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令和時獄変  作者: 青井孔雀
第3章 「ピース・メイカー」作戦
38/126

38. 決別

首相官邸:総理大臣記者会見



 まず冒頭、昭和20年のアメリカ合衆国との和平を目的とした『ピース・メイカー』作戦において、その崇高な任務に殉ぜられた自衛隊員の御霊に対し、ここに謹んで、追悼の誠を捧げます。併せまして、志を同じくして作戦に参加いただき、不幸にも戦火に斃れられた在日米軍の皆様にも、心より哀悼の意を表します。

 

 戦死された全ての皆様は、職務に忠実で、大変に誇り高い自衛隊員であり、アメリカ合衆国軍人でありました。ある二曹はサイパン島の捕虜収容所を解放する途上、投擲された手榴弾の爆発を自らの身を投げ打って防いだと伺っております。またある三尉は負傷した部下を救助せんとしたところを、銃弾の雨に撃たれて壮絶な最期を遂げたと伺っております。

 

 これほどまでに有意な隊員を喪ったことは、我が国にとって何より大きな痛手であります。同時に、かけがえのない御家族を失われた御遺族の皆様の深い悲しみと追慕の念に思いを致すとき、悲痛の念に堪えません。また私、加藤忠彦は、日本国総理大臣であり、三自衛隊の最高指揮官であります。その重大なる責任を今ほど痛感したことはございません。『ピース・メイカー』作戦の発動を許可したのは、他でもない私であるためです。その過程であまりにも尊い人命が喪われたと思うと、断腸の念を禁じ得ません。


 ここで、『ピース・メイカー』作戦の成否について申し上げねばなりません。結論から申し上げまして、『ピース・メイカー』作戦はその主目的を達成することなく終わりました。サイパン島でのアメリカ合衆国軍同士の時空間を越えた接触の顛末につきましては、既に報じられております通りでございます。在日米軍第3遠征軍司令官のレイモンド・ノックス中将は狙撃を受け、未だ意識不明の重体となっております。平和裏な交渉に赴いた在日米軍の使者もまた、裏切り者というあまりにも心ない言葉とともに、銃砲撃を浴びせられました。同島収容所の日本人捕虜に対する残虐行為も突如として行われ、救助に赴いた自衛隊を含め、大勢が犠牲になりました。対話と和平への希望は、脆くも打ち砕かれたのです。


 まことに残念なことに、そうした姿勢は先のルーズベルト前大統領演説でも同様でありました。いやそれどころか、硫黄島での化学兵器使用という全く根拠のない、いかなる事実にも反する濡れ衣を、理不尽にも我が国に着せてきました。無論、我が国は化学兵器禁止条約に批准しており、実戦運用可能な化学兵器は一切保有していないことは言うまでもありません。更には平和主義の精神に基づく停戦の提案を公然と踏み躙り、挙句の果てに我が国を地球上から消滅させると、歴史上の存在に変えると、一切の躊躇もなしに全世界に宣言しすらしたのです。


 これまで我が国は、昭和20年のアメリカ合衆国との和平に向け、誠心誠意努力してまいりました。戦争を一刻も早く止め、自由な貿易によってお互いお互いを助け合い、富ませ合える関係を築き、友情を育もうと訴えてまいりました。アジア太平洋各地に存在しております旧日本軍の処遇やその占領地についても、平和主義と民族自決の原則に則った対応をすると約束いたしました。3月10日に突如として行われた、あらゆる国際法に反した言語道断の戦争犯罪行為であります東京空襲についてすら、なおも引き続いております特異的時空間災害の前代未聞の異常性、特殊性を鑑み、責任者の引き渡しや被害の補償があれば赦すと表明してまいりました。そうした一連の提案に対する回答が、かの文明国の指導者にあるまじき、野蛮極まる演説だったのです。


 国民の皆様、甚だ遺憾ではございますが、我が国は敵意と憎悪にのみ満ち溢れた、慈悲も容赦もない絶滅的戦争を布告されました。特異的時空間災害と絶滅的戦争という二重の国家存亡の危機を、我が国は乗り越えていかねばならなくなったのです。


 無論、政府といたしましては、全力を挙げて国民の生命財産と国土の防衛に努める所存です。主目的を達成することができなかったとはいえ、『ピース・メイカー』作戦の結果として、サイパン島は自衛隊および在日米軍の制圧するところとなろうとしております。先の大東亜戦争では台風と恐れられた機動艦隊も、在日米軍機により撃破され、ハワイ方面へと撤退いたしました。しかしながら、こうした事実があってもなお、一寸先も見通せないほどに先は暗いと言わざるを得ません。


 北米方面を偵察した航空自衛隊機によって撮影された、極めて重要な写真がここにございます。ご存知の方もおられるかと思いますが、アメリカ合衆国ワシントン州ハンフォードのプルトニウム生産施設に他なりません。史実では、この施設で製造されたプルトニウムを用いて原子爆弾が製造され、昭和20年8月9日、長崎へと投下されました。このようにアメリカ合衆国は現在、原子爆弾開発を着々と進めており、概ね4か月以内に実用化するものとみられます。かつて広島と長崎を襲い、何十万という無辜の命を奪った悲劇が、またも繰り返そうとしているのです。


挿絵(By みてみん)


 そしてこのまま事態を座視するばかりでは、我が国は来年以降、急速に国防能力を喪失することとなります。昭和20年においては無敵の戦闘機も、いずれ燃料不足から飛び立つことすらままならなくなるでしょう。百発百中を誇る防空ミサイルシステムも、いずれ撃つ弾にすら事欠くといった状況に陥りましょう。最終的には何もかもが窮乏し、ひどく痩せ衰えた状態で、我が国を歴史から抹殺せんと目論むアメリカ合衆国および連合諸国の大軍勢を、ここ日本列島において迎え撃たねばならなくなるのです。


 こうした極めて過酷で著しく理不尽な国際環境を鑑み、熟慮に熟慮を重ねた結果、1つの結論に達しました。国家の存立と国民の皆様の生命財産を守るため、必要となるありとあらゆる手段を躊躇なく講じていくべきであると。従来的な安全保障観念から脱却し、全く別次元の国防戦略の下、真の自存自衛のため全力を尽くしていくべきであると。


 憲法の定めを無視した、平和主義の理念に反する暴挙である。そうした謗りを、私は免れ得ないかもしれません。しかし、我が国が存立そのものを根底から否定された危機的状況にあることは、もはや明白であります。自らの存続なくしては、いかなる理念も、いかなる法秩序も、いかなる正義も意味をなさないことも、論を俟たぬ事実であります。国民の皆様、どうかこの前代未聞の国難を打開するための決断についてご理解くださいますよう、心からお願い申し上げます。それから自らの、ご家族や友人の、ひいては国家の生存を守るための戦いに、どうかご協力くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。


 最後に、民主主義の原則として示された4つの自由について、述べさせていただきたいと思います。これは言論・表現の自由、信教の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由からなる概念であり、まさに今、私達の4つの自由が脅かされているのです。そしてこの自由を守るため、我が国は立ち上がろうとしております。この事実をもって、ルーズベルト前大統領への弔辞とさせていただきたいと思います。4つの自由とは、ルーズベルト前大統領が昭和16年1月6日の一般教書演説に表明されたものに他なりません。


 以上、ご清聴ありがとうございました。

第38話は総理大臣演説になります。色々なものから決別を宣言する内容です。本作は38話でまた1区切りで、市販の小説ならここで第1巻が終わるようなイメージでしょうか? それに合わせて章編成(1-13が第1章、14-25が第2章、26-38が第3章の予定です)等を行いたいと思います。

さて、新局面突入の第39話は2月19日(水)更新予定です。隔日更新がまた伸びてしまい申し訳ございません。結構書き溜めてはおいたのですが、流石に残弾が少なくなってきてしまいまして……。でも、絶対に最後まで完結させますので、ご容赦いただければ。

そして読者の皆様、いつも感想やブックマーク、評価等、ありがとうございます。ようやく総合評価3000を突破しました。


ところで、若干唐突ですが、本作はハッピーエンドで終わるお話です。状況があまりにも絶望的と見えますが、ちゃんとハッピーエンドまで持っていきます。そこを含め、今後もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本日読み始めて、第三章の終わりまで来たところで感想を書かせていただきます。 いやぁ、すごい。 綿密に史実をあたりながらも大胆なストーリー展開。 詰め込みすぎてくどくなったりせずに読みやす…
[良い点] 転移系仮想戦記で重厚な描写大好きです!
[気になる点] 現代の日本政府が大東亜戦争というのは違和感があります。意図的なものでしたらすみません。
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