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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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リリアーナは、渡した?

リリアーナはエドモンドを海辺に誘った。

「あのね、先日海藻を拾いに行ったの。そこでね、綺麗な貝殻が落ちてて……。拾いに行こうと思ってたの」


「なんで海藻を拾いに?」とエドモンドが尋ねる。


「この島の畑、土が元気ないから。良い土を作ろうと思って。昔読んだ本に、海藻も良いって書いてあったんだよ」


「城の庭には、落ち葉を入れてたな」


「そう。だから森からは、落ち葉を運んだの。きっと、いい土が、出来るよ。そうしたら、元気に育つよね」

嬉しそうに話すリリアーナの声は、潮風に乗って柔らかく響いた。


「一緒に海が見れるなんて、夢みたい……」

そう言って、リリアーナは笑顔でエドモンドを見上げた。


二人は砂浜に着く。

「岩場より、こっちの方が貝殻があるの」

リリアーナは砂の上を見つめながら歩く。白い足跡が並んでいく。


空も、海も、リリアーナも——すべてが眩しく感じるエドモンド。


「ほら、これなんてすごく綺麗だよ」

リリアーナは薄いピンク色の貝殻を拾い上げ、笑みを深めながらエドモンドに見せた。


「……そうだな」


エドモンドは微笑み返す。

けれど心の中では、そっと思う。

……リリアーナの方が、ずっと綺麗だ。

……この穏やかな瞬間が、永遠だったら。


波の音は、絶え間なく続いていた。


--------------------


翌朝、セレナはいつになく上機嫌だった。

朝の光を浴びながら、頬をほころばせている。


次の船にセラフィーネが乗らない――そう聞いたからだ。

お姉様が、まだ島にいてくれる。

うふふ……嬉しいな。


精霊たちもいるし、きっと当分はこの島に滞在するはず。

セレナの心は、穏やかな幸福感で満たされていた。


彼女の周りでは、小さな光がふわりと漂っていた。その、青白い炎のような精霊に、セレナは何気なく話しかけた。


「うふふ、ふふ。……今まで、ごめんね」


特に深い意味もなく、ただ思いついたままの言葉だった。

けれど――。


「……ソウダネ」


耳に届いたのは、確かに声。

セレナの動きが止まる。目を見開き、息を呑んだ。


「い、今……話した……?」

「話シシタネ」


青白い炎が、淡く揺れながら応えた。


セレナの胸がどくんと高鳴る。

驚きと喜びが一気に押し寄せ、頬が熱くなった。


――精霊と、話せた……!


それは特別なことだ。

ただ、セレナの魔力は強く、そして彼女は“精霊の愛し子”。本気で心を向ければ、精霊と心を通わせることは簡単な事だった。


「お姉様、大変です」


セレナは勢いよく部屋を飛び出し、セラフィーネのもとへ駆けていった。

部屋の扉を開け放ち、息を弾ませながら叫ぶ。


「お姉様、わたし……精霊と話せるようです」


セラフィーネは驚きの表情を浮かべた。

「本当に……?」


セレナは嬉しそうに頷いた。

その頬は朝日よりも明るく輝いている。


「はい。この精霊が、返事をしてくれました」


セラフィーネは静かに笑った。

「それは……すごいことよ、セレナ」


姉妹の間に柔らかな光が差し込んだ。


しかし、セラフィーネは、しばらく沈黙していた。その瞳は、遠くを見つめるように静かで、けれどどこか鋭い光を帯びている。


やがて、低く囁くように言った。

「……いつもリリアーナの傍にいる精霊の声も、聞けるのかしら?」


セレナは首をかしげた。

「どうでしょう?」


「……確かめたいことがあるの。リリアーナ達を呼んでくれる?」


セレナは頷き、部屋を出ていった。

ほどなくして、セラフィーネの部屋には四人が集まった――セレナ、リリアーナ、ラディン、そしてエドモンド。

外では海風が鳴り、窓の外の木々がざわめいた。


セラフィーネは静かに息を吸い、言った。

「セレナ、リリアーナのお雪様に話しかけてみて」


セレナは頷き、お雪様を見つめる。

「……お話、できますか?」


お雪様はふわりと揺れた。

だが、声は返ってこない。


「……出来ません」

セレナは小さく首を振る。


その瞬間、セレナの傍らで青白い炎がふっと揺らめいた。

炎は小さく明滅しながら、まるで何かを伝えようとしているようだった。


「……精霊同士なら、話ができるそうです。『何か聞きたいの?』と」

セレナは炎を見つめたまま、静かに言った。


その言葉に、ラディンが口を開く。

「……リリアーナが、お雪様に渡したのは、何だ?」


エドモンドが息を呑む。

「渡した……?」


お雪様と青い炎が、互いに呼応するようにゆらゆらと揺れた。

その光景は一見、穏やかで――けれど、どこか不安にさせる美しさを帯びていた。


やがて、炎がふっとお雪様から離れ、セレナの近くに寄ってくる。

セレナの顔色がみるみる青ざめていく。


「……あ、言っても……いいですか……?」

声が震えていた。


リリアーナが不安げに見つめ、静かに頷く。

「何を、言ってるの……?」


セレナは唇をかすかに噛み、青白い光を見つめたまま言った。

「……リリアーナの中に……お雪様の一部を、入れたそうなのです。

……“種”みたいなもので。リリアーナの魔力と血をもらって……育つと。

今はまだ芽が出ていないけれど……いつしか、芽が出るだろう……と」


部屋の空気が、一瞬で凍りついた。


「なに、それは……」

セラフィーネがかすれた声で呟く。


「種、だと……?」

ラディンの声にも焦りが混じっていた。


エドモンドは何も言えなかった。

目の前の光景を理解しようとしても、頭が追いつかない。


お雪様と青白い炎が、再びゆらゆらと揺れる。

その動きはまるで、何かを楽しんでいるかのようだった。


セレナが青ざめた顔で口を開く。

「……精霊は、リリアーナの魔力が……リリアーナそのものが、とても好き、と。

だから、人間の赤ちゃんみたいに……“何か”をリリアーナと精霊で作りたい、と。何が作れるかは、わからないけれど……と。」


その言葉を最後に、誰も口を開かなかった。


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― 新着の感想 ―
ヤドリギにしやがったかあ
 え、ちょっと待って? それはいわゆる『精霊の愛し子』が次代に生まれるってこと? それとも『取り替え子(精霊或いは妖精の体質・容姿を持つ亜人種)』が生まれるってことか?? まさか、聖母マリアの逸話みた…
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