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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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王都を出たリリアーナ

春になり、リリアーナはついに王城を出立した。

王妃が特別に手配したゆったりとした馬車に揺られながら、リリアーナは向かいに座る人物を見て、意を決して声を上げた。


「……どうして、師匠が一緒なのですか?」


対面に座っていたのはアグネッタだった。

相変わらず落ち着いた態度で、ゆったりと外を見ていた。


「男爵領にいたら、名前を聞きつけて患者が押し寄せるかもしれないでしょう? 私には休息が必要なのよ」


アグネッタはさらりと言った。


リリアーナは思わず聞き返した。


「えっと……話し方はそのまま、ですか?」


「そうね。領主にお世話になる予定ですもの。失礼のないように、このままでいきましょう」


——え?

——ということは、城に滞在するつもり……なんですか?そんな話、何も聞いてませんけど……。


リリアーナは心の中で混乱していた。リリアーナは出立直前になって、アグネッタが一緒に北の領地に行くと知らされたのだ。

それは、アグネッタの休息という名目で。


実際のところは、まったく別の理由だった。

アグネッタの同行は、王妃と公爵夫人が彼女に依頼したためである。


――リリアーナの育てた甘甘草の栽培方法、そして魔力の与え方を観察してほしい。

――できれば、増産する方法を考案してほしい。


王妃も公爵夫人も、リリアーナの魔力を注ぐという行為には深い興味を持っていたが、彼女たちには自ら北の領地へ赴く立場にはない。

そのため、最も信頼できるアグネッタに白羽の矢が立ったのだ。


こうして春の柔らかな陽光の中、二人を乗せた馬車は北の地へと向かっていた。


「ところで、師匠は本当に城で滞在する予定なのですか?」

リリアーナは、おそるおそる尋ねた。


アグネッタは、わずかに眉を上げてこちらを見た。


「……私がいたら、不都合でもあるのかしら?」


その静かな声に、リリアーナは思わずドキリとした。


――ある。

――ありすぎる……!


薬草は、きっと手入れされていない。

調合室だって、どうなっているか全く分からない。


ラニアと一緒に湖へ入ったあと、ほとんど何もできないまま、あっという間に王都へ向かうことになってしまったのだ。


(……きっと、きっと城の皆さんが綺麗に管理してくれているはず……)


リリアーナは、願うように胸の中で呟くしかなかった。


二人はついに北の領地へ戻った。

オルフェウス、マルグリット、そしてエドモンドたちが、到着の知らせを受けて城門の外で待っていてくれていた。


「ただいま帰りました!」


リリアーナは満面の笑みで駆け寄る。


「おかえり」


エドモンドは両腕を広げ、優しく迎え入れようとした。


リリアーナは思わずその胸に飛び込みそうになったが、ふと横目でアグネッタを見る。


……なんか、すごく見られてる。


その視線に気圧され、リリアーナは小走りでエドモンドのもとへ近づくに留めた。


「元気でしたか?」

頬をほころばせて声をかける。


「ああ。リリアーナも元気そうで何よりだ」


エドモンドは優しく答えたが、同時に小さく首を傾げた。


……リリアーナ、少し、ふっくらした?


実際のところ、王城では歩く距離が限られ、三食豪華な食事に加えて、一日二度の“お茶休憩”という名のお菓子タイムが毎日の習慣になっていた。

その成果は、彼女の体に正直にあらわれていた。


マルグリットの目が、険しく細くなる。


……ちょっと。そんなに太ったら、結婚式のドレスが入らなくなるじゃない。


一方、オルフェウスは余計なことなど何一つ考えず、ただ元気なリリアーナの姿に心底ほっとしていた。


「セラフィーネたちはどうしたの?」

リリアーナが尋ねると、オルフェウスはわずかに視線を伏せて答えた。


「……彼女たちは、今できることはないと判断して、一度島へ戻った」


「え、本当に?」

リリアーナは目を丸くする。


「ああ。冬の間に、ラディンを助ける方法を探すつもりらしい。春になったら、また来ると言っていたよ」


そう言いながら、オルフェウスはあの時の光景を思い出した。



セラフィーネは強い意志で宣言した。

「絶対にラディンを助けるわ。それまで、私はここを動かない」


だが、技術者は冷静だった。

「冬の泉の水は凍るほど冷たい。人が入れば危険です。まずは方法を調査すべきです」


セラフィーネはそれでも諦めず、もう一度泉に入ろうとした。

しかし、水に足をつけた瞬間――凍りつくような冷たさに体が固まり、動けなくなった。


そのまま、悔しさを胸に抱えたまま、彼女は項垂れて島へ戻っていったのだった。



……オルフェウスには、セラフィーネがもう一度戻って来ると確信していた。

 あの時、泉から戻ってきた彼女の姿――赤くなった目、悔しさに震える唇――それは、オルフェウスが初めて見るセラフィーネの一面だった。

いつもは冷静で、どこか余裕を纏っている彼女が、その時だけはどこにもいなかった。


島に戻ると告げた彼女の目には、強い決意の光があるのをオルフェウスは見た。


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