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58.賢者様、王女様を偽装する



「先生、私も冒険者になれるってことですのね! やったぁですわ!」


 だが、しかし。


 クラリス様の言葉で一気に現実へと引き戻される。

 そうなのである。

 彼女の処遇については何にも解決していないのだった。


 そもそも、ハーフとは言え黒うさぎ人はここらへんにはあまりいない種族の獣人である。

 クラリス様は動きが予測不能だし、性格はライカ以上にアレだし、目立っちゃうよなぁ。

 私としては速攻でランナー王国に送り届けたいけど、ちょっとぐらいは一緒にいてもいいだろうか。


 腕組みをして考えていたら、クラリス様が思いがけないことを言い始める。


「それと先ほどから気になっていたのですが、どうして先生はイメチェンしたのかしら? 髪の毛とか、顔つきとかお変わりになりましたわよね?」


「げ……そうだった……」


 私の顔は彼女の言葉に凍り付くのだった。

 そういえば、あまりにも驚くことばっかりで、私が姿を偽装していることを伝えていなかったのだ。

 あっちゃあ、それなら赤の他人の振りしてりゃあよかったんじゃん!

 私のバカバカ、とんだこんこんちきのすっとこどっこいだよ。

 頭の中で自分を三回ほどぶん殴る私なのであった。


「うふふ、それはですねぇ、この一番弟子のライカが教えてあげましょう! お師匠様はずばりこの世界のことわりを破壊するために身分偽装しているのです! いわば、冒険者ギルドというシステムへの反逆! 世界の秩序を破壊する暴力の化身なんです!」


 ライカはよくぞ聞いてくれましたみたいに立ち上がると、早口でとんでもないことをまくしたてる。

 ひえぇえ、これじゃ私がとんでもなく危ない、犯罪直前の人みたいじゃん。

 クラリス様に勘違いされたら困るんだけど。 


「……ライカ」


 クラリス様はライカの瞳をじっと見つめる。

 その眼差しは真剣そのもので、熱い炎を宿しているかのように見える。

 そう、おそらくクラリス様はライカに「先生はそんな人じゃありませんよ! 平和の化身みたいな人です!」ときつく抗議してくれるのだろう。

 なんせ彼女は私が前職でしっかりと愛と正義についてレクチャーしたのだ。


「分かりますの! 先生って、可愛い顔して根っからの危険人物、無秩序主義者ですのよね! でも、そこがいいと私は思っておりますの。このまま、まっすぐ曲がったまま育ってほしいですわ!」


 まさかの逆だった。

 クラリス様はライカの手を取って、うんうんとうなづく。

 まっすぐ曲がったまま育つって、何だその表現。


「クラリス、あなたのこと、ちょっと勘違いしてたみたいです! あなたとは刺すか刺されるかだと思ってましたけど、どうやら分かってる側の人間じゃないですか!」


 ライカはライカでうんうんと力強くうなづく。

 なんなのこれ、どうして二人とも通じ合ってるのよ!?

 さっきまで仲違いしてたのに、同じサイドにいるってこと!? 何の!?


 お互いを呼び捨てにするほど、仲良くなったのはいいことだけど、これはこれで怖いというか。

 そもそも、話が進んでないし!


「簡単に言えば、お師匠様はFランク冒険者に戻って自由を謳歌するために変身したんです」


 私が目を白黒させていると、ライカが今度はすぱっと言いたいことを言ってくれる。

 言いたかったことそのものであり、この子、わかってるんじゃん。

 わかってるなら最初からそういえばいいのに。



「ええと、実はだね……」


 そういうわけで、私はこれまでの経緯をだいぶ端折って教えてあげることにした。

 世界を旅しながら獣人に魔法を教えることや、獣人の魔法理論を完成させること。

 そして、獣人のための魔法学校を作りたいなんて言う野望なんかも。


「魔法学校を作るなんて感銘を受けましたわ! 私、留学先のアウソリティ魔法学院でも差別を受けましたし、攻め込んで滅ぼしてやろうかと本気で思いましたのよ! 実を言うと、お父さまに戦争をけしかけるために戻ってまいりましたの! 冗談ですけど」


 クラリス様はその中でも獣人向けの魔法学校のアイデアにやたらと食いついてくる。

 どうやら先日までの留学先で嫌な目にあったようだ。


 確かに獣人向けには魔法のクラスなんてないだろうからなぁ。

 それにしても、一国の王女であるあんたが「戦争」だなんてことを言うとシャレにならないからやめて。


「クラリスも、あの極悪低俗魔法学院に行ったんですか!?」


「ライカも!?」


 話を聞けば、彼女もライカと同じ魔法学校に留学したとのこと。

 いやぁ、偶然ってあるものだねぇ。

 しかし、極悪低俗は言いすぎだと思うけどなぁ。

 アウソリティって帝国でも有名な魔法学院でしょ?

 確かあの、アーカイラムとかいう腐れハーフエルフもそこの教授だった気がする。

 ……極悪低俗だね、うん。


「と、いうわけで、私も先生みたいな身分偽装をお願いしますわ! このままじゃ冒険者になれせんもの」


「ひぇええ、まじで!?」


「先生、私、白うさぎ族を所望いたします! 白い耳のかわいいのに」


 クラリス様は私の魔法で身分偽装をしたいと懇願してくる。

 ぐぅむ、どうしたものだろうか。

 これって一応禁忌魔法だし、人様にかけて大丈夫だろうか。

 別に死んだりすることはないと思うけど。

 

「お師匠様、どうしても嫌だったらウサギ女を白ナメクジにしてもいいんですよ? ……冗談ですけど」


 ぐぅむとうなる私の耳元でライカが小声でアドバイスしてくる。

 なんてとんでもないことを言うんだね、君は!?

 冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょうが。

 大体、目が笑ってないし、怖いよ!?


「あぁもう、わかったよ! クラリス様、ここに座ってください」


 とはいえ、ライカの一言で吹っ切れたのも事実。

 王族を連れて旅をするなんて、一時的であっても非常にリスキーだよね。

 私のダラダラのんびりFランク旅が阻害されるかもしれないし。

 ここは一つお願いを聞いてあげてもいいかもしれない。

 


 そんなわけで私は彼女を座らせて、件の禁忌魔法【猫の液体仮説ビヨンドザルール】をかけることにした。


「世界のことわりから逸脱した、あまたの猫たちよ……」


 ごごごごごごごごご………


 魔法を詠唱すると、目の前には液体の猫、固体の猫が仲良く行進する。

 それらはやがて一つの渦を形成していく。


 ばしゅううううんんん………


 凄まじい光が足元から沸き起こり、とてもじゃないけど目を開けてはいられない。


「せ、先生!?」


 そして、目を開いた時には、目の前には白うさぎの耳をぴょんと突き出した女の子が立っていた。

 体型や顔立ちはほとんど変わらないが微妙に違う。

 そう、私の魔法は成功し、クラリス様は赤の他人へと変貌を遂げたのだった。


「やったぁあ! ありがとうございますぅう!」


「むごがっ」


 抱き着いてきてやたらと喜ぶクラリス様である。

 そんなに白うさぎ族にあこがれていたのだろうか。

 彼女はなかなかの発育ぶりである。ちっくしょう。


 こうして、私たちの忙しい一日は終わったのだった。


 よぉし、明日から本格的に魔法修行を始めるよっ!


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