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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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影から国王への報告

王妃はリリアーナを私室に迎え入れた。

「リリアーナ、疲れたことでしょう。何か軽く食べられるものを用意するわ。あと、眠る場所は使用人の部屋でも良いかしら? 私が自由にできる部屋は、この城にはあまり無いのよ」


「はい。ありがとうございます」

リリアーナが頭を下げると、王妃は「部屋の準備を急がせるわね」と付き人に指示を出した。


付き人の動きは早かった。リリアーナがほっと一息つく間に、飲み物と、見た目にも美味しそうな菓子がいくつも用意されていく。

「とても疲れたでしょう? 好きな物を食べて」

王妃は、そっと労わるような声でそう促した。リリアーナは言葉に甘えて、飲み物を飲む。

ようやく、呼吸が出来た気がした。


お菓子をひとつ食べた後、リリアーナは勇気を振り絞って問いかけた。

「王妃さま、どうして私を気にかけてくださるのですか?」


――王妃は少し、遠い所を見るような素振りをしていたが、リリアーナの問いに微笑んだ。

王妃は視線で合図し、付き人を動かした。付き人は小さな器を手に取り、恭しく王妃へと差し出す。王妃はそれをそのままリリアーナへ渡した。


「見れば、わかるわ」


促されるまま蓋を開けると、そこには懐かしい香りを放つ落ち着きの葉が入っていた。

「……甘甘茶」リリアーナは思わず呟く。


「私の望みは、それの安定供給よ。公爵夫人が記念にとくれたものだけど……リリアーナ、これ、貴女が魔力を注いで成長させたのでしょう?」


「はい。そうです。魔力を注ぐと品質がよ良くなると聞いたので」


リリアーナはラニアの言葉を思い出しつつ答えた。


「そうなのね。貴女の魔力が必要なのね。それは、北の地でしか育たないのかしら?」王妃は言った。


「甘甘茶は北の地、特定の植物だと思います。他では見たことありません」リリアーナは、薬草の本でも甘甘茶は記されていなかったことを伝えた。


「リリアーナ……今日は突然の治癒を頼まれて、さぞかし疲れたのでは?」

王妃は聞いた。


「はい。とても緊張しました。……でも、まだ怪我人がいたら治せると思います」


リリアーナは自分の手を見つめて、静かに言った。


王妃は呆れたように、しかしどこか感嘆を含んだ声で言った。


「あんなにも立て続けに能力を使ったのに、魔力は切れていないの?」


「……疲れましたが、まだ魔力は残ってます」


「すごいわね……。それと、改めて礼を言うわ」


王妃は部屋の端に控えていた初老の男性へ視線を向けた。

「彼は長いこと実家の執事をしていたの。私には家族みたいな存在よ」


初老の執事は恭しく一礼した。

リリアーナは、微笑んだ。……ああ、良かった。ちゃんと、治ってる。

疲れが、一瞬溶けた気がした。



―――影は、その一部始終を聞いていた。

公爵夫人と王妃の関係、そして──“甘甘茶”という存在について。


そして影は気づいていた。王妃は、わざと自分に聞かせているのだと。早く調べ上げ、国王に奏上せよ──その無言の指示。


影は即座に動いた。

公爵家の内部へ忍び込むことは不可能だ。警備はあまりにも厳重で、隙がない。

だが、使用人たちの口は固くない。影は彼らの噂話、細かな違和感、断片的な情報を丹念に部下を使い拾い集めた。


その結果、甘甘茶には若返りの効果があるらしいことが分かった。ついでに育毛効果も──というおまけまで。


リリアーナは甘甘茶の“作り手”。

そして甘甘茶は北の地でしか育たない。


公爵夫人と王妃の密会──その事実だけでは何も断定できない。しかし、密会の直後、公爵夫人が本を作るかもしれないという情報がもたらされた。


本?

その内容は、もしかすると国王を暗に糾弾するものではないか。……王妃なら、ネタには事欠かないはずだ。


王妃の本心は、リリアーナを北の地へ返すこと。それが出来ないのなら、国王失墜も辞さない──?


影は、そう結論づけた。


影は、翌朝のまだ薄暗い頃に国王のもとを訪れた。調べ上げた事実を淡々と報告し、最後に静かに告げた。


「──王妃の意図は、おそらく、リリアーナを北の地に返すことです。……そして、可能性のひとつなのですが、それが出来ないのなら国王を、失墜させるかもしれません」


その言葉を聞いた瞬間、国王は直感で悟った。……王妃ならば、確かにそれくらいの策は平然と講じるだろう。国王がいなくても、王妃がいれば国はおそらく安泰だ。


しかし──リリアーナを手放すのは惜しい。


国王は影を下がらせた。

重たい扉が静かに閉じられる。

残された国王は、一人、深く沈み込むように考え続けた。


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