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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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ストロベリーブロンドの髪

王国の隣国のとある名門には、ふたりの美しい姉妹がいた。


陽光を浴びると金色に溶けるストロベリーブロンドの髪は、姉妹の象徴だった。

姉は特に愛らしく、王都でも「紅薔薇の姫」と呼ばれていた。


しかし、幸福な日々はある冬を境に崩れ始める。姉の首の後ろ側に、小さな腫瘍が現れたのだ。


最初は誰も気にしなかった。

ただの腫れだと思われていた。


だが、季節が変わるたびに腫瘍は大きくなり、肌を押し上げるようにして形を主張し始めた。両親は慌てて色々な薬を試したのだが、効果は無かった。


「お嬢様……どうか、外出は控えられた方が……」


使用人が目をそらしながら言う。

その視線の意味を、幼い姉は理解できなかった。


姉が十二歳になった年。

王都の夜会に招かれた姉妹は、初めて露骨な侮蔑の視線を浴びた。


「まあ……あれが長女? 見るに堪えないわ」

「妹はあんなに可愛らしいのに、姉は……哀れね」


姉は震える手でドレスの肩紐を掴んだ。

腫瘍を隠すため、母が特注したレースの襟をつけていたが、それでも人々は囁いた。


妹は必死に姉を庇おうとしたが、まだ九歳の彼女にはどうすることもできなかった。


「やめて! お姉様をそんなふうに言わないで!」


「まあ、小さな妹まで必死ね。可哀想に」


笑い声は澄んでいて、残酷だった。



嫌な噂は屋敷にも広まった。


「このままでは家の体面が台無しだ」

「長女を人前から遠ざけるべきです」


母は悩んだ。父は苛立った。

そして家中の空気は、いつしか姉を遠ざける方向へ傾いた。


 家庭教師は、姉ではなく妹に重点を置くようになった。舞踏会の衣装はすべて妹のものが先に仕立てられた。使用人の中には、姉を“触れるのを嫌がる”者さえ出た。


姉は毎日うつむいた。

声を出せば泣いてしまいそうだった。

だが一番辛かったのは――妹にまで影響が及び始めたことだった。


ある日のこと。

家庭教師が妹の勉強を見ながら、何気なく言った。


「あなたほど可愛らしい子が、なぜあのお姉さんの世話など……。本当なら、もっと王都で愛されるべきなのよ?」


妹は顔を赤くして怒った。


「お姉様を侮辱しないで!」


その瞬間、ぱしん、と乾いた音が響いた。

家庭教師が妹の頬を叩いたのだ。


「貴族の娘が大声を出すなど! あなたが姉を庇うほど、家の面目は潰れるのですよ!」


その後も、妹の授業だけが異常に厳しくなり、 罰だと食事を抜かれることさえあり、「姉と距離を置け」と繰り返し強要された。


幼い心に負担がかかった妹は、ある夜ついに泣きながら姉の部屋に走り寄り、抱きついた。


「お姉様、わたし、嫌なの……! お姉様を悪く言われるのも、離れろって言われるのも……!」


姉は震えながら妹を抱きしめた。


「……ごめんね。全部、わたしのせいだわ……」


その涙は長い時間止まらなかった。



姉は意を決して母に訴えた。

私は死んでもいい。だから、妹だけは、今の状態から解放してあげて、と。

妹の不調を、姉の嘆きを知った母は、そこでようやく姉に向き合った。


「……ごめんなさい。あなたの苦しみを、見ないふりしていたわ」


母は、国の有名な治癒師に姉の腫瘍の治療を頼んだ。治癒師は腫瘍を鋭いナイフで切り取り、うっすらと皮膚を再生させ、薬を塗った。「……これで、大丈夫でしょう」

姉は、気を失いそうな激しい痛みに、愚痴ひとつ溢すことなく耐えた。しかし、日を重ねていくと、腫瘍は再び現れた。

姉は一人、夜中に泣いた。何日も、何日も。


そして母は最後の望みにすがるように、隣の国の王妃………かつての親友に手紙を書いた。彼女の立場なら、何か良い方法を持っているかもしれない…。

王妃からの返事は、早かった。優秀な調合師紹介しましょう、と。


姉は付き人と共に隣国へと旅立った。付き人は、姉に対して同情する数少ない人だった。


薬は、処置された。


約束の日、姉が鏡を見ると――

腫瘍は、跡形もなく消えていた。


「……本当に……?」


姉は震える指で何度も首を触った。

妹は泣きながら姉にしがみついた。


「お姉様……! お姉様……!」


付き人は、その光景に涙した。母もまた涙を流し、家族は何度も抱き合った。

家族は、王妃と隣国の調合師に深く感謝した。


王都の夜会に再び姿を現した姉は、以前とは比べものにならないほど凛としていた。


「まあ……あの子、あんなに輝いて……!」

「腫れがあったなんて信じられないわ」

「妹の方も可憐だこと!」


だが、姉の瞳は人々の噂に揺れなかった。


なぜなら彼女は知っていた。

――自分の価値は、人々のささやきでは決まらない。



姉妹は時に手を取り合い、時に笑いながら、ゆっくりと前へ進んでいった。


そして数年後、姉は治癒の学びを深め、自らも誰かを癒せる存在へと成長する。その道は困難を極めたが 姉の決意は固かった。


妹は姉の背を誇りに思いながら、何かある時

必ず姉を支えた。


薄紅の髪が二つ並んで揺れたとき、日の光は二人の未来を祝福するように降り注いでいたという。


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