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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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城に戻ったエドモンド達

エドモンドたちはようやく城へと戻った。城に着くや否や、エドモンドは駆け足で中へ入り、矢継ぎ早に指示を出した。


「すぐにお湯を用意しろ! それから、リリアーナの着替えの準備を!」


その声に城の人たちが慌ただしく動き出す。冷えきった体を温めねば、とエドモンドは焦りを隠せなかった。


──リリアーナが戻った。


その知らせは、すぐにオルフェウスの耳にも届いた。報告を受け取ると同時に、彼は足早にエドモンドのもとへ向かう。


「リリアーナが見つかったと聞いたが」


部屋へ入るなり、オルフェウスは切迫した声で尋ねた。


「はい。泉の底で、ラニアと一緒にいたと……ラディンが言っていました」


エドモンドは短く答える。その表情には、安堵と不安が入り混じっていた。


「リリアーナは、今どこに?」


「お湯に入ってます。身体が冷えきってたので」


「泉の底とは……どういうことだ? 怪我は? 無事なのか?」


「おそらく……大丈夫かと」


オルフェウスは深く息を吐き、胸の奥に溜まっていた緊張を少しだけ解いた。だが、その隣に立つセラフィーネの表情は険しい。部屋の隅にいた技術者も、重苦しい沈黙を守っている。


「ラディンとラニアがいないようだが……?」


オルフェウスの問いに、エドモンドは一瞬言葉を詰まらせた。


「……二人とも、おそらく、泉の中に」


苦しげな声でそう告げると、室内の空気がさらに沈んだ。

「どういうことだ?」

オルフェウスの声には、抑えきれぬ疑念と不安が滲んでいた。


「泉の中には、ラニアとリリアーナが眠っていて……リリアーナを助けたあと、ラディンは泉の中に消えた。それだけよ」

セラフィーネは吐き捨てるように言い放った。その声音は冷たく、怒りと苛立ちを隠そうともしない。


「……まるで、化け物ね」


「違う!」

エドモンドが即座に反論した。

「ラニアには、理由があったんだ」


「どんな理由にせよ、人を巻き込むなんてどうかと思うわ」

セラフィーネは冷ややかに言い返す。その視線が一瞬、エドモンドを刺した。


重い沈黙が落ちたその時、扉を叩く音がした。


「入れ」オルフェウスが言う。


静かに扉が開き、そこに立っていたのは――リリアーナだった。服をまとい、まだ頬に赤みが残っている。


「もう、大丈夫なの?」

セラフィーネがやわらかく声をかける。


「はい。温まりました。……ご心配をおかけしました」

リリアーナは深く頭を下げた。


「リリアーナのせいじゃない」

エドモンドがすぐに言った。


「でも……私がもっとしっかりしていれば、よかったのかもしれません」

リリアーナは小さく首を振る。その瞳には、わずかな影があった。


「ラニアは、どれくらい眠るのか知っている?」

セラフィーネが問う。


「……わかりません。ただ、『魔力溜まりで眠る必要がある』としか……」

リリアーナの声はかすかに震えていた。あの時の言葉を思い出していた。


―――「リリー、目が覚めたら……ぼくだけを見て。ぼくだけに笑って。ぼくだけを抱きしめて。……大好きだよ、リリー」

もしあれが本心なら、ラニアが目を覚ました時、私は……。



セラフィーネは長いため息を吐いた。

「ラニアを調べることも、ラディンを助けることも……難しそうね」


その言葉に、リリアーナの身体が強張る。


「ラディンは……おそらく、リリアーナの代わりになったのよ」


「……まさか……」

リリアーナの唇が震える。


「もしくは、腹いせに殺されているか。そちらの方が、可能性は高いわ。もしくは、…血も足りない、と言っていたのでしょう?成長の為にラディンを捕らえた、とも考えられるわ」

セラフィーネの冷ややかな声が部屋を裂いた。


空気が凍りつくような沈黙が広がり、誰も次の言葉を口にできなかった。


とりあえず夕食の時間となり、人々は静かに席についた。

しかし、食卓を包む空気は重く、誰も口を開こうとしない。皿の上の料理が消えていく音だけが、静まり返った広間に微かに響いていた。


食事を終えると、皆それぞれの部屋へと散っていった。リリアーナは立ち上がり、マルグリットのもとへ歩み寄る。


「……心配かけました、マルグリット様」

小さく俯いて言うと、マルグリットは何も言わずにリリアーナをそっと抱きしめた。


「いいのよ。あなたが戻ってきてくれただけで、十分だから」

その言葉に、リリアーナの瞳が滲んだ。彼女は小さく頷き、マルグリットの胸の中でしばらく動かなかった。


***


そのころ、セラフィーネは自室へもどり

遠隔会話の魔道具を動かした。セレナに、繋がる。


「セレナ、リリアーナが見つかったわ」


「本当ですか? 良かった……やはり、魔力溜まりに?」


「そうよ。泉の中で、ラニアと一緒に眠っていたそうよ」


「よく助けられましたね」


「ええ。ラディンのおかげよ。リリアーナを泉の中から引っ張り上げてくれたのだから。でも――代わりにラディンが泉の中に消えたわ」


セレナの声が戸惑いを帯びる。

「……それは、どういうことですか?」


「おそらくラニアが、ラディンを泉の中に引きずり込んだの。そして……ラディンは、もうここにはいないということよ」


「……どうして、ラディンが?」


「わからないわ」セラフィーネは首を振った。

「助ける方法はないのですか?」


「……あったら、とっくに行動しているわ」

セラフィーネの声は冷静だったが、その奥には焦燥が滲んでいた。


セレナはしばし考え込んだあと、真剣な表情で言った。

「……こちらで、何か調べられるかもしれません」


「……そう。頼んだわ。私も、出来ることをしてみる」


短い会話を終えると、部屋は静けさに包まれた。


夜の帳が降りる。

だが、その夜――安らかな眠りにつける人々は少なかった。


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― 新着の感想 ―
ラディーーン(ToT)!! どんだけ苦労性なの〜 最後は幸せになる様祈っておきますね!!
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