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65.大臣、進撃のドラゴンタンクを復活させてついに攻め込みます!


「ふはははは、ついに時は満ちた!」


 ここはランナー王国とワイへ王国の国境地帯。

 耕作にも牧畜にも不向きな荒野が延々と続く、不毛の大地。

 夜間にはモンスターも出ることから人は近づくことはないのだが、今日はその岩山にある男の姿があった。

 彼の名はジャーク大臣、ランナー王国の重鎮である。


 彼は岩山に掘られた隠し通路から内側に入ると、その奥で大きな声を張り上げる。

 その視線の先には鈍い光を放つ巨大な魔導兵器の姿があった。


「我が願いに応じて復活するがよい! 魔神機甲ドラゴンタンクよっ!」


 彼は両手を高く上げて、目の前のそれに魔力を送り込む。

 すると、その魔力に呼応し、魔導兵器は震え始めるのだった。


「ひ、ひぃいい、アーティファクトを本当に使うだなんて、無茶ですよ、大臣様ぁあ!」


 大臣の行動に部下たちは口々に悲鳴を上げる。

 これは数百年前に魔獣大戦と呼ばれる大きな戦争があった時代の遺物なのである。

 大陸の形が変わるほどの魔法大戦であり、その激しさは今でも語り継がれている。

 ドラゴンタンクが暴れまわった場所は荒野となり、多くの人々の命を奪った。

 彼らは子供のころより、「ドラゴンタンクが再び起き上がるとき、世界は滅亡する」と聞かされていたのだった。

 

「そんなものは迷信だ! これはあくまでも道具にしかすぎん! わしがワイへの愚か者どもに悪夢を見せてやる」


 しかし、大臣は部下の意見など聞く男ではない。

 彼の本質は傲岸不遜。使えるか使えないか、儲かるか儲からないかにしか関心がないのだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


 そうこうするうちに魔導兵器はむくりとその上体を引き起こす。

 その上半身はまるでドラゴンのような容姿をしており、見るものを畏怖させるのに十分である。

 それにもかかわらず、注目すべきはその下半身である。

 一般的なドラゴンのように脚が生えているわけではない。

 では何かというと、台座に車輪がついたような姿をしているのだ。

 竜の姿をした上半身は台座のようなものと繋がっており、なんとも形容しがたい姿をしていた。


「よぉし、ドラゴンタンクよ我が覇道を開くがいい!」


 大臣は台座に手を触れて、魔力をダイレクトに送り込む。

 その操作法は彼の部下たちが必死になって研究開発したものだった。


 魔導兵器はがこぉんと音をたてると、その背中から巨大な魔導砲を出現させる。

 筒状になったそれは、中央の穴から強大な魔力弾を放出することができる。

 かつての大戦の際には街を焼き、城を崩した伝説の武器だ。

 現在では再現不能な代物であり、アーティファクトと呼ばれる所以でもあった。


「だ、大臣様はここでぶっ放すつもりだぞ!?」


「退避だっ! 全員、退避せよっ!」


 よからぬ空気を感じ取った部下たちは、大臣に確認を摂るまでもなく岩山から出ていく。

 そして、大臣はそれを待たずに魔導砲を放つのだった。


 ちゅどかぁああああん!!


 耳をつんざく音をたてて、岩山には穴が開く。

 もしも、ここが市街地だったら何千人もの人々が一度に命を落とすだろう一撃だ。

 Sランクと呼ばれる凄腕の冒険者たちでさえも、真っ正面から防ぐことは難しいだろう。

 部下たちはその威力に震え上がるのだった。

 

「ぐははははは! まずはこの近くのルルロロから蹂躙してくれるわ!」


 大臣は意気揚々と高笑いし、荒野を進んでいくのだった。

 彼の眼にはもはや人間など小さな虫程度にしか映らない。

 いくら踏みつぶしても、心が痛まないとさえ感じられる。

 

「私の前にあるものは全て踏みつぶす!」


 大臣の心は高揚し、自分こそが最強の存在であると確信してしまっていた。

 これはこの魔導兵器の恐ろしい副作用なのだが、大臣は知る由もない。


 魔導兵器は車輪を付けている割にはゆっくりと荒野を進んでいく。

 そう、この兵器の唯一の欠点はその重量のあまり、足が遅いことだった。



 がこん……。


 荒野を突き進んで数十分後、順調に進んでいた兵器が突然その動きを止める。

 部下たちの話では動力となる魔石は最大限に搭載されているはずである。

 十分な労力をかけて十二分に整備され、試運転も済ませている。

 ここにおいて、故障が起きることはないはずだった。


「な、何が起こっている?」


 大臣は慌てて地面を眺める。

 彼は何もない荒野を進んでいたはずなのだが、絶句することになる。

 魔導兵器が沈んでいるのである。

 

「し、沈んでいるだと!? どういうことだ!?」 


 大臣は焦りのあまり声を張り上げる。

 事前の調査ではこの国境の荒れ地は地盤が固いと報告にあった。

 魔導兵器のあまりの重量に地面に沈み始めているのだった。 


「くそっ、地盤沈下か何かか!? 動け、このウスノロが! さっさっと進むのだっ!」


 その危険性に気づいた大臣は血相を変えて号令をかける。

 しかし、進めば進むほど、地盤がもろくなっているのか、兵器はどんどん沈んでいく。


「ぬぉのれぇええええ!」


 このまま進むのは危険だと本能が告げている。

 とはいえ、引き返すことはできない。

 彼が来た道はさらに脆くなっている可能性が高い。


 進むも地獄、戻るも地獄。

 だが、大臣は自分であればその賭けに勝てると信じていた。


 大臣は魔導兵器に最大限の魔力を送り、最大速度で進むように命令する。



「あ……」


 しかし、その時はあっけなくやってくるのだった。

 彼の操る魔導兵器は地面の裂け目にはまってしまい動かなくなってしまう。

 大臣は嘆息し、部下たちを呼ぶことにした。

 これを掘り起こすのは大変だろうが、致し方ない。

 もっとも、まだ何も失ってはいないのだと自分に言い聞かせる。


「ん? なんだこれは?」 


 魔導兵器は動かされていた。

 少しずつ、少しずつ、流されていた。

 大臣の鼓動が急速に早くなる。

 これは、まずい、そう思うもどうしようもない。


「待て! ちょっと待て! こんなことがあってよいものか!」


 まるで砂の中に飲み込まれるかのように沈んでいく古代兵器。

 かつて世界を滅ぼしかけた恐怖の象徴。

 値千金で手に入れた虎の子のアーティファクト。


「うがぁあああ!? なんだこれは! どうしてこうなるぅううううう!?」


 大臣が懸命に魔力を送り込むと、魔導兵器は上半身をじたばたさせてもがく。

 しかし、いくら暴れても、その沈下を止めることはできない。

 大臣はそれが沈んでいく様をただただ眺めているのだった。


「アーティファクトが! 古代文明の遺産が!! 私の財産がぁあああ!!!」


 大臣の絶叫が夜の荒野に悲しく響くのだった。


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