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84.賢者様、会いたくない奴に再び(以下略




「しまった! イルミナさんに獣人が魔法を使えるのか聞くの忘れてた!」


 二人がいなくなったあとで、私は肝心なことを忘れていたことに気づく。

 イルミナさんは明らかに魔力を感じていたし、魔法を理解していた。

 千年以上前の獣人は魔法が使えた可能性があるのだ。

 それを根掘り葉掘り尋ねようと思っていたのに掻き消えて姿は見えない。


 まぁ、親子が仲直りできたんならよかったかな。

 千年もここにいるのは辛かっただろうし。


 私はガレキだらけになった地下空間を眺める。

 奥の方では聖女が「これがっ、古代の叡智っ、すなわち財宝っ」などと叫んでいる。

 私も魔道具に興味がないことはないけど、魔法をぶっ放せたし満足かな。

 よし、帰るとしようか。

 ここはジメジメしてるし、あんまり好きでもないし。


「先生、私……いったん、国に帰ろうと思いますの」


 私がみんなに撤収を伝えようとすると、クラリス様が意外なことを言い始めた。

 その表情は真剣そのもので、冗談を言っている様子ではない。

 おそらくはイルミナさんたちに感化されたのだろう。


「そうだね。お父さんにちゃんと会わなきゃだよね。病気なら、なおさら」


「クラリス、偉いですよっ!」


 ライカはクラリスの成長を感じたのか、我がことのように喜んで見せる。

 よっし、いい流れだよ。

 あとはクラリス様を連れて行けば万事完了だ。


「ちょっとぉ、何よあんた!?」


 クラリス様の件が片付きそうで胸をなでおろしていたら、聖女の声が聞こえてくる。

 いかにも誰かを非難するような声である。

 また変なモンスターでも現れたのだろうか。


「アンジェリカ?」


「……パパ?」


 そこにいたのは私の父親だった。

 名前はアーカイブ・ロイヒトゥルム・エヴァンジェリスタ。


 錬金術師として世界中を巡って旅をしているはずなのに、なにゆえ!?

 父は大きめのフードの付いた相変わらずよくわからん服装をしていた。

 巨大な袋を担いでいるのもいつも通り。

 腰に七色に光る謎の装飾が施されており、そこには文字が浮かんでいた。

 謎が謎を呼ぶ男である。


「いやぁ、ここに古代の遺物があるって聞いてやってきたんだよ。アンジェリカも元気そうだねぇ」


「ま、まぁ、元気だけど……」


 父親は私たちの戦闘を見てなかったのだろうか、すごく呑気な表情。

 いや、この人は昔から表情が読めないところがあるけど。


「えぇ!? このお子さん、いや、この方がお師匠様のお父さま!? どう見ても、年下じゃないですか!?」


「……弟の方がまだしっくりきますわ」


 ライカとクラリスが驚きの声をあげるのも無理はない。

 なんせ、うちの父親はなんというか幼いのである。

 精神的に幼いとかではない、物理的に幼いのだ。

 魔法薬の服用のし過ぎだと思うのだが、母曰く、出会ったころから変わらないとのこと。

 正直、十四歳ぐらいにしか見えない。


「じゃ、仕事しちゃうからね! おぉおおっ、あった、あったぞっ! ビンゴじゃん!」


 私の父は変人である。 

 そもそも、人の話をあまり聞かない。

 彼は地面に付着した何かをこそぎ落とすと喜びの声をあげていた。

 それから聖女の近くにあるゴミみたいなのを拾うとそれも回収。


「ゴミを拾ってますね?」


「いや、深い意味があると思うんだよ、本人的には……」


 うちの父親は昔からヘンテコなものを集める習性があった。

 道端の石、崖に生えた草、空を飛ぶ魔獣。

 それらを魔道具や魔法の薬にしてしまう腕はすごいのだが、その過程が異常なのだ。


「うははは、今日は大漁だぁ」


 あの聖女でさえ拾おうとしないようなものを嬉々として回収している様子はかなり痛い。

 父親の痴態を前にして、私の背筋には冷たい汗が流れるのだった。


 聖女といい、父親といい、どうして私が会いたくないやつと再会するんだろうか。

 頭がアレな勇者と再会した方がよっぽどましである。

 父親の奇行にこれまで積み上げてきた私の威厳が目減りしていくのを感じる。


「アンジェリカ、久しぶり」


「ママも!?」


 それからしばらくして、うちの母親も現場に到着。

 パパで驚かされたので、そこまでびっくりはしていない。

 ママは相変わらず元気そうだ。

 明るい瞳に私とは違った赤色の髪。

 生粋の獣人なので老けにくいのか、私の姉に見えるかもしれない。


「こら、そろそろ行くよっ! アンジェリカのお友達に迷惑がかかるでしょうが!」


「もう少しだから、待ってよぉ」


 うちの母と父はそれからしばらく押し問答をして、父が引きずられる形でいなくなった。

 まるで駄菓子を買ってもらい損ねた悪ガキのような感じで。


「や、やっと終わったの?」


 私としてはさきほどの戦闘よりよっぽど肝が冷えた。


「あ、あれがお師匠様のご両親……! お父さまの方はまるでお師匠様みたいでしたねっ!」


「なんていうか、先生は父親似なんですのね。色んな意味で」


「どういう意味、それ?」


 二人の感想は少し私の胸をざわつかせる。

 あの変人に似てるなんて言われて嬉しいはずもない。


「いや、ほら、お師匠様そっくりで執着がすごいところとかっ! 人の話を聞かず、空気読まないところとか」


「体型ですわ! お母様はぼん、きゅっ、ぼんでしたし! 先生はお父様にそっくりです!」


「心も、体も!?」


 手塩にかけて育てた弟子のまさかの反抗である。

 体型についてはわかってたよっ!

 うちのママはあんな体型なのに、なんで私はって!


「へー、今のガキがあんたの父親なの? 笑えるんだけど。なんかガラクタを集めたり、床の塗料を引っぺがしたり憐れなことをして消えたけど、私は優しいから分けてあげたわ! 感謝しなさい」


 素材の回収が終わったらしく、ルルルカたちもこちらにやってくる。

 ゴミを分けただけなのになんで偉そうなんだ、こいつは。


「聖女様、あの塗料は古代ユンカース塗料といって、希少な暗黒金剛石でつくられたものですよ?」


「なによそれ!? あのゴミが希少ってことは売れば儲かったってこと!?」


「聖女様が袋に詰め込んだガラクタの数万倍でしょうね」


「ミナモト、あいつを追うわよっ!」


 聖女は「許さん、許さんぞぉおお」などと、おっさんみたいな雄たけびをあげながら去っていった。

 あの女、お金にうるさい割に鑑定眼がないのだ。

 とにかくキラキラしてれば価値があると思っており、物の真贋を見抜けない。カラスみたいである。


「よっし、街に戻ろう。クラリス様を王宮に届けるために!」


 そして私たちは廃教会を出て行くことにした。

 ネズミはやっつけたし、一応、依頼はクリアってことでいいのかな?




◇ 大臣さん、むせび泣く



「大臣様、いよいよ、破壊の天使の目が解放されました!」


 ここは大臣たちの秘密の研究所。

 人里離れたその砦で、大臣たちは古代兵器の研究を行っていた。

 その狙いはこの世に現れた破壊の天使をコントロールし、自らの兵器にすることだった。

 大臣は国民から巻き上げた資産をそこにも投入していたのだ。


「うふふふふ、大臣! ついに我々の悲願が成就します! これで私たちは無敵の力を得ることができるのです!」


 興奮した声をあげるのは主任研究員のアーカイラムだ。

 彼女は有数の魔法学院の教授であるが、その一方で大臣の邪悪な研究に手を貸していたのである。


「よし、これならいけますっ!」


「教授、すごいことですよ!」


 彼女の傍で研究員たちも喜びの声をあげる。

 有史以来、誰も成し遂げたことのない天使の操縦がついになされようとしていたのだ。

 それも破壊の天使とよばれる、強力な力を持つ天使だ。

 人間によって召喚されているため、本来の力を発揮できないとはいえ、魔王にも匹敵する力を持っているのは明白だった。

 天使が一体でもいれば、隣国を征服することはもちろん、世界に覇を唱える強国になるだろう。

 

「ふはははは! これがあればワイへ王国どころか、世界を統べることができるかもしれませんね!」


 大臣は喜びのあまりぴょんぴょん跳ねまわる。

 まるで子どものような喜びようだが、今は眉をひそめるものはいない。

 事実、今から起きようとしているのは歴史に残るほどの奇跡なのだから。


 しかし、その数秒後、彼らは焦りの声を上げることになる。

 操縦のための魔導装置がおかしな音をたて始めたのだ。


「きょ、教授!? 天使を操縦できませんっ!」


「魔力が桁違いに強すぎます!」


「ええい、こちらも全てを出力しろっ!」


「もうすでに危険水準まで放出しています!」


「な!?」


 次の瞬間、魔導装置から煙が上がる。

 しかも、それだけではない。

 何らかの攻撃魔法が研究所に降り注いだのである。


 光の槍にも見えるその魔法攻撃は建物の壁に一瞬のうちに大穴をあける。

 それも一発や二発ではない。

 何発もの攻撃である。

 分厚い壁にチーズのように穴が開き、それはまるで終末戦争を思わせるほどの威力だった。

 それは拘束を嫌った破壊の天使が放った攻撃なのだが、大臣たちは知る由もない。


「ひ、ひ、避難しろぉおおお!」


 大臣たちは必死に逃げだし、間一髪、命だけは守ることができた。

 しかし、多額の資金を費やした研究所はみるも無残な有様。

 キラキラと輝いていた計器類も今ではゴミの山である。 

 

「どうしてだ、どうしてだぁあああ!? アーカイラム教授、あなたは首です! この役立たずがぁあああ!」


 大臣はむせび泣きに泣き崩れ、八つ当たり気味にアーカイラムに首を宣告する。


「なぁっ!? もとはと言えば、あなたが資金を出し渋るからではないですかっ! 本来の規模の数分の一ですよ、これは!」


 これまで大臣の独断専行に煮え湯を飲まされてきたアーカイラムも黙ってはいない。


「何を言うか、このインチキエルフが!」


「黙れ、この業突く張りが!」


 アーカイラムは大臣の頬を思い切り引っ張る。

 ガレキと化した研究所の前で、醜い争いが繰り広げられるのだった。

 そして、アーカイラムは大臣とたもとを分かつ。

 数年間の研究がすべて水泡に帰したことを嘆きながら、彼女はアウソリティ魔法学院へと帰るのだった。


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