですか?」

エドモンドは驚愕し、父を見つめた。


「その子は八歳の時、鑑定の儀で“精霊の愛し子”と告げられた。……だが、このままでは早々精霊に連れ去られる、と」


オルフェウスの表情は険しく、声は苦々しい響きを帯びていた。


「保護、という名目で、教会がその子を引き取ったのだ。もちろん、儂もマルグリットも必死に反対した。だが……精霊の愛し子の扱いは、王命でもあった。“精霊の愛し子は等しく、教会の下に。他言無用。反抗は許さぬ”とな。精霊の愛し子は、表向きは何らかの理由で亡くなった事にすると。儂らは、鑑定の儀のために行った三つ隣の街で、娘は病気になり亡くなった事、になったのだ」


「……そんな……」

エドモンドは言葉を失い、絶句した。


オルフェウスは重く目を伏せ、続ける。


「お前が一歳の時のことだ。儂は箝口令を敷いた。マルグリットが、あまりにも痛々しくてな。……その後、娘がどうなったのか……生きているのか、死んでいるのかすら、儂にはわからぬ」


執務室には、沈黙だけが残った。


リリアーナは小さな声で呟いた。


「では……マルグリット様は、思い出して……」


オルフェウスは静かに頷き、深い溜め息を洩らす。


「そうだ。……彼女にとっては、最愛の娘なのだ。今でも、な」


重苦しい空気の中、エドモンドが唇を引き結び、言葉を発した。


「では……リリアーナが“精霊の愛し子”だということは、隠さねばならない?」


オルフェウスはゆっくりと息を吐き、低く答える。


「……愛し子と判じられれば、リリアーナも教会に連れて行かれるだろう。王命には、誰も逆らえぬのだからな」



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