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52.ジャーク大臣の破滅:魂を癒してくれた唯一のよりどころがアレになってしまう。ドンマイ!

「な、なんですってぇえええ!? レイモンドが捕まったですって!? カヤックも!? なぁっ、ジャグラムもだとぉおおお!?」


 ここはランナー王国の大臣の執務室。

 彼の部屋に部下が大慌てで駆け込んできて、驚きの報告をした。


 大臣の腹心であるレイモンド、カヤック、ジャグラムの三人が捕縛されたというのだ。

 本来であれば、ジャグラムの作戦の成功を耳にするべきタイミングのはず。


 それがまさかの捕縛である。


「まさか作戦が敵にバレたというのだろうか? おのれ、冗談にもならないことを!!」


 大臣の喉は急速に乾き、膝がわなわなと震え始める。

 このままではワイへ王国に大義名分を与え、こちらが攻め込まれる可能性すらある。

 

「いえ、お三方ともワイへ王国の近くのダンジョンで女性冒険者を襲った変質者としての捕縛だそうです」


「なぁあぁっ!? 変質者ですって!?」


 三人が捕縛された理由は全く予想外のものだった。

 

「あの面汚しどもがぁあああ!」


 今思えば、三人とも自分の欲望に正直そうな愚かしい顔をしていた。

 あんな人間を四天王にしていたこと自体が間違いだったのだ。

 大臣は激しい後悔の念に襲われるのだった。


 しかし、そうは言っても三人の作戦に多大な投資をしてきたのもの事実だ。

 レイモンドの魔道具、カヤックのモンスター軍団、そして、ジャグラムの怪しい研究。


 いくら潤沢な資金を有する大臣とはいえ、全てが水泡に帰したのは痛かった。

 大臣は唖然とした表情で部下の失態の知らせを聞くのだった。



「くそっ、忌々しい! 今日の仕事はこれまでにしますよっ!」


 大臣はワイへ王国侵略計画が一向に進まず、イライラしていた。

 彼は仕事を切り上げると屋敷に戻り、人払いをして寝室へと向かう。


 そこには彼の心のよりどころ、すなわち、あの手この手で収集した宝飾品が収蔵されているのだ。

 どんな苦境に立っていても、どんなに部下が愚かでも、金銀財宝を見ていれば心は豊かになっていく。

 キラキラと輝く宝石や永遠のきらめきを宿す金の像、それらは絶対にいなくならない。

 まるで砂漠の中のオアシスのような存在なのだ。


 そして、この財力こそが大臣を権力の座にとどめる最大の要因だったのだ。


「ただいまぁ、私の宝物ちゃん!」


 大臣は寝室の隠し扉を開けると、宝物に猫なで声をかける。

 まったくもって不気味な習慣である。



 ゴゴゴゴゴゴゴ……、ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 しかし、そこで事件が起こった。

 突如として床や壁が揺れ始めたのだ。


「な、なんですか!? じ、地震ですか?」


 大臣は思わず、壁に手をついて揺れが収まるのを待つ。

 忌々しい地震め、などと天変地異にすら悪態をつきながら。


 しかし。


 しゅどごぉおおおおおおおおん!


 次の瞬間、大臣は目にすることになる。

 宝物庫の床に魔法陣が現れ、その範囲内の全ての宝を消滅させる様を。

 金銀財宝の全てが、青い光の中に溶けていく様を。


「ぴ?」


 人はあまりに強いショックを受けると、冷静に受け止めるどころか、まともに反応することさえ難しい。

 大臣の場合、小鳥のさえずりのような声を喉から発すると、5秒ほど硬直するのだった。


「ぴ、ぴぇええええ、私の宝がぁあああ!? 全財産がぁああああ!?」


 大臣は絶叫する。

 避けようのない、突然の悲劇に。

 これまでの人生をかけてきた我が子同然の宝物との別れに。


 彼の脳裏には「破産」の二文字がくっきりと浮かび上がる。


 彼は知らない。

 すべての災難は彼が追放したアンジェリカによってもたらされた、ということを。


 大臣はただただむせび泣くのだった。

※次回で第一部がおしまいとなります!


「面白かっタ」


「続きが気になル!」


「アンジェリカは何もやってないのに……」


と思ったら、


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