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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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魔鳥襲来

エドモンドは、ついに魔力をのせて弓を放てるようになっていた。

最初は何度試しても、矢はただ風を裂くだけだった。だが、ある瞬間、指先から流れ出るような力が矢に宿り、矢は力強く一直線に飛び、標的を貫いた。


その手応えに、エドモンドは確信した。……これが、魔力をのせた一射。


カイルスの指導のもと、共に訓練を続けてきた兵士二人もまた、少しずつ力を掴みつつあった。

エドモンドほどではないが、彼らの放つ矢にも確かに魔力の気配が宿っていた。



魔鳥の襲来が始まった。


エドモンド達には、すでに大量の“魔石付きの矢”が用意されていた。

職人は「俺を、殺す気か……」と言いつつも矢を作るのを引き受けたのだった。


エドモンドは弓を構え、深く息を吸う。

魔力をのせた矢が光を帯び、唸りを上げて放たれた。

続いて、カイルス、そして訓練を重ねてきた二人の兵士が矢を放つ。


矢は次々と魔鳥を撃ち落とした。彼ら四人の前では、魔鳥は普通の鳥と変わらなくなっていた。

七日間に及ぶ戦いは、怒涛のように過ぎ去った。


領の端では、家畜小屋が襲われる被害があったものの、兵士の死者は一人も出なかった。


戦いの終わりを告げる静寂が戻ったとき、人々は去年をはるかに上回る歓声を上げた。

その歓喜の中で。


エドモンドは、新しき領主としての確かな信頼と期待を受け、カイルスは、皆に「凄腕の協力者」と讃えられた。



魔鳥の襲来が終わると、領内は再び慌ただしさを取り戻した。

壊れた屋根等の修理、そして何より――倒された魔鳥の処理。


今年は、去年をはるかに上回る数の魔鳥が撃ち落とされていた。

兵士たちにはその一部が報労として分け与えられ、残りは城へと運ばれ、次々と仕分けが進められていった。


襲来が終わって三日後。

カイルスは、執務を終えたエドモンドに声をかけた。


「セラフィーネ様から伝言を預かっています。――“もし、無傷で魔鳥の襲来を乗り越えたなら”と」


そう言って、カイルスは掌を開いた。

そこには、薄い金属でできた札のようなものが光っていた。


「これは、島へ向かう船の渡航証です。気があるのなら、島まで来るように、と。……早馬を使えば、リリアーナ様と帰り道はご一緒できるでしょう、と」


「しかし……処理や報告も残っている」

エドモンドは目を伏せ、逡巡した。


カイルスは静かに微笑んだ。

「もちろん、決めるのはあなたの自由です。しかし……機会は、今しかありません」


外の空気は依然ほどの熱を失いつつあった。

冬になれば、今度は魔獣が現れる。


エドモンドはしばらく黙っていたが、やがて決意したように立ち上がった。

「……父上に、会ってくる」


エドモンドは、静かな決意を胸にオルフェウスの執務室を訪れた。


「――リリアーナを迎えに行きます。領のことを、お願いします」


突然の言葉に、オルフェウスは目を見開いた。

「……何故、今なのだ?」


エドモンドはまっすぐ彼を見つめて答えた。

「魔鳥の襲来が終わりました。今なら、魔獣の襲来の前に戻れます」


「……領主としての判断なのか?」

オルフェウスの声には、責任を問う重みがあった。


エドモンドはうなずき、言葉を続けた。

「今なら、カイルスがいます。……領の仕事は、父上、お願いします。……それに、俺はリリアーナの婚約者です」


その表情は真剣で、迷いはなかった。

戦いの間も、彼の心はずっとリリアーナのもとにあったのだ。


沈黙ののち、オルフェウスは深く息を吐いた。

その瞳に、わずかな苦笑と、若き領主への信頼が混じっていた。


「……決めたのか」

しばしの沈黙ののち、オルフェウスは静かに言った。


「わかった。仕事は、マルグリットと何とかしよう。……行くのなら、急げ」


エドモンドは深く頭を下げると、ためらうことなく部屋を出た。

その背に、オルフェウスの短い溜息が聞こえた気がした。


エドモンドは旅装を急ぎ整えた。

町に入るたびに馬を替え、ひたすら走る。

風が頬を切り、夕陽が背を押す。


その道は、あらかじめカイルスに教えてもらっていたものだった。

出立の時、カイルスは苦笑を浮かべて言った。

「……気をつけてください」


その言葉に、エドモンドは短くうなずいただけだった。


そして城の高台から、オルフェウスとマルグリットが小さくなっていく彼の背を見つめていた。

その走りは、眩しいほどにまっすぐで……二人はその姿に、かすかな誇らしさと寂しさを感じていた。


長い道のりを経て、エドモンドはついに海へたどり着いた。

靴も外套も泥にまみれ、髪は風に乱れていたが、そんなことは気にも留めなかった。


潮の香りが胸いっぱいに広がる。

目の前には、果てのない海。


聞いていた場所寄ると、ちょうど明日出港予定の船があると知らされた。

それは、まるで彼を待っていたかのような偶然だった。


エドモンドは海辺に立ち、静かに海を見つめる。

……この海の向こうに、リリアーナがいる。


潮風が吹き抜け、彼の決意を確かめるように外套を揺らした。



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