王女、王に進言する
謁見の間。
黄金の装飾に囲まれた広間で、王女クラウディアは優雅に膝を折り、声を響かせた。
「父上――。報告がございます。学院におきまして、とある生徒が注目を集めております」
王は重々しく頷いた。
「ほう。例の、歌を披露した優待生か」
クラウディアは待っていた、とばかりに微笑んだ。
「はい。リリアーナと申します。彼女は剣術にも秀で、調剤の才もございます。さらに、あの歌声は人の心を打つ。外交の場に連れていけば、きっと良い結果をもたらすでしょう」
彼女はわざと声に熱を込め、言葉を飾った。
「彼女にとっても大きな経験となりましょう。学び、成長し……必ずや父上に感謝いたしますわ」
にこやかに、しかし瞳の奥に冷たい光を潜ませて。
玉座に腰かける王は、しばし沈黙した。
広間の空気が張り詰める。
やがて王は側近を振り返った。
「……まずは調査だ」
「はっ」側近が即座に答える。
王は再び娘を見た。
「確かに才ある者を国に活かすは良いこと。だが、外交に連れて行くとなれば、相応の覚悟と実績が必要だ」
クラウディアは一礼し、笑みを深めた。
「……勿論です」
(ふふ……調査で彼女の力が認められれば、舞台は整う)
王女の胸には、黒い炎がさらに燃え広がっていった。
王城・執務室。
机に積まれた羊皮紙を、王はゆっくりと繰っていた。
「剣術……力量は確か。薬学……知識は豊富。常に一人……。王女が言うほど功績が抜きん出ているとは思えぬな」
王は報告書を指で叩いた。
側近が口を開く。
「陛下。王女殿下は――リリアーナ嬢と親しいユリウスを思慕しておられます。あのお方の目には、彼女がどうしても“邪魔”に映るのでしょう」
王は小さく鼻を鳴らす。
「浅はかな……。それでこの嫌がらせか」
重々しい沈黙が落ちる。
だが次の瞬間、王は視線を側近から外し、窓の外を見やった。
「……だが、歌声の報告は気になる」
側近が片眉を上げる。
「魔力を帯び、人心を揺さぶる歌。確かに」
「陛下……また“自分は影”でお試しになるおつもりですか」
王は口の端をわずかに上げた。
「はは……余は、己の耳で確かめねば納得せぬ性分よ」
「よろしいでしょう。登城の理由など適当に作れます。学業優秀者として将来の話を聞く、あるいは薬学の才を買って王室御用達の薬師の手伝いの打診、課外学習における活躍の確認…」
王は頷いた。
「うむ……よし。然るべき時に城へ呼べ。その時、歌を試す」
「畏まりました」
側近は答える。
王の眼差しには、権謀術数もあるが――真実を知りたい、という好奇心の光も宿っていた。




