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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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セラフィーネ、ラディンより情報を得る

ラディンは森の中を走っていた。襲撃の決行日が決まったのだ。セラフィーネの忘れ物を届けに来た、と雪解けの羽根亭の主人に言う。主人は直ぐに言伝てをしてくれた。汗に濡れた髪を乱暴にかき上げ、セラフィーネが来るのを待った。セラフィーネは、しなやかに階段を降りてきた。


「届けに来てくれたのね。有難う」

ラディン、腕輪を差し出す。

「折角届けに来てくれたもの、お礼をしたいわ。こちらに来て」

セラフィーネ、ラディンを部屋に誘う。果実水を用意するセラフィーネ。


「三日後の朝からだ。場所は南西。火を、放つらしい。弟からの情報だ」ラディンは声を潜めて言う。


セラフィーネは目を細め、静かに問い返す。

「貴方が聞いたのではなく?」


ラディンは苦く笑い、肩をすくめた。

「俺は、信用されていない。精々、前日の夜か、当日の朝に詳しく聞くことになるさ」


「情報、有難う。健闘を祈るわ」


ラディンは短くうなずき、低く言葉を残す。

「……頼んだぞ」


彼は身を翻し、部屋から姿を消した。残されたのは、微かな汗の匂いと、彼を思わせる空気の揺らぎだけだった。


セラフィーネは南西の町の広場に立ち、雪に閉ざされた季節に似合わぬ明るい声で、弾き語りを始めた。

寒さに肩をすくめていた人々も、澄んだ歌声に耳を傾け、いつの間にか笑顔になっていく。


やがて最後の音を鳴らし終えると、セラフィーネは静かに口を開いた。


「……伝えることがあります」


人々の視線が集まる。


「私がこの町に来る前に噂を聞きました。最近、盗賊がこの近辺で出ていると…。皆様、必ず戦える物を手の届く場所に置いてください。鎌でも、スコップでも、鋤でも棒でも……何でも構いません。」


その言葉に、集まった人々の間にざわめきが走った。

だが、セラフィーネの眼差しの真剣さを見て、皆うなずき合った。


「わかった」「忘れないようにしよう…」


「何も無ければ良いのですが、最近は本当に危険だと聞いてます。本日は皆様にお伝えできて、良かったです……」


こうして、町の人々は忠告に従い、武器となるものをそれぞれ家に置くようになった。

雪深い夜の静けさの裏で、彼らは確かに備えを固めていった。



セラフィーネは、迷いながらも城を訪ねた。リリアーナの部屋に通される。伝えるべきことがある……けれど、それを告げるかどうかは、彼女の様子を見てから決めようと心に定めて。



「リリアーナ、最近はどうなの?」

セラフィーネの問いかけに、リリアーナは少し影のある笑みを浮かべる。

「毎日、リュートは練習しています。それと……イリヤ族の魔獣避けも、似たものなら先日、作ることが出来ました」

「似たもの、とは?」

「はい……調合の途中で、何か必要な工程があるみたいなのです。でも、それがどうしても分かりませんでした。だから、不完全なんです」


その声には、悔しさがにじんでいた。

セラフィーネは少し身を屈め、真剣な眼差しを向ける。

「わからないことは、誰にでもあるわ。大切なのは……これから、どうしていくかよ」

「……悔しいです」

「その気持ち、忘れないで。……聞きに行こうとは、思わなかったの?」

「教えてくれなかった、という事は、私が自分で見つけるべきだと……」

「……そうかもね」


一瞬の沈黙のあと、セラフィーネは穏やかな笑みを浮かべる。

「さて……リュートを聴かせて貰おうかしら?」

「はい」


リリアーナは姿勢を正し、弦を爪弾く。澄んだ音色が部屋に広がった。

「……ねえ、故郷を偲ぶ歌を弾いてみて」

「わかりました」


リリアーナは目を閉じ、歌い始めた。

緑の大地、森の息吹きを彷彿させる歌だ。


その声に魔力が宿り、柔らかな光が空気を揺らす。やがて、白銀の気配が彼女の頭上に現れた。お雪様……小さな存在が、ふわふわと漂い始める。


歌を終え、リリアーナが気づく。少し微笑みながら、言う。

「……久しぶり」

セラフィーネは目を見開いたが、すぐに表情を戻した。

「……それは、何かしら?」

「よく、わかりません。この辺りでは、たまに現れるそうです」


お雪様はくるりと旋回し、やがてリリアーナの肩にそっと降りた。

「不思議ですよね」

「……そうね」セラフィーネは短く答えると、少し間を置いて言葉を継いだ。


「……リリアーナ、実は急用が出来たの。今日は……お別れの挨拶に来たのよ」

「そんな……もっと居ると思ってたのに……」

「ごめんなさい。また、来るから」


セラフィーネの視線は、お雪様から外れる事は無かった。


お雪様の白い光が、リリアーナの肩で小さく瞬いた。


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