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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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リリアーナ、森へ行く

翌日。

エドモンドに案内され、リリアーナは東の森へ足を踏み入れた。

夏へ向かう北国の森は空気が澄み、ひんやりと冷たい。けれど足元には小さな花々や草が芽吹いていて、薬草好きのリリアーナには宝の山に思えた。


「これは“萌葱葉”。解熱に使う」

エドモンドが一株を指差す。


「これは“山羊草”。乾かして煎じれば胃に効く」

次々と説明されるたび、リリアーナは「はい!」と返事しながら手帳にせっせと書き込む。文字は走り書きでも、後で復習するための大切な記録だ。


「……あった、甘青草」

エドモンドが嬉しそうに指さした。


「これだよ!」

リリアーナも身を乗り出す。葉を一枚摘み取って、口へ運んだ。


――苦っ!!


「にっ……苦いっ!」

顔をしかめてぷんぷんと怒るリリアーナ。


横で見ていたエドモンドは、こらえきれず吹き出した。

「だから言ったろう、生じゃ食べるなって」


「……知識として分かっていても、実際に試してみたいんです!」

手帳に“生は苦い!味見は駄目!”と強調して書き込むリリアーナ。


都から持ってきた薬草は森では見つからなかった。けれど、エドモンドは別の葉を示して言う。

「リリアーナが探しているのは“銀露草”だろう? この辺りじゃ見つからないけど、代用ならこの“白霜草”が使える。効能は弱いが、量を増やせば十分に働く」


「ほんと? ……ありがとう!」

彼の丁寧な説明に、リリアーナの瞳がますます輝いた。


その帰り道、二人は町の薬屋にも立ち寄った。

棚に並ぶ乾燥薬草を見てリリアーナは再び目を丸くし、必要なものを一緒に選んで購入する。


夕暮れ、荷袋に薬草をいっぱい詰め込んで城への帰路につく。

リリアーナは歩きながら、ふと小さく笑った。


――知らない土地でも、こんなにたくさん学べる。



リリアーナは調合室の机に薬草を広げ、手帳を開きながら首を傾げていた。

「……似ているけど、都で学んだ種類と葉の形が少し違う。こっちのは薬草なのかなあ……」


困り果ててエドモンドに相談すると、彼は黙って調合室の本棚に向かい、奥から一冊の古びた分厚い本を取り出した。革の表紙はすっかり色褪せ、留め具も錆びついている。


「これは……?」

「先代に、腕のいい調合師がいたんだ。薬草の知識や調合法を、全部ここに書き残していったらしい。ただな……」

エドモンドは本を軽く叩いて、苦笑する。

「普通の人は、最後に“魔力を注ぎ込む”っていう工程ができない。だから、この通りには作れなかったんだ。この本も、ずっとここで眠ってた。悪い、ずっと忘れていた」


「見てもいい?」

リリアーナが両手を胸の前で組むようにして訊ねると、エドモンドは頷いた。


開いた瞬間、リリアーナは目を見張った。

――まるで薬草辞典!

挿絵とともに、葉の特徴、育つ季節、乾燥の仕方、組み合わせによる効能まで事細かに記されていた。さらにページをめくれば、魔獣避けや治癒薬の調合法が、丁寧な解説つきで並んでいる。


「すごい……! こんなに詳しく……!」

彼女は感動に打たれたように本を抱きしめた。瞳はきらきらと輝いている。

「ねえ、今よりも効果のある魔獣避けとか、もっと色々作れるかもしれない! 試してみてもいい?」


勢いに圧されそうになりながらも、エドモンドは少し笑って肩をすくめた。

「……リリアーナがそう思うなら、やってみるといい。ただし」

真剣な声に、リリアーナは思わず背筋を伸ばす。

「無理をしない程度にな。材料も体力も、限りがあるんだから」


「……はい!」

薬草と古い本を前にして、リリアーナの胸は高鳴った。

――未知の土地、未知の知識。ここでなら、もっとたくさん学べる!



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― 新着の感想 ―
この先代の調合師、凄い名人ではないですか。
 何れは『北限の聖女』とか云われそう(笑)
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