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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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マルグリットは手紙を書いた

リリアーナが去った後、オルフェウスたちは、厳しい監視下に置かれていた。何も出来ないまま一夜が明けた。翌朝、沈んだ空気の中でマルグリットが口を開いた。


「取引先に、至急手紙を書かなければいけないの。許可をいただけないかしら?」


見張りの兵士は警戒を崩さずに言う。


「どうしても必要なことか?」


マルグリットは迷いなく頷いた。


「……相手は格上の公爵家なの。お願いされていた品の発送が遅れているのよ。しかも、品質確認をしたいと言われていたから、良いものを選んでいたところなの。…もし怒りを買ったら、あなた方にもその咎が飛ぶかもしれないわ」


「……何を送るのだ?」


「お茶よ。」


兵士は少し考え、やがて決断した。


「……送る物と手紙の内容は確認させてもらう。それで良いか。」


「ええ、ご自由に。」

マルグリットは静かに微笑んだ。


彼女はすぐに手紙をしたためた。


―― 「希望されていた品を送ります。今回は、とても良い品と思っております。お確かめ下さい。

ただ、こちらの事情によりこれ以上は用意できないと思います。ご容赦下さい。」




その短い文に、マルグリットは最大限の警告と訴えを込めた。添える品は、甘甘茶を多すぎない量。だが、その質は極上だった。

兵士に確認されたあと、荷は最速の手段で公爵家へと送られた。


――そして、公爵家。

手紙が届いた瞬間、屋敷には静かな衝撃が走った。


「……どういうことなのかしら?」

公爵夫人は眉を寄せ、文をもう一度読み返した。前回の手紙には、リリアーナが行方不明だという報告があった。しかし――今回の「事情によりこれ以上用意できない」という一文。甘甘茶の取引停止。


それはどう考えても、ただ事ではなかった。


「……急ぎ、調べて。」


公爵夫人の一言で、公爵家所有の諜報員が静かに動き出した。公爵は、夫人の動きを止めることはなかった。


公爵家の諜報員は、さすがとしか言いようのない素早さで動いた。情報はすぐにまとめられた。


――オルフェウスたちは拘束され、

――リリアーナは王都へ連行された。


時期から考えれば、すでに王都へ到着していてもおかしくない。


さらに、今回送られてきた甘甘茶の鑑定結果は驚くべきものだった。それを確認した公爵夫人は、静かに立ち上がった。


「……王妃に会いに行くわ。出来るだけ早く日程を組んで。理由は“お知らせしたいことがあります”で良いわ。」


その言葉を受け、公爵夫人と王妃の茶会は異例の速さで実現した。



―――王宮・王妃の私室にて


王妃は淡く微笑んで迎えた。


「あなたから会いたいだなんて、珍しいわね。」


「ご無沙汰しております。王妃様もお忙しいでしょうし……つい、控えておりました。」

公爵夫人は丁寧に一礼した。


「それで、伝えたいこととは?」


王妃が尋ねると、公爵夫人は合図し、侍女が銀の皿を運んできた。皿に乗っているのは、先日届けられた甘甘茶の一部だった。


王妃の扇がほんの少し揺れる。


「……それは、何かしら?」


「鑑定で、ご確認いただければ分かります。

内密にされることを、おすすめいたしますわ。」


王妃の側近の鑑定能力者が呼ばれた。

鑑定をした能力者は、王妃の耳元へそっと結果を告げる。


――主な効能は、若返り。その他色々有り。


王妃はわずかに目を見開いたあと、にっこりと微笑んだ。


「……ありがたく、頂くわ。」


鷹揚に言い切るその表情を、公爵夫人は静かに見つめ返した。


「本来なら、私がまず試して安全を確認し、

安定供給の目処がついてから献上するつもりでした。ですが……それが叶わない流れとなりまして。せめて記念にと、お持ちいたしました。」


王妃は公爵夫人の肌をさりげなく観察する。

――以前より明らかに艶がある。

――目元の皺も薄い。

――髪にはふんわりとした力強さが戻っている。


「……試してみたのね?」と王妃。


「ええ。期間は短いですが、体調も良いように思いますわ。」

公爵夫人は穏やかに答えた。


「“記念”とは、どういう意味かしら?」

王妃の声に、わずかな緊張が宿る。


「作り手が、国王に召し上げられるかもしれないのです。この品質は、北の地にて、彼女の手にしか作れません。……本当に、残念ですわ。」


王妃の眉がぴくりと動いた。


「その者が自由になれば――献上する、と?」


「もちろんでございます。」

公爵夫人はゆるやかに微笑んだ。


その微笑みは、静かでありながら、

王妃の心を確実に揺らす“誘い”だった。



王妃は薄く笑んだ。

その笑みには、優雅さとともに棘のような含みがある。


「……私が、その者を独占するとは思わなくて?」


静かに放たれた問い。部屋の空気が、わずかに張りつめた。

公爵夫人は一歩も引かず、品よく微笑んだまま答えた。


「王妃様は慈悲深く、公明正大なお方。そのようなことをなさるはずがありませんと、私は存じておりますわ。」


二人の視線が絡み合う。柔らかい笑みの奥で火花が散るような、静かな駆け引き。

――どちらも、一歩も退かない。


数拍の沈黙ののち、王妃がふっと息を吐いた。


「……いいでしょう。貴重な情報をありがとう。少し、時間はあるかしら?」


「はい、もちろんでございます。」

公爵夫人は上品に頭を下げた。


その後、扉を閉めた私室では、二人だけの、決して外に漏れぬ“内密の話”が続いた。


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