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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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リリアーナ目覚める

リリアーナはセラフィーネの目が覚めた翌朝、目を覚ました。

隣ではラディンが壁にもたれて座ったまま眠っている。器用だなぁ、と少し笑いながら、部屋を見回す。


しばらくぼんやりしていたが、次第にあの夜の出来事がよみがえる。胸がざわついて、リリアーナはラディンの肩をゆさゆさと揺すった。

「ラディン、起きて。傷は、どうなったの?」


ラディンはゆっくり目を開けた。目の下には深い隈。疲れ切っているのが一目でわかる。

「……セラフィーネは生きてる。多分、大丈夫だ。それより、何ともないのか?」

「何が?」

「いや……体とか、魔力とか。違和感とか」

「特にないよ。それよりお腹空いた……。ご飯、食べられるかな」


ラディンは苦笑して立ち上がった。

「聞いてこよう」

「あ、一緒に行く!」

リリアーナは勢いよく、言った。そして、少しふらりとしながらも笑ってついていった。



調理場に顔を出した。快く食事を用意してくれる。リリアーナはもぐもぐと食べながら、ふと思い出したように顔を上げた。

「ねぇ、いつの間に精霊が現れたの?」


ラディンは食べるのを止めて答える。

「リリアーナが倒れた後に、セレナが祈ったんだ。そしたら、現れた」

「そうなんだ……よかったね。きっと、もう大丈夫だよね」

リリアーナはにっこり笑う。その笑顔を見て、ラディンの肩の力が少し抜けた。

「……だと、いいけどな」


「ねぇ、セラフィーネに会えるかな?」

「大丈夫だろう。行くか?」

「もちろん!」


リリアーナは最後の一口を口に放り込み、立ち上がった。

外では、朝の光がきらきらと差し込み、庭の木の葉が風に揺れている。

先日までの不安が少しずつ溶けていくような、そんな穏やかな朝だった。


「セラフィーネ、今、いいか?」

ラディンが扉の向こうに声をかける。


「……いいわよ」

穏やかな声が部屋の奥から返ってきた。


「入るね」と言って、リリアーナは嬉しそうに扉を開け、駆け寄った。

ベッドの上で起き上がっていたセラフィーネが、少し驚いたように目を見開く。


「傷はどうなったの? 大丈夫なの?」

息を弾ませながら尋ねるリリアーナに、セラフィーネは小さく笑みを浮かべた。

「傷口はもう塞がっているわ。治してくれたのね、有難う」


その言葉を聞いた途端、リリアーナの瞳がうるんだ。

「……駄目かと思ってた。本当に、良かった」

こらえきれずにこぼれた涙を、慌てて手の甲で拭う。


セラフィーネはそんなリリアーナを見て、静かに微笑んだ。

「リリアーナこそ、体調はどうなの?」

「普通かな……たぶん大丈夫!」


その答えに、セラフィーネは少しだけ訝しげに眉を寄せたが、すぐにやわらかく頷いた。

「……それなら良かったわ」


窓から差し込む朝の光が、二人の笑顔を包み込む。

ようやく訪れた穏やかな時間に、ラディンもほっと息をついた。


リリアーナは精霊たちが戻ったことで、しばらくは好きに過ごしていいと許可をもらった。船が来るまでの間、時間がある。


その日の昼、リリアーナはセラフィーネの部屋を訪ねた。

「セラフィーネ、ちょっとお願いがあるの」

「なにかしら?」

「良い土地の作り方を教えたいの。だから、少し場所が欲しいの」


セラフィーネは少し考えてから微笑んだ。

「……そうね。裏庭がいいかしら。セレナに案内させるわ」


セレナに連れられて裏庭の奥まで来ると、海風がやわらかく吹き抜けた。

「ここなら、今は何もしていないのだけど」とセレナが言う。


リリアーナは目を輝かせて頷いた。

「ここに穴を掘って、落ち葉と海藻をいっぱい入れたいの。きっと良い土ができると思うの!」

「……良い土?」

「そう。島に来たときに思ったの。ここの土、ちょっと元気がないなって。

でも、良い土ができれば作物はちゃんと育つはず。だから、試してみてほしいの」


セレナは少しだけ首をかしげた。

「でも、リリアーナは島を去るのでしょう?」

「うん。だから代わりに様子を見ててほしい。土が黒くてふかふかになったら、何でもいいから種を植えてみて。きっとよく育つと思う……」


リリアーナの瞳が真剣にきらめく。その言葉には、領の庭で薬草を育ててきた日々の確信が宿っていた。


「……まあ、植えるだけなら」とセレナが小さく笑う。

「きっと、うまくいくと思うよ。実がつくと、とっても嬉しくなるから……」リリアーナは期待に満ちた声で答えた。


その日、リリアーナは森で落ち葉を集め、海岸で海藻を拾い、裏庭に掘った穴へと運び込んでいった。

潮の香りと森の匂いが混じる中、彼女は土を道具で掘り返しながら、嬉しそうに鼻歌を歌っている。


そのすぐそばでは、白い精霊――お雪様が、ふわりと浮かびながら見守っていた。


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