第31話 やり過ぎてしまったかもしれん
スホルバッハの森でジャイアント・スコーピオンを討伐した、翌朝。
「リ、リッドくん、おはよう……!」
「ああ、おはようカティア」
クラスへ向かう途中、魔術学校の廊下で僕はカティアと出くわした。
昨日はジャイアント・スコーピオンを二体ともすんなり倒せたから、日帰りで学校に戻ってこられたんだよね。
「き、昨日は凄かったね……! ジャイアント・スコーピオンを、あ、あんなに簡単に倒しちゃうなんて……!」
「い、いやあ、それほどでも……。それにピサロだって同じように倒してたしさ」
苦笑しながら僕は言う。
……正直、昨日はやり過ぎたよな~と思っている。
今更ではあるんだけど、微妙に気まずいというか……。
ピサロの立場からすれば、四回も魔術を発動してようやく仕留めた相手を一瞬――どころか一言で葬られたワケだから。
彼の胸中は如何ほどのものか……。
昨日は帰りの馬車の中でえらく凹んでた様子だったしな……。
ズーンって感じで……。
僕は肉体こそ六歳だけど、精神はいい歳の大人だし。
本当の六歳児にマウント取っても申し訳ない気持ちになるというか、大人として恥ずかしいまであるというか……。
それにピサロの魔術……アレは本当に立派だった。
〝詠唱〟から魔術発動までの一連のプロセスが淀みなくほぼ完璧だった。
魔力の練りが足りないのか出力・威力こそ今一つだったけど、逆を言えばそれ以外に欠けている部分は思い当たらない。
これは正真正銘の六歳児としては相当凄いと思う。
才能の成せる技なのか、それともよほど努力をしているのか……。
アレなのかな?
ピサロの父親のバルベルデ公爵、彼の教育の賜物なのかな?
でもあの傲慢な性格だと、めっちゃスパルタ教育とかしてそうな悪いイメージがあるんだけどなぁ……。
なんて内心でモヤモヤしながら考えていると、カティアはしゅんとした様子で、
「う、羨ましいなぁ……私もなにか魔法や攻撃魔術を使えればなぁ……」
「カティアは、まだ魔術を使えないの?」
「い、一応一つだけあるんだけど、戦いに使える魔術じゃなくて……。それに私の魔力階位は第二級だから、二人みたいに凄い魔力はないし……」
お、カティアの魔力階位は第二級なのか。
確かにピサロと比べると、彼女から感じ取れる魔力は些か小さいかもしれない。
でも第二級と第一級の差って、具体的にどれくらいなんだろう?
やっぱり結構違うものなのかな?
まあ昨日の結果から特級と第一級にも結構な差があるらしいし、そう考えると彼女がコンプレックスを抱えるのも無理ないのかもしれない。
だけど――
「……そっか。でも僕は僕で、ピサロやカティアが羨ましいよ」
「え?」
「確かに僕の〝呪言〟は強力かもしれないけど、代わりに魔術が使えないんだ。どんなに勉強しようとも、これから先ずっとね」
「そ、そうなの……?」
「うん。そういう意味では、二人の方が未来や可能性はあると思う」
たった一つの強力無比な魔法を使える方がいいのか?
それとも多種多様な魔術を使える方がいいのか?
これは人によるだろう。
でもやっぱり僕は、普通の魔術が使えるのって羨ましいと思えるんだよなぁ。
ないものねだりは人の性だし、隣の芝生は青く見えるものってわかってはいるんだけどさ。
「ふわぁ~……リ、リッドくんって大人っぽい……!」
「え? そ、そう?」
「うん! な、なんだか同い年とは思えないくらい!」
――ギクッ
あまりに的を射た一言に、心臓が口から飛び出そうになる。
僕は激しい動悸を必死に隠しながら、
「ぼ、ぼぼぼ僕は立派な子爵を目指してるから……? すす少しでも早く大人になりたいな~って、そう思ってるからさ……? ア、アハハハ……」
冷や汗をダラダラ流しつつ適当に答える。
いや、たぶんバレることはないというか、バレても信じてもらえないとは思うけど、いざ看破されたようなことを言われると心臓に悪いな……。
ホント勘弁してほしいよ……。
そんなことを思いつつ、僕とカティアはクラスへ到着。
ガラリと教室の扉を開けた。





