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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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セラフィーネとアグネッタの会話

アグネッタの部屋に通されたセラフィーネは、扉が閉まった瞬間に問いかけた。


「どうして、リリアーナを遠ざけたのかしら?」


 アグネッタはいつもの穏やかな微笑みのまま答えた。


「リリアーナに知られたくないことが、あるのでしょう?」


「……どうして、そう思うのかしら?」


 セラフィーネがわずかに表情を曇らせると、アグネッタは肩をすくめるように言った。


「あら、わからないの? あなた、恋している乙女の顔をしているわよ」


 その瞬間、セラフィーネの顔から血の気が引いた。


「……な、何を言っているのかしら?」


 何とか平静を装おうとするが、声が震えていた。


「とぼけても無駄よ。昔のあなたと今のあなたは全然違うんだもの。どうせ、ここに来た理由も“男関係”でしょ?」


 アグネッタの鋭い指摘に、セラフィーネは観念したように小さく息を吐いた。


「……理由があるのよ」


「聞かせてもらえるかしら?」

 アグネッタはにっこりと微笑んだ。その目は、面白い物語の続きを心待ちにする読み手そのものだった。


(どうしてバレてしまったのかしら……)

 内心でセラフィーネは頭を抱えていた。


 しかし、すぐにセラフィーネは言った。


「でも……この話はやっぱりリリアーナの許可を得るべきだと思うわ」


「……なるほど。つまり、リリアーナが関係している。あなたが気にしている男は、リリアーナが好き……ということね?」

 アグネッタはさらりと言った。


「それは、答えられないわ」

 セラフィーネは慎重に言ったが、アグネッタにはその言葉は《はい》と同義に聞こえた。


「まあ、いいわ。詳しくはリリアーナ本人に聞くことにするわ。お互い、色々隠していたし、それは不問にしておくわね」


「ええ……」


「じゃあ、今までのことを全部知りたいわ」

 アグネッタの声は弾んでいた。


 こうして、二人の会話は夕方になるまで続いた。

 元々、旧知の友だったのだ。素性を明かした二人はお互いに話が尽きなかった。


「まさか、セラフィーネが王女だったなんてね」

「アグネッタこそ、名高い調合師だったとは思わなかったわ」


ひとしきり語り尽くしたあと、二人は同時に吹き出して笑った。

男爵領地で過ごした日々は、互いに素性を伏せた“仮の姿”だった。

だが今は、ようやく肩の力を抜いて向き合える。年齢こそ離れているものの、やはり旧友というものはありがたい。


「じゃあ、アグネッタは冬の前に王都へ向かう予定なのね?」

セラフィーネが尋ねると、アグネッタは静かに頷いた。


「ええ、そのつもりよ」


「私は……彼を助け出せたら、島へ戻るわ」


セラフィーネは遠くを見つめるように言った。その横顔に、アグネッタは内心で「ほら、その顔」と思う。

——あらあらまあまあ。本気で恋をしている顔じゃないの。


思わず口元が緩むのを隠しもせず、アグネッタは言った。


「彼のことも、その他の事情も聞けなかったのは残念だけど……とても楽しい時間だったわ」


「私もよ。……そういえば、まだ領主に挨拶していないのだけれど?」


「あら、ごめんなさい。すっかり話し込んでしまったわね。じゃあ、一緒に行きましょう」


そうして二人は並んで歩き出し、オルフェウスのもとへと向かった。

オルフェウスは、セラフィーネ来訪の報せを聞くと、思わず眉を上げた。ずいぶん早い──そう思わずにはいられない。まだ春になったばかりで、泉の水は凍えるほど冷たい。とても、人が入れるような季節ではなかった。


「久しぶりだが、元気そうだな」


オルフェウスが声をかけると、セラフィーネは落ち着いた微笑みを返した。


「ええ。そちらも元気そうね。ところで──明日にでも泉へ行こうと思うのだけれど、人を貸してくれないかしら?」


「……もう行くのか? 水はまだ冷たいぞ」


思わず渋い声が出る。すると、セラフィーネは軽く肩をすくめた。


「対策はしてきたわ。それと……リリアーナの協力が必要なのだけれど、お願いできるかしら?」


「それは問題ないと思うが……」


オルフェウスはちらりと横を見る。アグネッタが静かに立っていた。──どうして彼女がここに?


セラフィーネが苦笑して言った。


「アグネッタと私は古い知り合いなのよ。まさかここで会うとは思っていなかったのだけれど」


アグネッタも楽しげに言葉を添える。


「それで、今夜は彼女を私の部屋に泊めてあげたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」


……王妃から任された客人の願いを、どうやって断れるというのか。


「ええ、そのようにしましょう」


オルフェウスはそう答えた。


すると、アグネッタが続けて口を開いた。


「それと、泉の件についても詳しく伺いたいのですが」


ラニアの存在を教えてよいものか──オルフェウスは一瞬迷った。


「少し、相談してからでも良いかな?」


「ええ、もちろん」


アグネッタは柔らかく微笑んだ。


そうしてその夜、セラフィーネは城に泊まることとなった。


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