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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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魔鳥飛来、初日

その日は、唐突に訪れた。

領内に警報の鐘が鳴り響く。オルフェウスが昔設置した鐘――人々はそれを聞くと、すぐに家畜を小屋へ追い込み、自らは屋根の下へと身を隠す。幼子の泣き声と、牛馬のいななきが遠くで混じる。


リリアーナはいつも闘える服装をしていた。いつ、来襲があっても良いように。


弓を扱える者たちと兵士は外へ出る。エドモンドも、リリアーナも外に出る。

迎えるのは、町の広場。至るところに物陰がつくってあり、直ぐに避難できるようにしてある。


彼らの目は空へ。

矢が届くまで、待つ。無闇に放てば無駄になる。矢は貴重なのだ。


羽音。空が震える。

魔鳥の群れが現れた。鋭い目が下を見据える。人を見つけると「餌だ」とばかりに、凄まじい速さで急降下してきた。


一瞬の迷いが、死に繋がる。

狙うのは、頭か、胸の白い部分……。

しかし、リリアーナの心臓は早鐘を打ち、指先は冷え、背を汗が伝う。足が震えそうだった。

怖い――。


その隣で、エドモンドは表情を固く結び、大弓を構えていた。恐怖を一切見せず、遠くから来る魔鳥を狙う。

エドモンドの弦が震え、大弓が唸る。矢が放たれ、魔鳥の翼を掠める。……魔鳥は落ちない。怒り狂ったように、一直線にエドモンドへ急降下してくる。


リリアーナはとっさに弓を引いた。

手に握るのは、あの魔石の矢。指が冷たく、震える。それでも狙いを定め、息を止め――放つ。


ヒュッ――。

矢は魔鳥の胸の白い部分に深く突き刺さり、鋭い鳴き声を残して地へと墜ちた。


しかし安堵する暇もなかった。

落ちた魔鳥に、仲間たちが群がる。嘴で突き、肉を抉り、羽音が血の臭いをかき混ぜる。飛べぬ仲間はもう仲間ではない。彼らにとってただの食料だ。


その光景に、リリアーナは息を呑んだ。

空では、まだ多くの魔鳥が旋回し、冷たい光を放つ瞳で、次の獲物を狙っている。



リリアーナの手元には、あの魔石の矢が十数本だけ。

矢筒の中にあるそれは、強い力を秘めている。だが数は限られていた。初日に全て使い切る訳にはいかない。明日、明後日…と必要な分は置いてきた。残りはただの矢。撃てば、確実に当てなければ意味がない。


「リリアーナ、近寄りすぎるな!」

エドモンドの声が、空気を切る羽音に混じって響く。


二人は、距離を空けて立っていた。

弓は近過ぎると、危険だ。互いに狙う角度を外しつつ、だが互いの背を守るように構える。


大弓を引くエドモンドの姿は、鋼のように揺るがない。彼の矢は遠方から迫る魔鳥を確実に削ぎ落とす。だが一羽、二羽と群れを抜けた魔鳥が、牙を剥いて低空に突っ込んでくる。


「――っ!」

リリアーナは矢をつがえ、狙いを定めた。胸が早鐘のように鳴る。魔石の矢が魔力を吸い、指先に重さがかかる。


ヒュン――。

矢が走り、魔鳥の首を射抜いた。血飛沫が舞い、地へ叩き落とされる。


「見事だ!」エドモンドの低い声。

だが次の瞬間、別の魔鳥がリリアーナの頭上を狙って急降下してきた。


「リリアーナ!」

エドモンドの大弓が唸り、放たれた矢が空を裂く。魔鳥は頭を貫かれて軌道を外れ、地に叩きつけられた。


リリアーナは振り返り、彼と目を合わせた。

彼の鋭い瞳と、自分の震える瞳が重なる。言葉はない。ただ頷き合う。


背を合わせず、あえて距離を空ける。

けれど、互いを信じて矢を放つ。

一人なら怯えてしまう戦場でも、二人なら――恐怖を押し殺せる。


残りの魔石の矢は、あと七本。

リリアーナは矢筒を抱きしめるように握り直し、再び弓を引いた。


頭上では、まだ影が旋回していた。

そして二人は、ただ黙って、次の瞬間を待った。


――戦いは、まだ始まったばかりだ。


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