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71.大臣、無理やり奪った魔力同調装置で痛い目を見る




「ふぉおお、これが海の中ですか! これはいい! さぁ、網から出してください!」


 大臣の言葉に従って、人造魔獣リヴァイアはついに海の中に解き放たれた。

 魚類を思わせるフォルムであるが、海竜の力を持つ魔獣である。

 並みの船では太刀打ちできないだろう。


「大臣殿、お上手ですよ!」


「そうでしょう、そうでしょう。魔術学院時代には魔力同調のジャークさんと言われたものですよ」


 大臣は側近たちの誘導に従って、魔獣を操って見せる。

 操縦を褒められたことで彼は得意になっているのだった。


「あともう少しです! このまままっすぐで行けば船を攻撃できます!」


 アーカイラムは興奮の声をあげる。

 大臣の操る魔獣がまっすぐに国王の乗る大型の帆船に近づいて行くからだ。

 大臣がわがままを言い出した時にはどうしたものかと思ったが、何となりそうでよかったと胸をなでおろす。

 彼女にとってリヴァイアは自分の子どものような存在である。

 本当であれば、大臣のような男に操作させたくはなかったのだが。


「ふははは! それでは行きますよ! ワイへ王国の崩壊を見るがいいです!」


 大臣は興奮して大きな声をあげる。

 一同はリヴァイアの鋼鉄のような尾びれが船にめり込むのを見逃すまいと目を見開く。


 しかし、ここで意外なことが起こった。


「なぁんでしょうねぇ、あれは……? とても素晴らしいものがあるようですねぇ」


 大臣は突然、リヴァイアの向きを変えてしまうではないか。

 うわ言のようなことをつぶやいている。

 

「だ、大臣殿! このままでは埠頭に激突しますよっ!?」


「ひ、は、は、はっ!? そ、そうだった。うぬぬ、何ゆえに!? ……ぐぬぬ!? う、動かんぞっ!?」


 アーカイラム教授が大臣の体を揺らすと、大臣はすぐに我に返る。

 魔力同調がうまく行き過ぎると、副作用として魔獣の魔力に引きずられることがあるのだ。

 この副作用をいなすことこそがトレーニングの要なのである。

 これだから素人に任せたくなかったのだと、彼女は内心舌打ちをする。


 しかし、さらにトラブルは続く。

 リヴァイアの体に何かが引っかかって、これ以上は動かないと言うではないか。


「な、なんですって!? リヴァイアは海竜ですよ!? おい、魔道具は正常に働いているのか?」


 アーカイラムは魔道具類の故障を疑うが、数値は正常のままだ。

 しかし、こんなところで立ち往生していたのでは、ワイへの見張りに見つかってしまう。

 一刻も早く、目的を遂行しなければならないのにミスは許されない。


「ぬぐぉおおお、ひ、ひ、引っ張られるぅうううっ!?」


 大臣はここでおかしな動きをし始める。

 リヴァイアとの魔力同調が上手くいきすぎていて、リヴァイアの受けている力を彼もまた感じているらしい。


「そ、そんなバカなことがあるか! リヴァイアは海竜だぞ!? 化け物が埠頭にいるとでもいうのか!?」


 アーカイラムの顔が青ざめる。

 彼女の言うとおり、平和なルルロロの街にリヴァイアを引っ張るものがいるとはとても思えない。


「ぬ、軽くなったぞぉっ! よぉし、大丈夫だ。ぐぬ、ぐぬぬ? ふは、ひぐっ!?」


 一進一退を繰り返す大臣。

 何が起きているのかと困惑して目を白黒させる兵士たち。


「な、なんだこの猫は、この力はぁああ!? いたたた! 私をくわえるなど!?」


 その出来事は一瞬のうちに起こった。

 大臣は椅子に座った姿勢のまま10メートルほど後ろにある船尾へと飛んだのである。

 それを目撃した部下の一人が言うには、「冗談みたいな飛び方で笑ってしまった」とのこと。


「ぐぎ」


 大臣は明らかに危ない方向から体全身を強打し、そのまま気絶してしまう。

 部下たちは皆、一部始終を見ていたが、時が止まったかのように呆然としている。

 何が起こっているかさっぱりわからなかったのだ。


 数秒後、我に返った彼らは必死になって大臣を救護する。


「くそっ! 何だこれは! 私の、私のリヴァイアはどこにいるんだっ!? 何が起きた!?」


 そんな中、アーカイラムは予備の魔道具を使ってリヴァイアとのシンクロを試みる。

 リヴァイアの身に何が起きているのか、把握しなければならない。

 必死に魔力同調を行うと、どうやらルルロロの街の埠頭に上がりこんだことが分かる。

 やはり大臣のせいでリヴァイアを暴走させてしまったのだ。

 彼女は内心、「このくそ大臣がぁああ」と激怒する。


 しかし、怒っている場合ではない。

 一刻も早くリヴァイアを逃がさなければならないのだ。

 いくら怪物とはいえ、陸の上にあがってしまっては分が悪い。


「このっ、このっ、動けっ! 動くのだっ!」


 彼女はリヴァイアの身をよじって、どうにかこうにか水に戻れないか模索する。

 このままでは港町の連中に捕まることが目に見えていた。


「よし! いけるぞ! もう少しだっ、頑張れ、私のリヴァイア!」


 体を左右に揺らすと、なんとかリヴァイアを動かすことができた。

 あと数分もすれば、海の中に潜ることができるだろう。

 国王の暗殺には失敗したが、リヴァイアが生きていれば次の機会がまた来るはずだ。

 アーカイラムは決してあきらめない女なのである。


「よぉっし、活〆(いけじめ)しますねっ!」


「な、なんだ、こいつは!?」


 そんな中、彼女が見たのは不穏な顔をして近づいてくる犬人だった。

 その犬人は巨大な怪物であるリヴァイアをみても、まったくひるむ様子はなかった。


 彼女は終始笑顔のままである。


「せぇのっ!」


「ひ、ひ、ひぃいいい、やめろぉおおお!?」


 アーカイラムの叫びもむなしく、その犬人はリヴァイアにとどめを刺すのだった。

 彼女は自分の内側に強力無比な貫き手がめり込んでくるのを感じるのだった。


 失神しながら彼女は思う。

 この犬娘を絶対に許さないと。


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