(紅葉ヶ原 鬼の口)2
黒猫ヤマトは鬼擬きのステータスからある程度を理解した。
ルメール国のオーガ族の戦士、バギオが神隠しに遭い、
ここ山城へ転移させられた。
彼は今、困惑と怒り、恐れが入り混じった状態だろう。
実に厄介でしかない。
残り二体のステータスも視た。
「名前、シュゲール。
種別、オーガ族。
年齢、32才。
現状、神隠し。
性別、雌。
出身地、ルメール。
住所、山城。
職業、戦士。
ランク、B。
HP、45/75。
MP、55/150。
スキル、身体強化中級。
ユニークスキル、ウィンドブレス。
加護、なし」
「名前、グゼール。
種別、オーガ族。
年齢、30才。
現状、神隠し。
性別、雌。
出身地、ルメール。
住所、山城。
職業、戦士。
ランク、B。
HP、45/75。
MP、65/150。
スキル、身体強化中級。
ユニークスキル、ダークブレス。
加護、なし」
二体は雌。
HPこそ低いがそれを補う身体強化を持っていた。
そして、雌二体が得意とするブレス攻撃は山伏の知見にないスキル。
その威力は、ランクとMPからして侮れない。
雌二体はこんな状況にも関わらず、楽しんでいるように見受けられた。
棍棒術を持たないでも余裕で山伏の相手をし、
一撃を入れても弄ぶかのように仕留めない。
見下すのみで、次の相手に向かった。
推測するにオーガ族の性は暴力らしい。
自分達が置かれた状況の把握は後回しなのだろう。
まあ、それも当然かも知れない。
優先すべきは生存だ。
ただちょっと、性をより優先している気がしないでもないが。
健在なのは五名。
倒れているのは六名。
健在な五名は手傷を負いながらも抗し、
倒れた仲間を助け起こそうと懸命になっていた。
その倒れていた六名のうちの二名が行き成り起き上がった。
深手を負っている様子だが、闇雲に駆け出した。
転げるような走りで戦場から離脱した。
それをオーガ族は追わない。
興味をそそらぬらしい。
見ていたのはヤマトだけではなかった。
五名の山伏が窪地に潜んでいた。
《サーチ》すると、戦力たりえない高齢者ばかり。
睨み付けるように凝視している姿から、その悔しさが理解できた。
突然、一人が飛び出そうとした。
それを仲間が押し止めた。
「「「堪えろ」」」
常陸なる者が言う。
「あつらの弱点を見つけるのが我等の役目だ。
死にたいならその後にしろ」
ヤマトはオーガ族から撒き散らされる魔力を読み解いた。
隠しようのない身体強化。
その残滓が洞窟に繋がっていた。
それはオーガ族が洞窟から現われた事を意味していた。
おそらく神隠しで、洞窟のうちに転移させられたのだろう。
なんて気の毒な。
三体がこの土地で生きて行けるのか、行けないのか、
ヤマトに分かる訳がない。
ヤマトは双方に勘付かれたくなかった。
大きく迂回し、洞窟の上に向かった。
大量の土を盛ったような、こんもりした地形だった。
上部は全面が竹藪に覆われていた。
その下に洞窟があった。
ヤマトは洞窟の入り口で迷った。
入るか否か。
入るとしたら神隠しに遭う恐れがあった。
それを憂慮した。
それとは別にもう一つの憂慮。
オーガ族の存在。
ヤマトの侵入に気付かぬ訳がない。
気付いてどう動くか、追って来るのか、無視するのか。
オーガ族の行動が読めない。
ヤマトは躊躇いの中にありながらも、《サーチ》は怠っていない。
生命線だからだ。
その《サーチ》が新手を捉えた。
山伏複数がこちらへ駆けて来た。
視た。
十八名。
うち薙刀持ちが八名。
残り十名は驚いた事に鉄砲持ち。
彼等は窪地にいた山伏達に合流した。
常陸が彼等を迎え入れ、説明を始めた様子。
手前のオーガ族と山伏の戦闘が邪魔して、彼等の話が聞き取れない。
それでも常陸が身振り手振りで説明しているのは見て取れた。
様子から常陸が彼等を指揮下に置いたのが分かった。
新手十八名が窪地から出撃した。
戦闘中の仲間には声は掛けない。
手早く陣形を組んだ。
まず鉄砲持ちの十名が横隊となった。
薙刀持ちは四人一組になって、その左右の端に陣取った。
早い話、鉄砲隊の護衛だ。
オーガ族は長身なので仲間とは区別し易い。
それに角もあった。
間違っても仲間を撃つことはない。
鉄砲持ち十名はしっかりと的を見定めた。
月明かりがあるので大いに助かった。
それぞれの胴体を確認し、中心部に狙いを定めた。
対してオーガ族は、新手に気付いても怯む様子はない。
新手が距離を置いているので、目の前の玩具に遊び興じていた。
まるで鼠を追い詰め、弄ぶ猫。
山伏鉄砲隊にとって、この距離は戦場では有り得ない近さ。
オーガ族が初見の鉄砲を侮っているのが見て取れた。
「放て」
十丁の鉄砲が一斉に放たれた。
全弾命中した。
雄に四発、雌にそれぞれ三発。




