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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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リリアーナ本を読む

その夜リリアーナは、自室の机に古びた薬草の本を広げていた。魔鳥を狩りたい、でも用意が必要……、と思いつつページを捲る。古い紙と乾いた草の香りがふわりと漂う。


「……魔獣に遭った時の対処……」

小声で呟きながら、指で文字を追う。


――刺激臭を放つ匂い玉。

――刃に塗れば血を腐らせる毒。

――粉にして煙のように撒けば、神経を麻痺させる薬。


「……これ、渡りの魔鳥だけじゃなくて、冬の魔獣にも効くのでは……?」

思わず息をのむ。


心臓が高鳴った。

「作ろう……少しずつ試してみよう……!」


夢中で読み進めていると、不意に「甘青草」の項が目に飛び込んできた。

「……え、挿し木で増える? ……庭に植えられる?」

思わず笑みがこぼれる。

他の薬草も出来ないのか、探す。


ページを捲る手は止まらない。

しかし、気がつけば蝋燭の炎が小さくなり、外の風が夜更けを告げていた。


翌日から、リリアーナは調合室に籠もりきりだった。

朝から晩まで薬草を刻み、煮出し、粉を挽き、薬を玉に丸め……時折、部屋の外まで薬草との匂いが漂っていた。


四日目。ようやく姿を見せたリリアーナは、少しやつれながらも瞳だけは輝かせていた。


「魔獣対策の薬がいくつか出来たから、実際に確かめたいの…。森で」

言葉は淡々としていたが、声の底に熱があった。


エドモンドは即座に首を振った。

「危険だ」


「でも、検証は必要よ。机の上じゃわからない。魔鳥も狩れたらいいし、薬草も欲しい」

……メインは魔鳥だが。


「兵士に任せればいい。彼らは訓練を積んでいる」


リリアーナは真っすぐに見返した。

「……作った人は、確認する義務があるわ」


その瞳には一切の揺らぎがなかった。

折れない。エドモンドもまた、よく知っていた。付き添いたいが、時間がない。誰かを付けるのも難しい。


しばし沈黙の後、彼は深く息を吐いた。

「……わかった。だが条件がある」


「条件?」


「森は深くまで入らない。そして、治療薬を持って行く。自分の身を守る術を、全て用意してから」


リリアーナは目を瞬き、それから小さく笑った。

「……有難う」


リリアーナはすぐさま調合室へ駆け込んだ。

古い本を開き、机の上に瓶と薬草を並べ、刻み、煎じ、冷まし、魔力を流して瓶に詰める。

二時間後には、小さな瓶がいくつも並んでいた。淡い緑に光る液体は、怪我の治癒の力を宿していた。…北の国の薬だ。


「……出来た」

リリアーナの頬がぱっと明るくなる。

薬作成の積み重ねで、彼女の腕はまた一段と上達していた。


軽装に着替え、腰にナイフと小瓶を提げ、弓を背にかける。

髪を後ろでまとめて、リリアーナは軽やかに振り返った。


「行って来る!」


あっさりと言い残し、彼女は城を後にした。


残されたエドモンドは、深く椅子に沈み込む。

拳を握り、唇を噛みしめた。


「……なぜ、止めなかったんだ、俺は」


理屈では理解している。

彼女はもう、止めても動き出す。

けれど、胸の奥で渦巻くのは、後悔と不安と――彼女への誇らしさがない交ぜになった感情だった。


窓から見える森の影へ、エドモンドの視線は離れなかった。


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