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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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魔鳥飛来、二日目

二日目。再び、警報の鐘が鳴り響いた。

空を覆う影。羽ばたく度に空気を切り裂く轟音。人々は屋根の下へ、家畜は小屋に押し込まれ、弓を持つ兵士たちが配置についた。


リリアーナは昨日よりも落ち着いていた。

恐怖は消えてはいない。それでも、心臓の鼓動を受け入れるように深く息を吸い、矢を番える。


魔石の矢は十数本。すべてを無駄にはできない。

「……はっ!」

放たれた矢は、翼を切り裂き、胸を貫き、次々と魔鳥を落としていく。全弾命中。昨日よりも確かに手応えを感じた。


だが矢筒はすぐに空になる。残るは普通の矢。

今日のリリアーナは恐れず、魔鳥が急降下してくる刹那を狙った。羽音と気配が迫る。目ではなく、肌と心臓でその動きを読む。身体強化を無意識にかける。


――ヒュッ!

矢が放たれ、胸を射抜かれた魔鳥が絶叫と共に墜落する。

「……っ!」リリアーナの手が震える。しかし、その震えの中でもう一度身体強化をし、再び弓を引き絞った。


彼女のすぐ少し後方、エドモンドも大弓を構えていた。

「後ろは任せろ!」

彼はリリアーナの死角を正確に補い、飛び込んでくる魔鳥を迎撃する。矢は重く、鋭く、次々と獲物を射落としていった。


二人の息が合い、矢が重なる。


魔鳥達は落ちた仲間の所へ降り立ち、貪るように食べた。……食べている間は、襲って来ない。

……腹の膨れた魔鳥は、飛び去っていく。


人々は襲ってくる魔鳥に、矢を放ち続けた。……ついに魔鳥たちは散り散りに去っていった。


夕暮れの村。地面には数羽の魔鳥が横たわっていた。

兵士が確認の報告をする。

「被害――家畜も、人も、無し!」


その言葉に、どよめきが起こる。

「……初めてだ」

「被害が……出なかった……!」


張り詰めていた顔に、ようやく笑みが灯った。

疲れきった笑い声。それでも、それは確かな希望の音だった。


リリアーナは弓を下ろし、息を大きく吐いた。エドモンドと視線が交わる。言葉はなかったが、互いにわずかに笑った。


だが、誰もが知っている。

――まだ、明日も。明後日も。

戦いは続くのだ。




三日目。

鐘の音が響き、再び空を覆う影が舞い降りてきた。


リリアーナは矢筒を確かめる。魔石の矢は昨日と同じ数。しかし、普通の矢を多めに背負ってきた。


「来る……!」

彼女の目が空を射抜く。

魔鳥の影が、迫り、降下する。


リリアーナの世界には、もう周囲は存在しなかった。

人々の声も、土を蹴る音も、すべて霞む。

ただ空。翼の影。風のざわめき。


――ギィンッ。

矢が放たれる。

的確に翼を裂き、喉を貫く。落下する羽音。

次の矢を、次の矢を――。


彼女の指は止まらない。唇は噛みしめられ、瞳は獲物だけを映している。身体強化の能力は無意識に常に発動……。

汗が額を伝う。腕が震える。

それでも矢は、確かに次々と魔鳥を落としていった。


横で大弓を引くエドモンドの存在すら、いまは霞んでいる。

ただただ、空と矢と心臓の鼓動だけが、リリアーナを動かしていた。


やがて、魔鳥の群れが去る。

今日も、村は守られた。


しかし――。

リリアーナは矢を拾う気力もなく、膝をついた。

周りを見ていなかった自分にようやく気づくが、それを悔やむよりも、ただ心と体が空っぽだった。

……魔力を使い過ぎたのも、あった。


夜。

炊き出しの鍋から分けられた、熱い粥を口にする。

味も匂いも、よく判らなかった。

ただ、温かさが喉を通り、胃に落ちた。


「……」

器を置いたリリアーナは、その場に横になると、すぐに眠ってしまった。

周囲のざわめきや、焚き火のぱちぱちという音さえも届かない。


必死の三日目。

彼女は、夢を見る間もなく眠り続けた。




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