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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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海の上での会話

――出港の日。


港は朝の霧に包まれていた。白く霞む海の向こうに、船の帆が静かに揺れている。


ラディンは岸辺に立ち、ゆっくりと息をついた。

「ここには、精霊の声が聞こえるセレナがいる。魔道具も色々あるらしい。少し調査をしてから戻る。……二人で行ってくれ」


「なら、私も残る……」とリリアーナが言いかけた。

ラディンは首を振る。

「駄目だ。エドモンドが迎えに来てるんだ。帰りを待ってる人たちが、いるだろう」


風が彼女の髪を揺らした。リリアーナは何か言いたげに唇を結ぶ。

その沈黙を破ったのは、セラフィーネだった。ラディンに問う。

「次の船は、いつになるか分からないけど……それでも、いいの?」


ラディンは、静かに海を見つめた。

「ここは、精霊がたくさんいるんだ。何か手がかりがあるかもしれない。……きっと、戻っても俺は、何も出来ないからな」


その声は、潮風に溶けるように消えていった。


やがて、船の鐘が鳴る。

リリアーナは最後に一度だけ振り返った。

ラディンは動かず、ただ穏やかに頷いた。


白い帆が風を受け、船はゆっくりと港を離れていく。

波の音だけが残り、岸辺に立つラディンの影が、長く伸びていた。


――船は、穏やかに進んでいた。


空はどこまでも青く、雲ひとつない。

海は陽の光を受けて、無数の宝石のようにきらめいている。

世界はこんなにも美しい――なのに、リリアーナの心は重かった。


甲板の上で、二人は並んで海を見つめていた。

風が髪を揺らし、白い波が遠くで弾ける。


「ねぇ……別れようか?」

リリアーナの声は、潮風に紛れるほど小さかった。


エドモンドは驚いて振り向いた。

「なんで……」


リリアーナは目を伏せたまま、囁くように言った。

「私、どうなるか、わからないよ?」


「嫌だ」

その言葉は、すぐに返ってきた。

迷いも怒りもない、ただ真っすぐな拒絶だった。


「……時間の、無駄かもしれないよ?だって、普通、種が育つには、栄養が必要なんだよ?

生きている宿主が死ぬ植物、色々あるよ?薬草の本で、見たもの……」

リリアーナの声が少し震えた。


エドモンドは拳を握りしめたまま、静かに言った。

「そうだとは、限らない。俺は、絶対に別れない……。だから、そんなこと言わないでくれ……」


風が通り過ぎ、波の音が二人の間を満たした。

世界はどこまでも穏やかで、どこまでも残酷だった。


リリアーナは涙をこぼさず、ただ遠い水平線を見つめていた。


――海は、ゆるやかに波を立てていた。


リリアーナは静かに鞄を開け、小さな布袋を取り出した。

中から、指先に収まるほどの丸い玉を取り出し、しばらく見つめた後、海に向かって腕を伸ばす。

けれど――その手は途中で止まった。


「それは、何だ?」

エドモンドの声に、リリアーナはゆっくりと手を開いた。


掌には、光を透かす透明な玉が一つ、ころんと乗っていた。

「……貰ったの」

「セラフィーネからか?」

「そう。……魔力を込められるの」


「今、出来るのか?」

「出来るよ」


リリアーナがそっと目を閉じると、玉の中に淡い光が生まれた。

それはすぐに銀色に染まり、かすかに虹のような色が混ざっていく。


「すごいな……」

「そうかな?」

リリアーナは微笑み、玉を見つめた。


だが、その光はやがて静かに薄れていき、再び透明に戻った。

「魔力を抜いたの」

小さく息を吐いて、リリアーナは続けた。


「今より魔力が高くなったら、“お雪様”と話せるかもって。

 もっと魔力操作が上手くなったら、何か良い方法があるかもって……そう言って、くれたの」


しばらく沈黙が続いた後、エドモンドが言った。

「……俺に貸してくれないか」


リリアーナは玉を渡した。

エドモンドは両手でそれを包み込み、深く息を整える。


「……込められ、ないぞ」

「うん。コツがいるかも」


それでもエドモンドは諦めず、長い時間、静かに目を閉じていた。

やがて彼が手を開くと、玉はうっすらと銀色に、そしてその奥に、青の光が差していた。


「……色が違うね」

リリアーナは寂しそうに笑った。


「……そうだな。でも、悪くない」

エドモンドは玉をそっと返し、言葉を続けた。


「俺も、練習するよ。先はまだ、決まっていない。……だから、傍にいて欲しい」


リリアーナは目を潤ませながら、小さく頷いた。

「……うん」


次の瞬間、エドモンドの腕が彼女の肩を包んだ。

リリアーナの肩は小さく震えていたが、その震えは――涙のせいだけではなかった。


どこか遠くで、光が海面に跳ねていた。


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 本当に盗賊ども赦さん…
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