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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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オルフェウスの夢

オルフェウスは夢を見ていた。

まだ幼き日の記憶――父も母も若く、領地は確かに栄えていた頃のこと。


その冬は、かつてなく長く、冷たく、人々の命を容赦なく奪った。雪は春を閉ざし、遅れながらもきた夏……そこに待っていたのは安らぎではなかった。


ある日のこと、巨大な影が落ちた。人々が見上げると、羽を広げた魔鳥が舞い降り、人を、家畜を、鉤爪に掴んで空へと消えた。

翌日にはその数が増した。

逃げ場はなかった。家に閉じ籠もれば、魔鳥らは天から巨石を落とし、屋根を砕いた。嘴と鉤爪で器用に穴を広げ、血と肉を求めて家を荒らした。


人々は恐れた。だが膝を折ることはなかった。

男は弓を引き、剣を握り、夜空に影を見れば矢を放ち、地に降り立てば剣を振るった。

それでも犠牲は尽きなかった。


最初の年は、それで終わった。

「嵐は去った」と人々は信じようとした。だが翌年……倍以上の魔鳥が襲いかかり、七日のあいだ領地を焼き尽くすがごとく荒らした。


そしてその冬。北より狼型の魔獣が雪を割って押し寄せた。

かつては、夏に魔鳥の餌とされ、数を抑えられていた魔獣。今年は、増えすぎたのだ。飢えに駆られた群れが村を包み、凍える夜を赤く染めた。


夏は空より魔鳥が襲い、冬は地より狼が群れる。

民は剣を携えて戦い続けた。矢は折れ、剣は欠け、それでも抗うほかはなかった。

だが血は積み重なり、犠牲は終わらなかった。


オルフェウスは夢の中で見ていた。

焚き火の影の中で、父が肩を震わせ、唇を噛みしめながら洩らした言葉を。

「なぜ……なぜ我が代に、このような災厄が……」


強き領主であろうとした男が、ただひとりの父として声を震わせる姿。

その痛みが、幼きオルフェウスの胸を深く刻んだ。


オルフェウスは、青年になった。旅人や商人を見つけるたびに問いかけた。

「魔鳥を知っているか。魔獣を見たことはあるか。」


ある晩、焚き火を囲んで休んでいた旅人が応じた。

「魔鳥か……それは“鎧鷲”かもしれん。」


旅人の声は低く、炎に照らされた瞳が険しく光った。

「奴らはもっと北に棲む。だが餌を求めて季節ごとに渡ってくる。羽根の間には鱗を持ち、矢も剣も弾く。簡単には傷つかん。だが――」旅人は掌をひらりと返し、火を指した。「頭と胸の白い部分、そこだけが柔らかい。狙うならそこだ。肉食で、凶暴で、そして厄介なことに、人の行いを観察し学ぶ知恵を持っている。」


オルフェウスは息を呑んだ。焚き火の揺らぎが、あの翼の影を思い出させた。


別の商人が口を挟む。

「魔獣の方は、“雪豹紋”の群れだろうな。おそらく」


商人は肩をすくめ、声を潜めた。

「生態は狼に似ている。だが奴らはさらに北の氷原に群れを成して棲み、群れで狩りをする。一匹一匹はそれほど強くはない。だが数を揃え、互いに連携して獲物を追い詰める。逃げ道を塞ぎ、仕留めるまで群れ全体で動く。だからこそ厄介なのだ。人の村一つくらい、あっという間に囲まれるだろう。」


旅人と商人の言葉は重く、静かに夜の闇に沈んでいった。

オルフェウスは拳を固めた。魔鳥も魔獣も、ただの獣ではない。領地を脅かすのは、飢えた影ではなく、知恵と組織を持つ敵なのだと。


やがて夢は途切れ、目覚めの暗闇に置き換わる。

父は狼型の魔獣との戦いで受けた傷が癒えぬまま、命を落とした。

そして、同じ重荷がオルフェウスの肩にのしかかった。


次は、若き息子に、あまりに重いものを残さねばならぬ。

父が味わった胸裂ける苦しみを、今はオルフェウスが噛みしめていた。


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― 新着の感想 ―
カラスみたいに賢い鳥類で巨大しかも鎧みたいな鱗は純粋にやべえな・・・てか国は何してんだ
燃やすがごとくは比喩表現。
>七日のあいだ領地を焼き尽くすがごとく ん?魔鳥って炎系の魔法または攻撃を使うの?
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