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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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島の努力の結晶

翌朝、セラフィーネは自分の目でラディンの様子を確かめた。彼は慎重ではあるものの、確かに自分の足で立ち、部屋の中を歩いている。


「……よかった」


胸をなで下ろすように息を吐き、セラフィーネはそう呟いた。


「私は、あの珠を回収して島に戻るわ」


その言葉に、ラニアが首を傾げて言った。


「あれ?貰おうと思って隠したんだけど。駄目?」


「……あれは島の技術の結晶なのよ。簡単に渡せるものじゃないわ。出しなさい」


きっぱりと言い切るセラフィーネに、ラニアは一瞬だけ不満そうな顔をしたが、


「まあ、いいか。作れそうだし」


と、ぽつりと呟いた。


「……何ですって?」


セラフィーネは聞き逃さなかった。


「とりあえず、隠した場所に案内しなさい」


そう命じると、ラニアは面倒そうに肩をすくめ、


「はーい」


と間延びした返事をした。


ラニアが向かったのは、エドモンドたちと最初に会った場所だった。その辺りだよ、と言いながら茂みをかき分けると、すぐに袋が見つかった。中には、あの透明な珠が無造作に入っている。


「……こんな、無防備に置いておくなんて」


セラフィーネはその場に膝をつき、思わず頭を抱えた。回収して城に戻ると、セラフィーネは我慢ならない様子でラニアに詰め寄った。


「これと同じものが作れるなんて……嘘でしょう」


「なんで、そう思うのさ~」


軽い調子で返すラニアに、セラフィーネは言葉を失い、視線を落とした。


――ラディンを助けるために、どれほど考え続けたことか。島の人々と協力し、何度も試行錯誤を重ねてようやく完成させた珠。小さなものなら比較的簡単だが、大きくなると形が保てず、崩れてしまう。

失敗を重ね、遠回りをしながら、ようやく辿り着いた技術だった。


「……大きい珠は、簡単じゃないのよ」


ため息混じりにそう言ったセラフィーネに、ラニアはふと思いついたように首を傾げた。


「ねえ、エドモンド。魔鳥の魔石、たくさんあるでしょ? 僕に少しちょうだい」


両手を揃えて差し出すその仕草は、どう見ても無邪気な美少女のおねだりだった。


……ちょっと待って。可愛いけど。似合いすぎだけど。そんな考えがエドモンドをよぎった。


「まあ……少しくらいならいいか」


エドモンドはそう言って、保管していた魔石を持ってきた。……貴重な物なのだが、ラニアが本当に出来るのか、という好奇心の方が強かった。


ラニアは両手に魔石を乗せると、じっとそれを見つめた。


「んー」


次の瞬間、魔石がみるみるうちに透明へと変わっていく。


「……っ!」


セラフィーネは思わず息を呑み、目を見開いた。すべての魔石が完全に透明になったかと思うと、ラニアはそれらを手のひらでまとめ始めた。まるで、パン生地をこねて一つにするような、楽しむような動き。


やがて手を止めたラニアの掌には、少し歪ではあるものの――大きさも色も、セラフィーネが持っている珠とほとんど変わらないものがあった。


「……嘘……」


セラフィーネの唇から、かすれた声がこぼれ落ちた。


それは否定でも疑問でもなく、

ただ、現実を受け止めきれない者の、正直すぎる一言だった。


オルフェウスとマルグリットは、思わず目を見開いた。――あの珠の価値が、まったく計り知れない。だが、セラフィーネの表情を見れば、それが途方もない代物であることだけは、嫌というほど伝わってきた。

……ラニアには問題が多すぎる。しかし、その有益性もまた、底が知れない。だからこそ――野に放すことはできない。

その結論だけは、すでに揺るぎないものとなっていた。


作業を終えたラニアは、セラフィーネを見て、満足そうに言った。


「どう? よく出来てるでしょ?」


それは、いたずらを成功させた子供のような、無邪気で楽しげな笑みだった。セラフィーネは唇をきゅっと噛みしめ、何も言えずにその珠を見つめ返した。


エドモンドは静かに言った。

「自分で作れたのなら、セラフィーネのものは別に要らないだろう」


その指摘に、誰もが一瞬、息を詰めた。そこを言うのか、という空気が流れる。だがラニアは、あっさりと頷いた。


「あ、そうだね」


あまりにもあっさりとした返答だった。

しかしセラフィーネだけは、その言葉を別の意味で受け取っていた。ラニアは、わざと自分を、そして島の技術を、価値のないもののように扱っている――そうとしか思えなかったのだ。

セラフィーネは、自分が島から持ってきた珠の入った袋を、ぎゅっと胸に抱き寄せた。


「……珠も戻ったし、ラディンも回復したみたいだから、帰るわ」


感情を押し殺した、温度のない声だった。

「え。もう、戻るの?」


リリアーナが思わず声を上げる。昨日まで、そんな素振りは微塵もなかったからだ。


「ええ。今回は、私の我が儘みたいなものなの」

セラフィーネは苦々しく笑った。


「想定外のことはあったけど……もう大丈夫だと分かったから」

そう言って、セラフィーネはラディンのいるはずの部屋の方へ視線を向けた。

今日はまだ本調子ではなく、ベッドから起きては横になり、また起きては休む――そんな一日を過ごしているはずだ。

その決断に、誰も口を挟むことはできなかった。


「ラディンが本当に回復しているか、確認しなくていいのか?」

エドモンドが問いかけると、セラフィーネは一瞬だけ視線を伏せ、すぐに顔を上げた。


「……そうね。もう一日だけ、滞在させてもらおうかしら。明日、様子を見てからここを出るわ」

その声に迷いはなかった。

そしてセラフィーネは、リリアーナの方を振り返り、わずかに口元を緩める。


「リリアーナ、今夜で最後よ。最高のリュートを期待しているわ」


その言葉を受けた瞬間、リリアーナの背筋がぴんと伸びた。――一週間で、だいぶ昔の感覚は取り戻せた。けれど、まだ足りない。

きっと今夜は、やり直しの連続になる。そんな予感しかなかった。


固まったリリアーナを残し、セラフィーネは静かに部屋を後にした。


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