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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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セラフィーネ、再び来る

リリアーナが城に来てから、一年が過ぎた。

変化と言えば、まず庭には薬草が増えた。

甘甘草をはじめ、さまざまな薬草が植えられ、どれも恐ろしいほどの生命力で育っている。時々、リリアーナとエドモンドの姿が見えるようになった。


日常は、リリアーナは弓の練習を怠らなかった。薬草を摘み取る合間にも、小さな森に潜む魔鳥を仕留めていた。次に現れる魔鳥への備えが、必要なのだ。


結婚式については、オルフェウスの提案により準備を進めつつ、もう一年待つこととなった。


エドモンドは強く反対したが、オルフェウスは譲らない。

「大型の魔獣は、まだ残っている。油断はできぬ」

その一言が、決断の重さを物語っていた。


魔鳥や魔獣の群れの動向をもう一年、見極めてからにすべきだと判断したのだ。


リリアーナには新たな目標があった。

それは甘甘草のお茶の増産である。公爵家で好評だった。今年はさらに多く求められていた。庭の管理にも自然と力が入り、朝から晩まで薬草の世話に心を砕いていた。


そんな折、セラフィーネが一人の若者を伴ってリリアーナを訪ねてきた。セラフィーネと同じ色の亜麻色の髪を、後ろで一つに束ねていた。

その若者は理知的な雰囲気を纏い、細身の体つきに整った仕草を備えていた。鋭い知性を湛えた眼差しは、静かに周囲を観察していた。


やがてセラフィーネは、オルフェウスへの正式な面会を願い出る。

彼女の口から告げられた国の名は――シルヴァルナ。


シルヴァルナは海の果てに浮かぶ島国である。

精霊と魔道具の技によって豊かさを築き、鎖国を続けながらも外界に劣らぬ繁栄を保っていた。


セラフィーネは恭しく頭を垂れ、オルフェウスへ願いを述べる。


「どうか、リリアーナ様をシルヴァルナに一度、お迎えしたく存じます。彼女の持つ才覚は、我が国にとって欠かせぬ導きとなるでしょう」


その言葉は表向きには礼を尽くした招待にすぎなかった。


謁見の間に、張り詰めた空気が流れた。

オルフェウスの眼差しは鋭く、セラフィーネを真っ直ぐに射抜く。


「……何故、リリアーナなのだ」


低く問いかけるその声に、セラフィーネはわずかに息を整え、静かに答えた。


「リリアーナ様の周りに現れる存在、こちらでは『お雪様』と呼ばれているものに関わりがございます。しかし……これ以上は国の機密ゆえ、申し上げられません。ただし、必ず礼は尽くしましょう」


一礼ののち、セラフィーネの瞳は決して揺るがなかった。


オルフェウスは眉を寄せ、冷ややかに言い放つ。


「リリアーナは我らにとっても貴重な戦力である。ここから出すことなど、考えられぬ」


するとセラフィーネは、一歩前へ進み、同行していた若者を示した。


「そのために、彼を用意いたしました。彼は我が国で一位、二位を争う弓の射手。不足は無いかと存じます」


オルフェウスの視線が若者へと移る。

理知的で細身のその姿は、とても弓の名手には見えない。


「……ふむ」


怪訝な顔を隠そうともしないオルフェウスの瞳の奥に、わずかな警戒と興味が交錯していた。


「では、お試しになると良いでしょう」

セラフィーネの声が、静かな挑戦のように響いた。


一行は弓の練習場へと足を運ぶ。

若者、セラフィーネ、オルフェウス、マルグリット、そしてリリアーナが立ち会った。


「弓も矢も、好きなものを選ぶがよい」

オルフェウスは短く告げる。


セラフィーネは言う。

「カイルス」

「……わかりました」


若者は理知的な眼差しで周囲を見渡したのち、ためらうことなく一つの弓と矢を手に取った。

彼は静かに弓を引き絞り、的を狙う。


――放たれた矢は真っ直ぐに飛び、的の中心を射抜いた。

突き立つ音が乾いた空気を震わせ、場に緊張が広がる。


オルフェウスは顎に手をやり、低く言った。

「……確かに腕は認めよう。だが、リリアーナの代わりとは思えぬ」


セラフィーネは言う。

「本気でやりなさい」


その言葉に、カイルスは一本の矢へと手を伸ばした。矢の根元には、小さな魔石がはめ込まれている。


「これを使ってもよろしいですか?」

カイルスが問うと、オルフェウスは一瞬考えたのち、頷いた。


「……良いだろう」


カイルスは深く息を吸い込み、弓を引き絞った。

細身の体からは想像もつかぬ力が、その一瞬に凝縮される。


次の瞬間――矢は閃光のように放たれた。

魔石の輝きを纏い、音を置き去りにする速度で飛翔し、的の真ん中を貫いた。


衝撃に木枠が震え、矢は深々と突き刺さったまま、微動だにしない。


オルフェウスの瞳がわずかに細められる。

その速さはエドモンドの大弓をも凌ぎ、

その威力は、リリアーナの矢と比べるのも虚しくなるほど圧倒的だった。


場にいた者すべてが、言葉を失っていた。



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― 新着の感想 ―
オルフェウスを悪く言う人は人であっても人間にはなりきれてない人だと思います なーんで友好国でもない他国の使者に内部情報をわざわざ全部説明せにゃならんのにゃ 現に相手国からお雪様が機密情報に関わりがある…
言うこと聞いて大人しくしてなければ出てけっつってたのに、戦力?だから出せない?随分と勝手な物言いですね。 息子さんと息子さんの大切な領地のために粉骨してるのであって親父様の持ち物ではないのだが?
 ふーん、『大切な義娘』ではなく『戦力』ね。ふぅーん?
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