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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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アグネッタは横になっていた

ラニアが、静かにリリアーナの隣へ来た。

「……少し、手が震えてる」

囁くような声だった。

「緊張してるなら、手伝ってあげる」

そう言って、ラニアは彼女に触れた。

触れた瞬間、流れ込んできた魔力に、リリアーナは息を呑んだ。

ラニアの魔力が、彼女の中へ入り込み――

本来の血の働きを妨げている“異物”だけを、選ぶように消していく。

……わかる。

壊している。

でも、全部じゃない。

必要なものには、一切触れていない。

……こんなこと、できるの?

一体、どうやって……?

「リリアーナは、良くなるように、するんでしょ?」

ラニアは、いつもと変わらない調子で言った。

……そうだ。私は、壊すことはできない。

なら――血を、正しく作る力を。

本来あるべき場所を、育てる。

多分、それが……今できる、最善。

リリアーナは、彼女の背中にそっと手を当てた。

血が生まれる場所。

背中の、ここ。一番、大きいと思う所。

集中して、魔力を流す。

ラニアの魔力が、異常を壊し、自分の魔力が、正しいものを育てていく。

……ラニア、すごい。

“変なのだけ”を、迷いなく壊していく。

それは、私よりもずっと、難しいことなのでは……?

「……まだかな」

扉の外から、男の声がした。

「僕は、終わり。リリアーナも、終わろう」

ラニアが言う。

二人は、同時に手を離した。

リリアーナは、全身が汗で濡れていた。

息も荒い。

……でも。

ラニアも、うっすらと汗をかいている。

……ラニアが?

いつも余裕そうな、あのラニアが?

リリアーナは、患者の様子よりも、そちらの方が一瞬、気になってしまった。

アグネッタが、二人にハンカチを差し出した。

「汗を拭きなさい」

そうして、女性を起こし、あらかじめ調合してあった薬草と水を飲ませる。

「……お入りください」

アグネッタが言う。

男が、部屋に入ってきた。

「どうなのだ」

「今のところは、何とも言えません」

アグネッタは、落ち着いた声で答える。

「彼女は、重い病です。即効薬はありません。この薬を、毎日。無くなるまで飲ませてください――」

その瞬間。アグネッタが、胸を押さえ、膝をついた。

「師匠!」

リリアーナは、思わず駆け寄った。

「……少し、胸が痛んだだけよ」

苦笑しながら、アグネッタは言う。

「私も、年寄りなのだから」

「でも、顔色が……」

リリアーナの声が、震えた。

「……見苦しいところを、お見せして申し訳ございません」

アグネッタは、すっと立ち上がった。

その背中は、いつもと変わらず、凛としていた。


ラニアは、静かにアグネッタへ歩み寄った。

そして、そっとその手に触れる。

「……無理は、しないで」

アグネッタは一瞬、目を見開いた。

だが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻し、穏やかに頷く。

「ええ。そうするわ」

そのやり取りを最後に、リリアーナたちは屋敷を辞することになった。

門を出る直前、ラニアがふと思い出したように振り返る。

「明日、ここを発つから。その前に、もう一度挨拶に来てもいい?」

リリアーナも、エドモンドも、顔を見合わせた。そんな話は、聞いていない。

決めた覚えも、ない。

……ラニア、いったい、何を考えているの?

ラニアの視線を受けて、アグネッタは男へ問いかける。

「……よろしいでしょうか?」

「構わない。挨拶程度なら」

男は、特に気にした様子もなく答えた。こうして、リリアーナたちは屋敷を後にした。

誰も口にしなかったが、その背後に残る気配だけが、妙に重く感じられた。


翌日、リリアーナたちは、もう一度屋敷を訪れた。

……これで、本当に最後の別れになる。

結局、自分には何もできなかった。それでも――あの娘だけは、もしかしたら、助かるかもしれない。

そう思おうとしても、胸の奥は重いままだった。

門をくぐり、アグネッタに面会したいと告げる。だが、返事の代わりに現れたのは、昨日の男だった。その顔色は、ひと目でわかるほど悪かった。

「……師匠は?」

言葉にした瞬間、嫌な予感が確信へと変わる。男は、低く、重い声で告げた。

「アグネッタ殿は……亡くなった」

「そんな……。まさか……」

リリアーナの、声が震えた。

昨日は、確かに話をした。立って、歩いて、微笑んでいたのに。

「朝になっても起きて来ないと思い、様子を見に行ったら……すでに……」

エドモンドも、はっと息を呑み、顔色を変える。

「……嘘。嘘ですよね……?」

リリアーナは、縋るように言った。

「見れば、わかる」

男は、うめくように言い、踵を返す。

その背を追い、リリアーナたちは一室へと案内された。そこには、ベッドに横たわるアグネッタの姿があった。

目を閉じ、動かない。血の気の失せた、青白い顔。

――紛れもない、死。誰もが、そのように見えた。

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