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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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北の領地では

リリアーナの去った北の領地では、彼女が王との謁見を終えたという知らせと同時に、ようやくオルフェウスたちの拘束が解かれた。

兵士たちは、「命令だったのだ。恨まないでくれ」と、どこか罪悪感をにじませた表情で言ったが、オルフェウスはその言葉を本気で信じることはできなかった。


しかし、今はそれを追及している場合ではない。冬が来る。摩獣が現れる時期が、刻一刻と迫っていた。


リリアーナのいないこの状況で、摩獣にどう対処すればいいのか――。去年のように運良く姿を見せずに済む、などという甘い期待はできない。

それに、リリアーナは女性でありながら、この領地にとっては貴重な戦力だった。

オルフェウスが復帰し、以前より力を増したといっても、あれらに通用するのかはわからない。


領地を守る責務と、迫りくる脅威。オルフェウスは、重く深い悩みを抱えたまま、静かに拳を握りしめた。


同時に、オルフェウスは、去年摩獣が現れなかった理由について、ある可能性が脳裏を離れなかった。――それは、リリアーナの存在だ。

その思いを確かめるように、彼はエドモンドを呼び、真剣な面持ちで切り出した。


「去年、冬の摩獣が来なかったことについて、どう思っている?」


エドモンドは少し考え、慎重に言葉を選んだ。


「……わかりません。しかし、あの時リリアーナは“種”を身に宿していました。それが関係している可能性は、否定しきれません」


「やはり、そう思うか。今年は摩獣対策を抜かってはならない、ということだな」


オルフェウスの声には、決意の色が濃かった。


「そのほうが良いでしょう。……ならばリリアーナは現在、王城にいるのです。王に兵士の派遣を要請してみてはどうでしょう?」


エドモンドの提案に、オルフェウスは苦い顔をした。


「今まで何度も要請したのだが、すべて却下されてきたのだぞ」


「今回は事情が違います。もしかしたら考慮されるかもしれません」


エドモンドの静かながらも確信ある口調に後押しされ、オルフェウスは深く頷いた。


「……わかった。やってみよう」


そうしてその晩、オルフェウスは国王宛てに、丁寧でありながら切実な手紙をしたためた。


国王は、オルフェウスから届いた書状を読み終え、露骨に眉をひそめた。


「……リリアーナが貴重な戦力だから、王城にいる代わりとして兵士を派遣しろ、だと。どう思う?」


問いを向けられたのは、リリアーナの素性を長い時間調べ上げてきた“影”の一人だった。

男は恭しく頭を垂れたまま、低い声で答える。


「恐れ入りますが、リリアーナは北の領地では“相当な弓の使い手”として知られております。代役の用意なく断るのは……下策かと存じます」


国王は大きくため息をついた。


「……面倒だな。まあ、適当に兵士を送ればよいか」


まるで些事にしか感じていない様子で、国王は決断した。


その日のうちに、騎士団長へ通達が届いた。

内容は“北の領地に兵士を派遣せよ”。名目は魔獣被害の阻止。

人数は――三分隊でよい、と。


命令書を読んだ騎士団長は、思わず眉をひそめた。


(三分隊……? たったそれだけで本当に足りるのか……?)


疑問は胸に渦巻いたが、国王の決定に異を唱えることは許されない。騎士団長は静かに命令を受理し、準備に取りかかった。


一番若い中尉が、三分隊を率いて北の領地へ向かうことになった。

理由は単純――誰もが、寒さ厳しい冬に、さらに寒い北の地へ行きたくなかったのだ。


「適任は一番若い奴だな」

その一言で、なし崩しに任務は決まり、若い中尉は押しつけられたのだった。


もちろん、中尉は面白くなかった。


(どうして俺が……。ただの摩獣被害の警戒のために、わざわざこんな遠くまで……馬鹿らしい)


任務を“適当に終わらせて早く帰る”つもりで、彼は北へと足を進めた。


北の領主オルフェウスは、表向きは丁寧に彼らを迎えた。しかし、兵の数を確認するや否や、わずかに眉間に皺を寄せた。


(……足りない、って言うのか?わざわざ来てやったのに、もっと感謝しろよ)


中尉は胸の内で舌打ちした。


オルフェウスは言った。


「摩獣が現れた時は、私の指揮下に入ってもらう」


その言葉に、中尉は即座に反発した。


「いえ。我が軍だけで対応できます。配置さえ教えて頂ければ、指示は不要です。勿論、手出ししないで頂きたい」


(なぜ貴様の言うことなど聞かねばならん)


露骨にそう思いながら、彼は淡々と告げた。


オルフェウスはしばし中尉を見つめ、不快げに顔を歪めたが――中尉は、その視線さえも無視した。


リリアーナのいない冬、摩獣たちは現れた。あの、一際大きな摩獣の姿もあった。


オルフェウスとエドモンドは兵を分散させ、それぞれの地点で迎撃に当たった。魔力を込めた矢は遠くまで強く放たれ、摩獣たちを牽制するには十分だった。しかし、摩獣は賢い生き物だ。やがて彼らは、もっとも手薄だと判断した地点へと、一団となって襲いかかってきた。


そこは、王都から来た兵たちの配置された場所だった。王都でなら十分な戦力と見なされる彼らであっても、北の地で求められる弓矢の技量には明確な差があった。


オルフェウスたちはすぐにでも援軍に駆けつけようとした。だが、王都軍の中尉から事前に「手出し無用」と釘を刺されている。助けに行くこともできず、ただ「どうか持ちこたえてくれ」と願うしかなかった。


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