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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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ラニアはラディンに会った

「もぉ。冗談じゃないか。ただ、少し血を貰っただけだよぅ」


ラニアは、わざと可愛らしい声音で言った。だが、その言葉に反して、部屋の空気は一気に凍りつく。そして、セラフィーネの表情は、まるで絶対零度だった。


「……少し?」


目を細め、低い声で問い返す。


「……ちょっと、多かったかな?」


ラニアは舌を出し、軽く肩をすくめる。まるで悪戯がばれた子供のような仕草だった。


そのとき、エドモンドが堪えきれずに口を挟んだ。


「ラニアとリリアーナがいれば、ラディンが良くなる、と言ったな。それはどういう意味だ?」


その一言に、セラフィーネの反応は早かった。ラニアの肩を掴み、強く揺さぶる。


「何ですって。直ぐに、良くなるの?」


鋭い視線が突き刺さる。

ラニアは少しだけ面倒そうに眉を寄せ、それでも軽い調子で答えた。


「多分、できるよ~」


あまりにも無責任で、曖昧な返答。だが、その言葉に含まれる可能性に、誰もが息を呑んだ。


「今すぐ、しなさい。早く」


セラフィーネは有無を言わせぬ勢いで、ラニアの肩をがっしりと掴んだ。


「えー。でもー」


気の抜けた声でそう言いながら、ラニアはちらりとリリアーナの方を見る。その視線に、嫌な予感が胸をよぎった。


「リリアーナと、前みたいに一緒に暮らせるっていうのが条件」


その言葉に、リリアーナは完全に固まった。


……え。私?


理解が追いつかず、思考が止まる。セラフィーネはすぐさまリリアーナに鋭い視線を向けた。


「リリアーナ、それくらい、いいわよね」


拒否を許さない眼差しだった。

……セラフィーネに、そんなふうに見られてしまったら、断れるはずがない。

かなり酷いです……。


心の中でそう呟きながら、リリアーナは観念したように小さく口を開いた。


「……はい」


「じゃあ、ラディンのところに行くわよ」


セラフィーネは即座に決断し、ラニアとリリアーナの腕を掴んで歩き出した。

引きずられるようについていくリリアーナは、すっかり肩を落としている。一方でラニアは、これ以上ないほど楽しそうな笑顔を浮かべていた。


その様子を、少し離れた場所から静かに見ていたアグネッタも、ため息混じりに後を追う。


……まったく、嵐のような子ね。


そう思いながらも、彼女はこの先に起こるであろう“結果”から目を離すつもりはなかった。



「ラディン、入るわよ」


セラフィーネは返事を待つことなく扉を開け、ずかずかと部屋に入った。


「どうした……」


そう言いかけたラディンは、部屋に入ってきた紫髪の少女を見た瞬間、言葉を失った。


「調子はどうなの?」


ラニアが、まるで世間話でもするような軽い口調で尋ねる。


「最悪だ」


ラディンは忌々しそうに吐き捨てた。


「えー、これくらいで済んだんだから、全然いいと思うけど?」


ラニアは肩をすくめる。


「ふざけるな」


「それより、ラディンを治しなさいよ」


セラフィーネの声は低く、鋭かった。


「……もう。リリアーナ、ちょっとこっちに来て」


ラニアはそう言って、ベッドの傍へと近づく。リリアーナは不安を押し殺しながら、ラニアの隣に立った。


「リリアーナ、ラディンの様子、わかる?」


リリアーナはそっと手を伸ばし、魔力を通してラディンの身体を探った。


――普通の人と、違う。


「……やっぱり、足りないです」


「そうだよ。血がね」


ラニアは当然のように言った。


「リリアーナ、再生してよ」


……やり方が、わからない。知っていたなら、迷わずとっくにやっている。リリアーナは唇を噛んだ。


黙り込んだ彼女を見て、ラニアは促すように言う。


「もっと深く探って。ほら、血が生まれるところがあるでしょ」


言われるまま、リリアーナは魔力をさらに細かく、深く潜らせた。ラディンの身体の奥、奥へと。


「……?」


ふと、意外な場所で確かな手応えを感じる。


「……ここ、なの?」


胸――心臓ではない。血は、心臓で作られているわけではなかったのだ。


リリアーナは息を呑み、その感覚を確かめるように、静かに意識を集中させた。


「気づいた?」

ラニアが静かに言った。


リリアーナは言葉を返せず、ただ息をのむ。

ラニアは確認するように、ラディンの背にそっと手を置いた。


「ほら、このあたりだよね。一部分は」


その瞬間、ラディンの表情が強張った。

ラニアは低く、囁くように告げる。


「リリアーナ、再生だよ」


促されるまま、リリアーナはラニアの手のすぐ隣に自分の手を添えた。胸の奥で不安が渦巻く。


――ラディンの血を、再生する。

……本当に、これでいいの?


「リリアーナ、集中して」


鋭い声が飛び、リリアーナははっとする。


「はい」


深く息を吸い、意識を研ぎ澄ます。

魔力を細く、さらに深く――ラディンの内側へ。それは、骨の中へと入り込む。


――再生。

――ここから生まれる血よ、どうか増えて。


次の瞬間、ラディンは自分の身体の内側が、じわりと熱を帯びるのを感じた。

今まで味わったことのない感覚だった。


――何だ……これは……?


しかし、その変化に最も驚いたのは、周囲にいた者たちだった。セラフィーネ、アグネッタ、エドモンド。三人の視線が、一斉にラディンへ集まる。


青白かった顔色が、みるみるうちに血の気を取り戻していく。リリアーナはしばらく、再生に集中していた。やがて、


「……これくらい、だと思うのだけど」


リリアーナは深く息を吐き、そう呟いた。

全身から力が抜け、強い疲労感が押し寄せる。

ラニアはその様子を一瞥し、軽く肩をすくめた。


「いいんじゃない」


その一言で、部屋の空気は静かに、しかし確かに変わった。

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