エドモンドの苦悩
エドモンドの執務室に、兵士が入ってきた。
恒例の定時報告だが、その日は少し違った。
「報告があります。リリアーナ様が青年と仲良さげに森から戻って来ました」
エドモンドの眉がピクリと動く。
翌日。
「報告があります。リリアーナ様が昨日の青年と待ち合わせをし、朝から森に入っていきました。昼過ぎには二人で戻って来ましたが……リリアーナ様は大変うれしそうでした」
エドモンド、頭を抱える。
(……最近、一緒にいない……。庭を一緒にやろうって言ったのに、一回もしてない……)
そして兵士に尋ねる。
「どんな男だ」
「大変美形です。金髪、緑色の目です」
(ぐっ……何か負けてる気がする……)
「……リリアーナは、そんなに嬉しそうだったのか」
「はい。それはもう。満面の笑みに見えました」
「……報告、有難う。また、頼む」
兵士は敬礼しつつ、ちょっと口元が震えつつ退室。
夜、エドモンドは食卓でリリアーナを注意深く観察する。
(なんだ、この落ち着きのなさは……。そわそわして……)
食後、リリアーナは椅子をきれいに戻すと、そそくさと部屋を出ていった。
エドモンドを見ようともしない。
カチャリ(扉の閉まる音)。
エドモンド、目を細める。
(……速やかに出ていったな。怪しい。非常に怪しい。いや、怪しすぎる……!)
不安が胸の中で風船みたいに膨らんでいく。
(もしかして……もしかして私より、その青年の方が……!? いや、いかんいかん、まだ決めつけるな。しかし……!)
グラスをぎゅっと握り、水を溢してしまう。
「……くそっ、冷静になれ私」
しかし冷静にはなれず、頭の中で「リリアーナ+美形青年」が花畑を背景に笑い合っている幻覚が再生され続けていた。
その頃、リリアーナは部屋で机に両肘をつき、キラキラした目で大王栗を眺めていた。
「ふふふ……初めての大王栗だ……!」
手のひらにどっしり収まるその栗は、王の名を冠するにふさわしく、堂々たる存在感を放っていた。
「どうやって食べようかなぁ……煮る? 焼く? 蒸す?ん~、全部試したいっ!」
頬を赤らめながらコロコロと栗を転がし、ひとりでニヤニヤ。
「……あ、明日誰かに聞いてみるのも良いかも!」
そこでピタリと栗を抱きしめ、真剣な表情になる。
「でも……エドモンド様には内緒。サプライズにするんだから」
大王栗を持ち上げて見つつ「……あ、美味しい食べ方、本にのってないかなぁ」と思いつき、本棚へ突撃。
ガサガサッ、バサッ、ドンッ。 本を積み重ねてごそごそ探し始める。
「うーん……“貴族の正しい食卓作法”……ちがう……“森で拾った変なキノコの見分け方”……ちがう……"木の実レシピ……大王栗の項目が無い……」
結局、見つからず。
こうしてリリアーナの明日は……通りかかる人を片っ端から捕まえては、
「大王栗ってどうやって料理すると一番美味しいの?」
と熱弁をふるう、栗レシピ大調査の日となるのであった。




