宴の翌日
リリアーナが眠ってしまった。
「……もう、大丈夫ですから。一緒にお城にお戻りください」
人々がそう告げる。
エドモンドは無言でうなずくと、眠るリリアーナを背に負った。体は軽く、けれど温もりは確かで、その重みが心臓を締めつけるようだった。
――帰り道。
月明かりの下、リリアーナは一度も目を覚まさない。肩に落ちる柔らかな髪が、時折エドモンドの頬をかすめる。そのたびに、愛しさと同時に胸が切なく揺れた。
「……安心して、おやすみ」
彼は誰にも聞こえぬほどの声で囁いた。
城に着き、静かな寝室。エドモンドはそっと彼女をベッドに下ろした。寝具に包まれたリリアーナは、まるで夢の国の姫のように安らかで、美しい。
その寝顔を見つめながら、エドモンドの胸にはどうしようもない愛しさが込み上げる。触れたい、けれど触れてしまえばこの想いがこぼれてしまう。
彼はただ、唇をかすかに噛みしめ、切なさを抱えたまま……リリアーナの眠りを見守り続けた。
……月が雲に隠れ、部屋は静かに闇へと沈む。
それでも、エドモンドの視線は彼女から離れることはなかった。
翌朝。
リリアーナは、ふわりと瞼を開けた。窓辺から差し込む光が柔らかく、鳥のさえずりが聞こえる。けれど、どうして自分がベッドの上で眠っているのか、まるで記憶がない。
「……あれ? わたし、いつの間に……?」
そう呟いたところに、扉をノックする音。入ってきたのはエドモンドだった。
「おはよう、リリアーナ」
「おはようございます……あの、昨日、わたし……?」
リリアーナが首をかしげると、エドモンドは口元を緩め、肩をすくめた。
「宴の途中で寝てた。仕方ないから背負って帰ってきたよ」
「えっ……! そ、そんな……!」
リリアーナの頬がみるみる赤くなる。
「……ありがとうございます。ご迷惑を……」
「いやいや。お礼を言うなら、……代わりに何か“お返し”をくれるのかな?」
からかうエドモンド。
「えっ……ええっ!? えっと……え、ええと……」
慌てるリリアーナの姿に、エドモンドはつい笑い声を漏らした。
「冗談だよ。そんな真剣に悩まなくてもいい」
「も、もう……!」
リリアーナは頬を膨らませて抗議するが、その姿もまた可愛らしくて、エドモンドの胸には温かいものが広がっていた。




