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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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エドモンド負傷

四日目の朝。

目を開けたリリアーナは、起き上がろうとした。

だが体は重く、指先にすら力が入らない。まるで石を背負っているかのようだった。


「……動け、ない……?」

「……」

エドモンドがリリアーナの肩を軽く押し、布を掛け直す。

「今日は寝ていなさい」

それだけ言い残し、彼は弓を手に外へ出ていった。


外では、すでに魔鳥の影が旋回を始めていた。

鐘の音が再び鳴り響き、人々が弓を構える。


今日の戦いは、苦しかった。

人々は疲れていた。弓を射る手が震え、矢は外れる。魔鳥の突進は速く、かすめただけで人が吹き飛ぶ。

あわや、掴まれて空へ連れ去られる――そんな瞬間。


「これを!」

誰かがリリアーナの作った薬を投げつけた。

刺激臭の袋がはじけ、魔鳥は顔を背ける。

毒を塗った刃が振るわれ、痺れを起こした魔鳥は地に倒れた。


人々は配られた薬を使った。

……何としても、助かるために。


その日、怪我人は多数に及んだ。

爪に切り裂かれた兵士、翼の一撃で吹き飛ばされた農夫。

だが、死者は出なかった。

奪われた家畜は12頭……それでも、今までに比べれば信じられない快挙だった。


夜。

戦いを終えた人々に、リリアーナが調合した治癒薬が渡された。

深い傷口がじわりと塞がり、痛みが和らぐ。兵士達は思わず顔を見合わせた。

「よく効く……」「これで明日も戦える……」


しかし。

矢を射続けたエドモンドの顔には、深い疲労の影が差していた。

誰よりも前に立ち、誰よりも多くの魔鳥を落とし続けた青年の背は、夜の灯りに沈んで揺れていた。



五日目の朝。

まだ空が白む前、リリアーナは目を覚ました。隣に横たわるエドモンドの顔に目をやり、息を呑む。

その顔には深い疲労の色が刻まれていた。頬はこけ、目の下には隈が濃く残っている。


リリアーナは慌てて薬の鞄を漁った。乾いた薬草、瓶に入った粉末。疲労を癒す薬草を探し出し、湯に溶いて差し出す。

「飲んで。…少しは、楽になるはず」

エドモンドは受け取ったが、苦笑を浮かべた。

「……気休めだろう」

「……それでも。…もっと休めない……?」

「駄目だ。まだ、魔鳥はいる」


彼は立ち上がろうとする。

リリアーナは慌てて腕を掴んだ。

「待って。もう少し横になって…お願い」

だが、エドモンドは首を振る。

「俺一人が抜けたら、全員が危うくなる」


「……だったら、私も、行く」

リリアーナは静かに告げ、決意を瞳に宿した。


外に出ると、兵士たちも疲弊していた。足取りは重く、弓を構える手に力がこもらない。

そんな彼らの横を通り過ぎる、一人の姿があった。矢の職人だ。

目の下に濃い隈、頬は削げ落ちるほど窶れていた。

「矢だ」

無言で差し出された束。魔石の矢だ。

「……ありがとう」リリアーナは職人に頭を下げた。


やがて鐘が鳴り響く。

魔鳥が来る。


空を裂く羽音、降り注ぐ影。

リリアーナは弓を構え、矢を放つ。

一日休んだ身体は軽い。視界は澄み、狙いも正確だ。魔石の矢が、凄い。

次々と魔鳥が落ちていく。

「まだ、いける」

「まだ、矢がある……」

彼女は必死だった。


だが、あと少しで夕方という頃、一瞬の油断があった。


「危ない!」

エドモンドが叫び、リリアーナを突き飛ばす。

次の瞬間、巨大な影が急降下し、彼の肩を鋭い爪で切り裂いた。鮮血が飛ぶ。


「……!」

リリアーナは急ぎ、弓を引き絞る。

再び舞い降りる魔鳥に狙いを定め、矢を放つ。

魔石の矢は真っ直ぐに突き進み、魔鳥の胸を貫いた。墜落する巨体。


彼女はすぐに駆け寄り、エドモンドの体を物陰へと引きずった。

治癒薬の瓶を震える手で開け、傷口にかける。

じわりと血が止まり始めるが、傷は深く、完全には閉じない。

「お願い、お願いだから……」

リリアーナは必死に止血し、包帯を巻き、魔力を込めて治癒を試みる。

エドモンドは固く目を瞑ったまま荒い息をする。


「指揮は……代行をお願いします!」

彼女は近くの兵士に叫び、エドモンドを家の中に運び入れる。

寝台に彼を横たえ、強く手を握った。


「治って……お願い、治って……」

涙が次々と溢れ、止まらない。リリアーナはひたすら願った。無意識の魔力が、エドモンドの身体に流れる。


疲れと緊張で限界に達したリリアーナは、そのままエドモンドの手を握って眠りに落ちていった。



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