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令和時獄変  作者: 青井孔雀
第7章 大東征
99/126

99. 祈りの先

全国戦没者追悼式:総理大臣式辞



 天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、戦没者の御遺族、各界代表、多数の御列席を得て、全国戦没者追悼式をここに挙行致します。

 先の大東亜戦争において、祖国の安寧を願い、愛しき家族の身を案じつつ、苛酷なる戦場に散華された御霊、焼夷弾爆撃や原子爆弾の惨禍に遭われ、あるいは戦争が終わったにもかかわらず、望郷の念も空しく遠い異郷で亡くなられた御霊。そしてこの異常極まりない戦争の劈頭、突然の空襲によって理不尽にも生命を奪われた御霊、国家の存続と全国民の日常を賭した戦いの中で斃れた御霊。今、その御前にあって、御霊安かれと、心よりお祈り申し上げます。


 先の大戦の後、私達が享受してまいりました自由と繁栄は、かけがえのない命を捧げられた三百万にも上る戦没者の皆様の、尊い犠牲の上に築かれたものであります。特異的時空間災害という未曾有の国難にあって尚、いや未曾有の国難に直面した今だからこそ、私達はその事実を思い起こさなければなりません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧げます。


 かような惨禍に塗れた時代を、二度と繰り返してはならない。

 そうした誓いを胸に、我が国は歩みを進めてまいりました。誰もが戦争の恐怖に怯えることなく、個々の可能性を最大限発揮することのできる、豊かで希望に満ち溢れた社会。その実現を願い、国際社会と手を携え、力の限りを尽くしてまいりました。


 ご承知の通り、この切なる願いと幾多の努力は、最悪の形で裏切られることともなりました。

 築かれていたはずの歴史は消滅し、全く予期せぬ無差別爆撃により、1万7981名もの尊い命が奪われました。更にはこの計画的殺戮を実行せしめた米国は、その罪科を償う義務を拒絶するどころか、我が国そのものを消滅させるという前代未聞の布告を行うほどでした。

 結果として我が国は、誠に遺憾ながら、戦争を勝ち抜く他なくなったのです。


 しかしながら我が国が貫いてきた信念は、間違いなく私達の心に深く根付いております。

 特異的時空間災害の混乱の最中にあっても、自衛隊は戦争の惨禍をこれ以上繰り返させぬべく、即座に行動に移りました。和平のための作戦も実施いたしました。また今も尚、これまでのような平穏無事な日常を、豊かで希望に満ち溢れた社会を、万難を排して取り戻さんと、国家国民一丸となって奮闘努力しております。

 日常を取り戻す。まさしくそれこそ、突然の空襲によって無念のうちに亡くなられ、あるいは幾多の作戦の途上で斃れた御霊を安んじる唯一の道である。そう確信しております。そして今を生きる皆様、明日を生きる皆様のために、未来を拓いていく決意です。


 終わりに、今一度、全ての戦没者の御霊に平安を、御遺族の皆様には御多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。





首相官邸:総理大臣談話



 戦後の新たな節目となる今日を迎えるに当たり、本来であれば私はどのような談話を発表していたでしょうか。

 戦争の惨禍を直視し、犠牲者に改めて哀悼の意を表する。不戦を誓い、国際社会との協調、世界平和への貢献を謳う。恐らくはかような、これまでに発表された談話を継承した、元々の歴史の流れに沿った内容となっていたのではないかと思っております。

 しかしながらそうした談話を発表する機会は、特異的時空間災害の発生により、恐らくは永久に消滅してしまいました。


 今私達を取り巻いているのは、根本的に不確かな世界である。そう言わざるを得ない状況にあります。

 本日は言うまでもなく、終戦から80年を迎える8月15日です。しかしながらこの世界においては昭和20年の、まさに終戦の年の8月15日であり、それもまた間違いではありません。更には特異的時空間災害が発生し、我が国が突然の戦禍に見舞われて以降、この世界は史実とは大幅に異なる歴史を辿りました。その結果、既に脱落した国も多いとはいえ、戦争状態は未だ継続しております。となれば終戦の日として世界中で認識される日もまた、別の日となることでしょう。

 つまりは2つの時間体系が混在する、特異的時空間災害後の奇妙で異常な世界を、私達は今後も生きていかねばなりません。そしてそのために必要となる3つの勝利を、国民の皆様にお約束いたします。


 まず1つ目の勝利は言うまでもなく、この世界の連合国に対する勝利です。

 現在、北米大陸における油田地帯確保を目的とする『神武』作戦は順調に推移しており、パナマ運河およびテキサス・オクラホマ油田地帯制圧に向けた大規模攻勢の準備が進められております。自衛隊は技術、情報、概念という3つの優越をもって連合国軍を圧倒しており、既に報じられております通り、英国、ソ連といった主要参戦国すら脱落し、講和に向けた動きが始まっている状況です。5月中旬より実施している米本土爆撃の成果もあり、恐らく年内には、国民の皆様に正式なる勝利をお届けできることでしょう。

 年内に、あるいはクリスマスまでに終わると言われた戦争が、その通りに終わった試しなどありはしない。そう言われることもありますが、この戦争に関してはその限りではありません。必ずや国民の皆様に、勝利と希望、かけがえのない日常を取り戻すための各種資源をお届けいたします。


 2つ目の勝利は、この不確かな世界において我が国が存続していくための、新たな経済体制の構築です。

 誠に残念ながら、特異的時空間災害につきましては、未だ判明しておりません。そのため再度の時空間災害発生も否定できず、かつその場合、次の時空間移動の先が化石燃料の利用がほぼなされていない時代となる可能性もございます。故にそうした苛酷な環境においても経済を維持し、皆様の日常を保障し得る、高度に自己完結的な社会を構築していく必要があります。この遠大なる目標の達成に向け、食糧自給率向上や原子力電源設備の増強、核燃料サイクルの推進、化石燃料備蓄の大幅拡張、全工業製品の国産化など、既に様々な施策を準備しております。

 ある意味でそれは、国際分業や比較優位といった概念の対極にある、非効率極まりない経済体制とも言えるでしょう。本来あるべき文明の発展、その恩恵に与ることのできない、茨の道とも考えられるでしょう。しかしながら私達は、想定し得る如何なる環境においても、まず生き残ることを考えなければなりません。それこそが特異的時空間災害の教訓です。生きてさえいれば未来は啓ける、そうした確固たる信念の下に強靭な国家社会を築き上げ、幸福を追求していこうではありませんか。


 そして3つ目の勝利とは、科学の勝利に他なりません。

 特異的時空間災害という従来の常識ではあり得ない災害が発生した結果、既存の科学体系、世界観に対する信頼が、根底から揺らぎつつあります。国家という人々の営みによって築き上げられた主体が、その政治的条件に基づき、自然災害によって時空間移動させられる。かような現象は人類史上類を見ないほどに不自然かつ不可解であり、その原因や発生プロセス等について科学的に説明することが著しく困難であることは、今更言うまでもありません。

 しかしながら、全ての自然現象は何らかの形で、科学的に説明し得るものであるはずです。そして私達は、国を挙げて、この難題に挑まなければならないとも考えております。何故ならば特異的時空間災害の解明こそが、我が国の、国民の皆様の究極的な安全保障へと繋がるためです。無論のこと、この勝利は私の在任中には叶わない夢かもしれません。その緒に就くだけでさえ、私達の数世代先となるかもしれません。それでも決して挫けることなく、諦めることなく、地道に調査研究を積み重ねていくことで、必ずやこの勝利を達成できると、私は確信しております。

 思い返せば、明治維新、文明開化以降の我が国の発展を牽引してきたものは、まさしく科学でありました。であれば今また、科学的な手法によって世界観を安定化させ、立ち込める濃霧を払っていこうではありませんか。現に特異的時空間災害について説明する幾つかの仮説が提唱され、議論や検証が始まっています。政府といたしましても、あらゆる科学研究に対する助成を大幅に拡張し、全力でそれに応えていく所存です。


 以上が、私が国民の皆様に約束いたします、3つの勝利となります。

 如何なる困難にあっても道は拓ける。希望は必ずある。それは戦後、焼け跡からの奇跡の復興を成し遂げ、世界を驚嘆せしめた歴史が証明しております。終戦から80年を迎える今日この日、これまでに亡くなられた数多くの戦没者に改めて思いを致しつつ、この昭和20年の世界に対する当然の優位に驕ることなく、ただひたすらに、前を向いて進んでいこうではありませんか。

 そして私達が生きるこの世界の理を、この手に取り戻していこうではありませんか。


 以上、ご清聴ありがとうございました。

第99話では終戦記念日を迎えた加藤総理が、戦没者への追悼と未来への約束をします。第7章はここまでとなります。

新章突入となる、記念すべき第100話は、10月15日(木)~17日(土)辺りで更新の予定です。読者の皆様、いつも感想やブックマーク、評価等、ありがとうございます。

最近ほんと更新ペースが乱れ気味です。何とかできるよう頑張ります。


気付けば奇数章の結末は、総理の演説で締めるという形になっておりました。

本作は第9章+エピローグをもって完結とさせる予定であり、終章もまた同様の形態となるのかな、と今から考えていたりもします。現在のペースですと、概ね3月末くらいに完結となりそうで……元々は年末くらいを予定していたのですが、年内に終わると言ってその通りになりそうなのは、作中の戦争くらいのものです。

ともかくも読者の皆様、もう少々お付き合いいただければ。


なお作中における大東亜戦争という呼称は、かつて行われた真珠湾攻撃から降伏に至るまでの戦争を意味し、太平洋戦争という語が、特異的時空間災害以後の戦争を意味するものとして定着するのでは、という想像も浮かんでおります。戦域としては実際名称の通りになりそうですので。

ただ後者に関しては、既存の用語との整合性がまるで取れませんので、作中では用いられておりません。というか特異的時空間災害以後の戦争を何と呼称するか、実はまるで定まってない疑惑が……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 安倍晋三首相の在任期間が長かったので、安倍晋三首相が読み上げているように感じました。 まだ菅義偉首相の声には馴染んでいません。 まぁ官房長官としては長かったので、馴染んでいると言えば言えます…
[一言] おもしろくない 結末は決まっているのか 何が書きたいんだ誰が主人公だ
[一言] 更新お疲れ様です。 今代陛下も、過去と現在の戦災&戦死者の慰霊はなかなか感慨深いものがありそうですね。 確固たる決意の総理!!<`ヘ´> 終息に向かいつつある今次大戦ですが、連戦連敗続…
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