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生命ーいのちー  作者: ヒロっぴ
2/8

優子と友子





        ー1ー




『もう!忙しいったら、ないわ!』




優子ゆうこは、6時間目の授業が終わると、教科書を鞄に詰め込みながら言った。





『しょうがないじゃないの。私達は受験生なんだから。』






隣の席の友子ともこはそう言うと、サッサと教室を出ていってしまう。






『あ、待ってよ。ユウコ。』





友子ともこは、中学生の頃から音読みでユウコと呼ばれている。



高校に進学して優子と同じクラスになってからは、ダブルユウコと呼ばれ、遠くから『ユウコ!』と呼ばれると二人が振り向くという現象は、もはや名物にさえなっていた。




優子はパタパタと友子の後を追って教室を出た。






バタバタと友子に追い付いた優子は、





『ねぇ、今日はあんみつ食べて帰るでしょ?』






と言って、友子の顔を斜め下から覗き見た。





優子が特別に背が低い訳ではなく、159センチと一般的なのだが、友子は男子の中にいても遜色ないくらいに背が高い。

もう少しで170cmに届きそうだった。





『なぁに?さっき忙しいって言ってなかった?』






『へへ~。実はそんなに忙しくないんだよねー。』







愛嬌のある笑いかたをする優子に、友子は『全く……』と言ってから、ガバッと首根っこを脇に抱えて、『かわいいやつめー。』と振り回した。





優子はジタバタしながら、『ヘルプ!ヘルプ!』と言っている。







今はもう引退したが、二人ともバレー部で、優子のセッターと友子のアタッカーはいいコンビだった。




チームは強くないのだが、二人のコンビプレイは目を引いた。




二人とも現役の頃はショートヘアーだったが、引退が近付くと優子は伸ばし始め、今では流行りの聖子ちゃんカットに。


友子は肩口までは伸ばしたが、比較的ショートをキープしている。





『ユウコはやっぱりお医者さんになるの?』



『そうね。お母さんみたいなカッコいい女医さん目指してたけど、最近はスポーツ医学もいいかなって。』





『あー、金子さんね。』





優子達のひとつ上の先輩でバレー部の部長だった金子恵。



大学へのバレー推薦も決まっていたのに、試合中の怪我が元で、選手を引退することになってしまった。




その時の先輩を見ていた部員達は、みんな心に傷を負ってしまった。




あんなに快活でキラキラとしていた金子先輩が、みるみるやつれていくさまは、見るに忍びなかった。




卒業する頃には、なんとか気持ちを切り替えて前向きに目標を決めたようだったが、以前の先輩を知っている優子達から見れば、あきらかに変わってしまっていた。





そんな先輩を目にして、友子はスポーツ医学に興味を持っていったのだ。






『優子は美大でしょ?』





『うん。』




『イラストレーターになるのが夢だもんね。』






昔から絵を描くのが好きだった優子は、バレー部の練習に明け暮れながらも、暇を見つけては絵を描いていた。




授業中に見つかって怒られることも何度かあったが、その絵を目にした先生は必ず感心していた。





『凄いじゃないか!』




『へへ~。』




『だが、今は授業中だ。これは没収な。』



と言って没収されて、後日返されるのがお決まりだった。




甘味喫茶に着いた二人は、お目当てのあんみつを頼む。




『久しぶりだなー。』




優子は、夏休みが終わり、部活を引退して受験に専念するようになってから、大好物のあんみつを自粛していたのだ。




『あんた、自粛するって言っても、一週間に一回が月に一回になっただけじゃない。』



『それは大変な自粛だよー。』





優子は泣き真似をして見せた。





『全く……、あ、そういえば、こないだのあの人どうなったの?』




友子に聞かれて優子はギクリとした。




『え?……なんの事?』





とぼけて見せる。






そんな優子に友子は懐疑的な眼差しを送る。





『あー、あんたまさかあんなかっこいい人と付き合いはじめて、黙ってるとかじゃないでしょうね?』





『ち、違うよ。ま、まだ付き合ってるとかじゃないし、一回映画に行っただけだもん!』




『やっぱり会ってるんじゃない!』




『あー、しまった~。』




優子は大袈裟に頭をかかえてみせた。




.







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