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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第1章

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王城での試し

リリアーナは城門をくぐりながら眉をひそめていた。

(……なんで、私? 課外学習の確認って言うけど、わざわざ城まで呼ぶ必要があるの?)


迎えたのは、王の側近と、屈強な鎧姿の男――騎士団長だった。

側近は柔らかい笑みを浮かべ、言葉を選ぶ。


「貴女の名は、近頃城内で耳にします。課外学習での活躍ぶりとか。今、女性騎士は少なく、貴女の事を是非とも知りたい」


リリアーナは息を呑んだ。

(……やっぱり、ただの“確認”じゃないわね)


応接間で、リリアーナのこれまでの経歴を問われる。

男爵令嬢として育ったこと、剣を冒険者に習い磨いてきたこと、魔獣についての知識。

騎士団長は無骨な顔にわずかな驚きを見せた。


「……冒険者か。魔獣にも詳しいな」


やがて稽古場に移され、試しの立ち合いが行われた。

剣を構えた騎士団長と向き合うと、空気が張り詰める。


「遠慮するな。全力で来い」


リリアーナは初手から魔力をのせて打ち込んだ。

数合、剣と剣が激しくぶつかる。

しかしやはり団長の余裕。最後には剣を弾かれ、息を切らせて立つことになった。


「悪くないな」

団長は短く告げた。その口元には、確かな評価があった。


だが、試験は終わらなかった。

側近が一歩進み出る。


「……最後に。剣も薬学も確かですが、もう一つ試したい。歌です」


リリアーナは目を瞬かせる。

「歌……?」


「はい。親善の場でも役立つ才です。ご安心を、リュートもご用意しました。ただ、弾き慣れぬようなら、声だけでも」


リリアーナは困惑した。

なぜ歌まで? 誰の差し金なのか――不信感は深まる。

だが、騎士団長や側近の視線は真剣で、拒む余地はなかった。


彼女の知らぬところで、王が物陰に隠れて静かにその様子を見守っていた。


差し出されたリュートを手に取り、リリアーナは目を丸くした。

古びた自分の楽器とは比べものにならない。磨かれた木肌は光を返し、弦を爪弾けば澄んだ音が広がった。


「……癖はありますけど、いい音です。きらきらしてる」

思わず感嘆の息を漏らし、彼女は顔を上げた。


「曲は……何をお聞きになりたいですか?」


「――悲恋の歌を」

側近が迷いなく指定する。


リリアーナは一瞬迷った。英雄の歌なら得意だが、悲恋の歌は胸の奥を削られる。

だが逃げ場はない。彼女は姿勢を正し、指先で和音を鳴らした。


静かな旋律に乗せて、少女の声が空気を震わせる。

「出逢いは花のように、別れは刃のように……」

恋に破れた乙女の痛み、届かぬ想いの切なさ――

その声は澄みきり、聴く者の胸を締めつけた。


側近は眼を閉じ、騎士団長は無言で顎に手を当てた。

奥に隠れていた王もまた、黙して耳を傾けていた。


やがて歌は終わり、沈黙が場を包む。

リリアーナはリュートを抱え、ぎこちなく息を整える。


リリアーナの歌が終わると、広間はしばし静まり返った。

やがて側近が柔らかな笑みを浮かべ、軽く手を叩いた。


「……見事でした。学院での評判に違わぬ出来栄えです」


騎士団長も「ご苦労だったな」と短く労いをかける。

リリアーナは緊張を解かぬまま、ぎこちなく礼を取った。


「ありがとうございます……」


その場はそれで終わり、彼女は退出を促される。


――広間に残されたのは側近と騎士団長だけ。

王が物陰から出てきた。


「……街でなら通るだろう。人を惹きつけるものはあった。だが――まだ浅い。宮廷に出すには足りぬ」


「だが……将来性はあるな」



リリアーナは帰る前、側近に呼び止められる。

「リリアーナ嬢、ひとつ伺ってもよろしいですかな」


「……はい?」


「貴女の将来の夢は?」


唐突な問いに、リリアーナは目を瞬いた。

剣を? 薬を? 歌を?

どれも胸にあるが、はっきり「これ」と言えるものは何もない。


「……わかりません」


小さな声で答えると、側近は優しく目を細めた。


「それで良い。今はまだ、考える時期なのでしょう。

 急ぐことはありません――だが、よく考えることです。

 いずれ道を選ぶのは、貴女自身なのですから」


リリアーナは小さく頷き、胸の奥がざわつくのを感じた。



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男爵令嬢ではなく孤児?どちらの設定でしょうか?
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