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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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見慣れない矢

リリアーナが北国に来て2ヶ月が過ぎた。弓の練習は毎日続けた。エドモンドは次期領主としての仕事があり、常に一緒に練習とはいかない。腕を、頬を、耳を、傷つけ血を流しながらも決してリリアーナは練習を止めようとはしなかった。漸く、的に当たる回数が増えてきた。


ある日、リリアーナは矢を見ていた。矢といっても種類がある。狩猟用、大弓用、戦闘用の矢……その端に一本だけ、見慣れないものが混じっている。


「……羽根の色が違う?」

白でも茶でもなく、淡い青みと銀色を帯びた羽根。矢じりは鉄ではなく、石を割ったような質感をしていた。

なぜか心がざわついた。


翌日。

エドモンドが大弓の練習をしている場所に、その矢を持って行った。


「あの、これだけ違うの。どうして?」


エドモンドは矢を受け取り、しげしげと眺める。

「……俺も知らないな。誰か知っているか?」


近くで弓を引いていた兵の一人が声をあげた。

「ああ、それか。職人が置いていったやつだ。試作品だって言ってたが……他のと変わらんだろ」


エドモンド、矢を放ってみる。普通だった。


リリアーナは首を傾げ、矢を手に取る。

「……試してみて良い?」

「ああ」


弦を引き、矢を番える。

――その瞬間、矢が脈打つように魔力に馴染んだ。

リリアーナは驚きつつも、自然と魔力を矢に流し込んでいた。


放たれた矢は、空気を切り裂く音も澄んでいて、真っ直ぐと的の中心に突き刺さった。


「……!」

あまりの手応えに、リリアーナの心臓が高鳴る。


エドモンドは目を丸くして言った。

「リリアーナ、上手くなったな」


「違うの」リリアーナは首を振った。

「この矢が……すごいの。魔力が、馴染む……」


矢を抜き取り、胸に抱えながら彼女は決意に満ちた瞳で言った。

「職人に聞きたい。この矢について、知りたいの……」



三日後の朝、エドモンドがリリアーナを呼んだ。

「矢を作った職人がわかった。領内に住んではいるが、端の方だ。……気になるのなら、行ってみるか?」


リリアーナの瞳がぱっと輝いた。

「行きたい!」

「そうだろうと思った。今日は空けてあるんだ」



用意されたのは馬一頭。

リリアーナは不思議そうに首を傾げる。

「え? 馬車じゃないの?」


「道が悪い。馬車だと遠回りになるし、揺れて余計に疲れるだけだ」

そう言って、エドモンドは当然のように彼女に手を差し伸べた。


「一人で馬に乗れるか?」


「…乗れない。学院でも、授業でなかったし……」

むっと口を尖らせながらも、手を取って鞍に乗せて貰う。


エドモンドの前に座ると、思ったよりも高く揺れ、体が自然と彼に預けられた。

「落ちないように、しっかり掴まれ」


「……はい……!」

リリアーナは必死にしがみつく。


背中越しに伝わる体温。心臓が忙しく跳ねた。耳迄赤くなるリリアーナ。


エドモンドは小さく笑みを浮かべる。

(……可愛い。馬車にしなくてよかった)



馬は二人を乗せ、ゆっくりと領内の道を進んでいった。地面は全体に若草が顔を出している。


「夏に入ったの……?」

リリアーナが小さく呟いた。


「そうだ。ここでは春はあっという間だ」

エドモンドの声は落ち着いていて、どこか寂しげでもある。


「それでも……花はちゃんと咲くんだね」

リリアーナは揺れる馬上から、道端に咲く小さな黄色い花を指差した。

「ほら、あんなに小さいのに、頑張って咲いてる」


「……そうだな」

エドモンドはその言葉に頷き、ちらりと彼女を見た。

(……リリアーナみたいだ)



馬は短い春の景色を踏みしめながら、ゆっくりと職人の家へ向かって歩を進めていった。



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