44.賢者様、めちゃくちゃ凶悪なピタゴラな方法で敵をスイッチする。
「なんだこのモンスターは!?」
「君たちは下がっているんだ!」
「くふふ、腕が鳴りますね!」
どうしてこうなった。
そもそも、あのイケメンだと思っていた冒険者たちは、男装のお姉さんたちだった。
紛らわしいことこの上なしである。
さらに、である。
ダンジョンの調査中、とんでもなく強そうなモンスターに出くわしたのだ。
口の中に目ん玉があるという強烈な見た目のやつで、触手がうねうねしている。
イビルアイとかいう魔物に似てるけど、かなり大きめだ。
低ランク冒険者なら卒倒しちゃうかもしれないよ。
「くそぉっ、強すぎる! ここは私たちに任せて君たちは先に行けっ!」
「そうだ、Fランク冒険者は明日の光! 唸れ、俺の左腕ぇえええええ!」
「ふふふ、まだまだやれます。今日は死ぬのに一番いい日かもしれませんね?」
彼女たちはぎげぇええと叫び声をあげる魔物を前に、自分たちが囮になると言って駆け出していく。
性格がいいうえに、かっこいい。
非常に美味しいシチュエーション。
そう、つまり、私が囮になれるチャンスはこれっぽっちも残ってないということである。
あぁ、お姉さま方、私たちに「おらっ、てめぇらは囮だ! ここでじっとしてろよっ! 死ぬときぐらいは役に立ちやがれ!」って言ってくれれば良かったのに。
そして、すたこらさっさと逃げ出してくれればよかったのに。
この人達、見た目もいい上に性格もいいなんて、どうして天は二物を与えてくれたのだろうか。
あたしゃ本当に情けないよ。
「あ、あの人たち、行けって言ってますよ? 行くなら行きましょうよぉお? 私、あぁいう、目がぎょろっとしてるの苦手です!」
がっくりしている私の隣で、ロマンもへったくれもないことを言い出すライカ。
さっきから私の袖をぐいぐいと引っ張ってくるのはかわいいけど、どうやら敵のモンスターが怖いようだ。
確かに目の前の魔物は私でさえ見たこともない種類の奴で、ちょっぴり強そうである。
だけど、彼女たちを置いて逃げちゃうことはできない。
「ライカ、あいつらやっつけちゃうよ! 囮になるのは私だけでいいんだよ!」
「さ、さすが、お師匠様です! しびれました!」
私の深い囮哲学に目をキラキラさせるライカ。
そう、私が囮になるのはいいけれど、他人が囮になるのは許せないのだ。
そもそも、私は安全快適なダンジョン探索を約束した。
降りかかる火の粉は排除しなきゃいけないよね。
とはいえ、ここで私が本来の力を見せちゃったら困ったことになる。
あくまでも偶然を装ってやらなきゃいけないわけで。
「ライカ、あの三人が危なくなったら救助をお願いね!」
「わ、わかりました!」
二秒ほど考えた私の結論は、あの冒険者を助けに行くことした。
だけど、ごく自然に、自分の力を見せない範囲で。
どうするかって?
こうするのさ!
「【猫仕掛けの悲劇製造機】!!」
私が必殺の猫魔法を発動すると、沢山の歯車が現れ、それを幻獣の猫様がぽすっと猫パンチを食らわせる。
「ひ、ひげき製造機ですか? そんなの大丈夫なんですかぁ!?」
不安そうな声を出すライカ。
しかし、この魔法、地味に見えて、とんでもなく凄いのである。
よく見ておきなさい!
「どおりゃああ、ぅわたしぃが相手だぁあっ!」
私はいかにもFランクっぽく、逆ギレした感じで戦いの場にダッシュする。
すると、私は右のつま先で小石を軽く蹴り飛ばす。
さぁ、ここからだよっ!
こつん、と勢いよく転がった小石は、ちょうど絶妙なバランスで立っていた岩に衝突。
ぐらん、と岩が揺れ始めると、それは猛烈な勢いで転がり壁に激突。
どがぁん、と壁が音をたてた瞬間、天井がみしみし、ぴしぴし、変な音をさせ始める。
どがぁあああああん!!!
結果、天井が崩壊し、巨大な岩がモンスターの頭めがけて落ちてくる。
目玉のモンスターは「ぴぎし」などと悲鳴を上げて絶命するのだった。
「あひゃああああ!?」
「ひょわわぁあああ!?」
「っきゃああああ!」
お姉さま方は悲鳴をあげるも、何とか無事。
三人とも間一髪命が助かったのもあって、ガタガタ震えているのであった。
まぁ、ちゃんと距離があるから大丈夫だって分かってはいたけどね。
「いやぁ、偶然、落盤が起こるなんてびっくりですねぇ。あはは、びっくりしたぁ」
そんなことを言いながら、三人を救助する私なのである。
三人はちょっと放心状態に入っちゃってるけど、無事でよかった。
実際のところ、これは偶然ではない。
私の魔法によるものなのだ。
そう、これこそが48の殺人魔法の一つ、【猫仕掛けの悲劇製造機】である。かっこいいでしょ?
これは猫がもたらす偶然の悲劇を参考にして作られた魔法である。
例えば、猫はこんなことを平気で起こす。
・偶然、飛び降りた先に飼い主の顔がある
・偶然、歩いていた場所にあったインクの壺を倒し、貴重な書類をダメにする
・偶然、壁を登ってみたら絵画が落ち、さらにはその下にある花瓶を割る
猫とは「まさかそれがそうなるんすか」といった、摂理を超えた悲劇を引き起こす存在。
まさに運命の神の申し子なのである。
かっこよく言えば、環境利用型魔法なのである。
「ぐ、ぐ、偶然を装って人を殺すやつですよね、これ!? え、えぐすぎますよっ!?」
ライカは私のことを極悪人を見るような目で見てくるも、別に人を殺めるための魔法ではない。
見ての通り、魔物をやっつけるためのものなのだ。
人に向かって放ったことなんてないし、48の殺人魔法っていうのはあくまでも表現だからね。殺したことはないよ。
「それにしても、妙だね、これ」
放心する三人や唖然とするライカをよそに、私は落盤でつぶれた魔物を入念に観察する。
明らかにここらへんにはいないはずのモンスターなのである。
どっちかというと、古代の遺跡とかそういうところにいるタイプ。
そんな時だった。
ぴしっ……
私の足元の感覚が消え、視界がぐらりと揺れる。
「でぇええっ!? うっそおぉおおおお!?」
落盤が起きたせいで、ダンジョンの床がもろくなっていたのだろうか。
私の足元が崩壊し、真っ逆さまに大穴の中に落ちていく。
え、ちょっと待ってぇええええ!
◇ 一方、その頃、レイモンドたちは?
「おい、冒険者が来ているぞ?」
ここはワイへ王国にあるとあるダンジョン。
錬金術師のレイモンド、魔獣使いのカヤック、そして、マッド魔法使いのジャグラムは己の身分を賭けた最後の戦いの準備に臨んでいた。
彼らは一致団結して仕事を完遂するという気合を込めて、同じ服装と仮面に身を包んでいるのだった。
彼らは根城にしているダンジョンに冒険者が侵入してきたことを察知する。
もしかすると、自分たちのことを嗅ぎつけて討伐に来た可能性もある。
しかし、彼らはひるむことはない。
「ふはは、それならばちょうどいい。この古代の魔物、レッドアイのエサにしてやろう」
「ぐはは、それがいい!」
彼らは新たに魔物を召喚し、それを冒険者にぶつけることにしたのだった。
魔物はふしゅるふしゅると気持ちの悪い音を立てて、冒険者のもとへと向かう。
古代モンスター、レッドアイ。
無数の触手を携え、人とあれば貪欲に襲い掛かる化け物である。
体に魔力を蓄えることによって肥大化し、やがては城のサイズまで大きくなった例もある。
一般的な冒険者であれば、レッドアイの相手にはならないだろう。
しかし、レイモンドたちは知らない。
魔物が向かった先には、より凶悪な魔物じみた女がいたことを。
【賢者様の使った猫魔法】
猫仕掛けの悲劇製造機:猫とは運命の神に愛された存在であることは言うまでもない。偶然に偶然を掛け算し、もはや必然ともいえる結果を導き出す。この魔法は術者の些細な動作が機転となり、敵を必ず仕留める術理を持っている。発動条件が難しいが、ダンジョンなど障害物が大きい空間だと向いている。四十八の殺人猫魔法の一つ。
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