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83.賢者様、天使を送還してミッションコンプリート!



「喰らうがいい! なにっ!?」


 私がものすごくかっこつけて魔法を放とうとした瞬間のこと。

 天使の足元に植物のつるが絡みついた。


「な、なに!?」


 さらに天使の足元が陥没。

 突然開いた穴につまづいて、盛大にバランスを崩す。

 美しい容姿をした天使であるが、地面に強打して「ぶべ」と間抜けな声をあげる。

 カエルみたいな雑魚い声である。


「あははは! ざまぁ! だっさぁ!」


 緊張の糸が緩み、私は思わず笑ってしまう。

 だってあまりにも無様な倒れ方だったのだ。

 これは私の性格が悪いとかじゃないよ、念のため。


「よぉっしゃあああ! 見ましたか、お師匠様! 犬兎いぬうさ、共同ドリルですっ!」


「やりましたわっ! 敵を騙すにはまずは味方からですわっ! エムペペもお利口でしたわ!」


 大ピンチの時に天使を転ばせるというファインプレーを引き起こしたのは、ライカとクラリスの開けた大穴だった。

 彼女たちは撤退すると見せかけて、実は地中に潜っていたのだ。

 なるほど、天使の足に絡みついたのはモンスター植物の蔓だったのか。


「聖女様、魔力回復薬をお持ちしました」 


「あ、ありがとっ!」


 さらに言うと、ミナモトさんも帰ってはいなかった。 

 彼女もライカたちと同様、ことの成り行きを見守っていたらしい。


「今のは誰だ!? 小癪な獣人どもめ、貴様らから先に葬ってやる!」

 

 もちろん、転ばされた天使様が穏やかにしてくれるはずもない。

 大きな声で絶叫すると、巨大な槍を出現させライカたち二人の前に歩み寄っていく。

 もし、それが放たれればこの空間ごと消えてしまいそうな槍である。


「くっ、負けませんよっ! この戦いが終わったら、クラリスはご飯をいっぱい食べるんです!」


「ひぃいい、ライカ、それ絶対に死ぬやつですわ! それも私のが死亡率高い!」


 さしものライカも天使の迫力には気圧されているようだ。

 クラリス様は言わずもがなでパニック状態。


「私の弟子に手を出すな、このバカちんがぁっ!」


「ぬがっ!?」


 そんな時、私は死の尻尾鞭を発動!

 天使の足首を捉えたそれは、彼女をさらに盛大に転倒させる。

 顔からまともに転び、ライカの開けた穴に墜落していった。

 かなり痛そうだ。

 強敵の醜態に私は思わず吹き出してしまう。


「あはははは! 見た、今の? あの転び方、すっごくださくない? うける」


「……あんたの戦い方、相変わらずサイテーね。天罰が下るわよ、絶対」


 聖女がジト目を向けてくるも無視である。

 戦いとは非情なものだ。

 勝利に直結するなら、煽ったり、罵倒したりするのも敢えてやるべきなのである。

 決して、私の性格が悪いからじゃないよ。

 決して、私の性格が悪いからじゃない。

 大事なことなので、二度、言っておく。


「おのれ、おのれ、許さぁああんっ! 特に邪悪な猫娘め、私を笑ったなぁああ!」


 天使は完全にキレていた。

 その手には巨大な光の槍が輝き、辺り一帯を焼き尽くすつもりらしい。


 怒りっぽい天使様である。

 私はただ噴き出しただけなのに。


「お師匠様!?」


「危ないですわっ!」


 ライカたちの悲鳴にも似た声が飛んでくる。

 大丈夫だよ。

 私はもう送還魔法陣を書き終えているから。


「ルルルカ、今からすっごい魔法を使うから魔力同調をお願い!」


「はぁ? なんで私があんたに魔力同調なんかするのよ? てか、どうやってアレを魔法陣まで誘導するわけ?」


「いいからっ! 今は説明してる暇がないのっ!」


「ちゃんと説明してよ! そうやってはぐらかされてよかったことなんて一度もない! 前も魔王の城の宝を崩壊させたし」


 ルルルカはとことん面倒くさい女である。

 ちょっとでも自分をないがしろにされたと感じたら、どんな場面でもネチネチ言い始めるのである。

 しまいにゃ「それなら他の人から魔力をもらえばいいじゃん」とかすねはじめるのがオチだ。

 過去のことまで持ち出して詰められるなんて、本当にいい性格をしている。


「お師匠様たちって、案外、気が合わないんですね……」


「私とライカでさえ協力しましたのに……」


「聖女様、めんどくさっ……」


 三人はそんな私たちにジト目を向ける。

 特にミナモトさんの視線は冷ややか過ぎて怖いぐらい。いいぞ、もっとやれ。


「こいつら本当に救いようがないな。愚かなやつらだ」


「お父様、人間の本質は千年経っても変わらないんですね」


 しまいにゃイルミナさん父子にも愚痴を言われる始末だ。

 親子で殺し合いしようとしてた、あんたらに言われたくない。


「わかったわよっ! そのかわり、あの魔道具は私がもらうからね!」


「いいよ、別に」


「なぁんだ、それならやってあげるわっ! ほぉら、天使様、こいつを狙ってちょうだい!」


「おぉふ!? ちょっと、私を盾にするみたいに!?」


 聖女は私の後ろに回り込むと、背中に魔力を送り込んでくる。

 いわば私一人が天使と向き合うという構図だ。


「御託はすんだか? 貴様らは神の国に不要だ! 塵となって滅ぶがいい!」


 天使はにやりと口の端を歪めると、その巨大な槍を大きく振りかぶる。

 おそらくは横薙ぎの一振りで私たち全員を屠ろうと思っているのだろう。


 しかし、しかし、そうは問屋が卸さない。


「猫神よ、一名様ぁ、ご案内っ!」


 私の魔法陣から大量の猫が溢れ始める。

 これはただの猫である。

 だが、この世には「ただの猫」など存在しない。

 

 そもそも私は不快に思っていたのだ。

 何が天使だ、と。

 この世には天使よりも上の存在である、神というものがいるではないかと。

 そして、この世における神とは何か?

 言うまでもない。

 猫こそ神なのである!

 いかに天使だろうが、神の前には無力ぅ!

 これぞ、猫魔法、【101匹猫神大行進ディバインマーチ】!


『にゃははははは』


『いらっしゃいなのにゃ!』


 猫神様は天使を取り囲むと一斉に担ぎ始める。

 この魔法は神々しい魅力を持った猫様を101匹も召喚するものなのだ。

 さしもの天使様であっても、大量のもふもふとむくむくに取り囲まれて、正気を保っていられるだろうか?

 

「な、な、なんだと、猫だと!? ふ、ふ、ふにゃあああああ!」


 途中までは歯ぎしりをして堪えていた天使だったが、やはり無理だった。

 顔を茶トラの猫に覆われたあたりで、膝をつき、そのまま地面の上にしずんでしまう。


『にゃははは! 大行進なのにゃ!』


 それからあとは簡単だ。

 送還魔法陣までまっしぐらで運ばれていく。


「こんなことが、こんな素晴らしいことが、何というもふもふなのだ」


 天使と言えど理性なんてものでかみの誘惑を抑え込めるはずがない。

 その顔は愉悦にまみれていて、今にも昇天しそうだったのは言うまでもない。

 そもそも、天使の鎧に獅子の顔が彫られているところからして、ネコ科の動物にはめっぽう弱いのはわかり切っていたこと。

 世の中の人は知らないかもしれないが、猫は小さな獅子と呼ばれているのだ。

 逆もしかり、獅子は大きな猫なのである。

 

「こ、これは、私が天国へと送り出されているのか!? 貴様らぁああああ、感謝しよう」


 沢山の猫に囲まれたまま、天使は昇天していく。

 どこに行ったか知らないが、きっとかみの国に行ったんだと思う。

 送還魔法陣を学んどいて本当に良かった。


「お師匠様! すごいですっ!」


「天使を追い返しましたわ!」


 ひと段落が付くと、ライカとクラリスが満面の笑みで駆け寄ってくる。


「いや、二人のおかげだよっ! 本当にナイスアシスト! 二人のことを足手まといだなんて思った私が恥ずかしいよ」


「ひへへ! わたし、これでも一人前の魔法使いですからっ!」


「私もですわっ!」


 ライカとクラリスがいてくれたことは嬉しい誤算だった。

 あの時、天使が転ばなければ、もっと荒っぽい方法しかとれなかったと思うし。


「あ、ありがとうございました。賢者様、聖女様!」


「う、うぅううう、心から感謝する」


 振り返ると、イルミナさんとそのお父さんの姿も。

 先ほどまでは仲違いというか口げんかをしてたけど、やっと仲直りしたようだ。

 二人の姿はうっすらと透明になっていき、やがて消えていった。

 この世界に執着するものがなくなって天国にでも行ってしまったのだろうか。


【賢者様の魔法】

101匹猫神大行進ディバインマーチかみを召喚し、担ぎ上げてパレードをする魔法。もふもふとむくむくに囲まれたものは歓喜のあまり正気を失ってしまうことも多い。


聖女様の性格がアレすぎて引かれてないか心配です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 顔面モフモフ(乗っかりされる)を受けただけでもヘブンなのに全身だと… そりゃ天国邂逅じゃないか!?
[良い点] もふもふの極楽浄土じゃ… [一言] 最近はチャウチャウの仔犬が好きです。
[良い点] アンジェリカの性格悪い~ アンジェリカの性格悪い~ 大事なことなので、二度、言っておきます! 爆笑しました
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