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令和時獄変  作者: 青井孔雀
第3章 「ピース・メイカー」作戦
28/126

28. サージカルストライク

太平洋:硫黄島南方400キロ



 3月16日、未明。航空母艦『バンカーヒル』は戦闘能力を喪失した。

 飛行甲板が突然、大爆発を起こしたのだ。そこには大きな破孔が穿たれ、濛々たる黒煙が吹き上がる。明日に備えて格納庫で整備されていた機体も、整備士達や工具などと一緒に消し飛んでいた。

 攻撃を受けたのは明白で、しかも被害が生じるまで誰一人として気付けぬ完璧な奇襲だった。

 

「空襲、空襲だ!」


「ダメージコントロール急げ!」


「レーダーは居眠りでもしてたのか!?」


 衝撃冷めやらぬ中、『バンカーヒル』に乗り組んでいた誰もが、可能な限り迅速に対応した。

 被害報告の艦内電話が鳴り響く。格納庫を包む大火災を食い止め、1分でも早く鎮火するべく、水兵の一団がホースを担いで駆けていった。両用砲や対空機関砲にも将兵が大急ぎで取り付き、更なる航空攻撃に備えんとする。


「おい、敵機は何処だ?」


「現在捜索中……駄目だ、見つからん」


「この役立たず!」


 射撃指揮装置の盤面を睨みつけながら、担当の士官が忌々しげに唸る。

 状況から考えて、相当な腕前のカミカゼが突っ込んできたのだろう。しかし最新鋭の対空捜索レーダーからは、敵機の概略位置すら伝わってこないのだ。まだ別のカミカゼが、虎視眈々と突入の機会を窺っているはずなのに。


 そうした中、隣を航行していたクリーブランド級軽巡洋艦が、強烈極まる対空射撃を開始した。

 12門ずつ備えた6インチ砲と5インチ砲が、北北東の闇夜に向けて盛大に連射される。それに触発されたのか、多くの艦が追随し、とにもかくにも対空砲火を撃ちまくる。


「おい馬鹿、俺は味方だ!」


 標的にされたのは夜戦仕様のF6Fヘルキャットで、パイロットが電話越しに絶叫する。


「射撃中止、中止!」


 驚いた防空管制官がすぐにその旨を伝える。

 だが射撃中止の命令が末端に届く前に、その声は断末魔に変わり、すぐに聞こえなくなった。カミカゼではなく、戦闘空中哨戒の味方機を撃墜してしまったのだ。

 更には水平線上を見渡せば、フレッチャー級駆逐艦が炎上してもいた。明確な誤射だった。1発だけどころか、十数発もの5インチ砲弾を叩き込まれた彼女は、もはや浮かぶ鉄屑も同然だった。


「ああ、なんてこった」


 十数分ほどが経過してどうにか混乱が収まった後、ミッチャー中将は自らが率いる艦隊の惨状を見て愕然とした。

 見える範囲にある航空母艦は、自艦を含めた全てが炎上していた。特に巡洋艦改装の『バターン』などは、艦全体に火の手が回っていて助かりそうにない。その上、誤射と衝突で駆逐艦2隻が沈没しようとしていて、何機もの夜間戦闘機が同士討ちで撃墜されることにもなった。


「神様……」


 ミッチャーは思わず十字を切った。そうする他なかったのだ。





太平洋:硫黄島南方200キロ



 C-2EBの機上から、中西一尉は一部始終を見届けていた。

 在日米軍のF/A-18E/Fスーパーホーネットは、艦隊の150キロ手前で40発ほどのAGM-84Jハープーンを、何の妨害も受けることなく発射した。ハープーンは身を隠そうともしない高高度飛翔で目標に突入し、過去のアメリカ人達が何も理解できないうちに、17隻もの航空母艦の航空機運用能力を破壊した。

 撃てば確実に命中し、撃たれる側は何ら対処できない。一方的に過ぎる射的ゲームだった。


「この世全ての理不尽」


 もはや"この世"という概念自体があやふやだったが、中西はそんなことをぼそりと呟いた。

 在日米軍機は攻撃を終えると、航空自衛隊のF-2Aに護衛されながら帰還していった。射程100キロ超のAAM-4で排除しなければならぬ脅威との遭遇などあり得ないから、それらは裏切り者が出た場合への備えだったに違いない。


(裏切り……いや、何が裏切りなんだろうな)


 電波情報を集約・分析しながら、少しばかり思考を巡らせる。

 仮に自分がかつての――実のところ今も大陸や東南アジアに展開している――皇軍を撃つ立場だったらと思うと、本当にぞっとするし、息が詰まりそうになる。そんな母国への裏切りと当然解釈されるであろうことを、相当な苦慮と必要性があってのことだろうが、在日米軍はやってのけたのだ。


「あッ、敵母艦から夜間戦闘機隊にサイパンへ向かうよう指示が出ました」


 機上無線員が報告する。


「一部は不時着水するようです」


「空母は……全部ただのドンガラになったか」


 中西は何とも言えない表情で肯いた。

 夜間着陸は至難の技だが、航空母艦が1隻でも残っていたなら、そこに降りるよう指示が出るだろう。それを踏まえれば、第58任務部隊が航空機運用能力を喪失したのは確実だ。


「よし。その旨、報告お願いします」


「了解いたしました」


 機上無線員が電文を作成する。その送信に用いられたのは、昭和20年の人間には雑音と区別できない方式の信号だ。

 中西はその様子を見守りながら、どうか在日米軍諸氏の苦渋に満ちた決断が実を結び、平和が訪れるようにと願った。そうでなければ日本は貿易ができないし、特異的時空間災害に巻き込まれたアメリカ人達の心も救われないのだから。





東京都千代田区:首相官邸



「本当に、本当にありがとうございました」


 午前1時過ぎ。執務室に報告にやってきた在日米軍司令官ファーゴ中将に、加藤総理は丁寧な口調で謝意を表した。

 第58任務部隊に所属する航空母艦は、全てが撃破されたとのことだった。何隻か助からない艦も出そうだが、それにしても退艦の時間は確保できているものと思われる。死者は最低限に抑えられただろう。

 少なくとも、『ピース』作戦は成功裏に終わった。そう判断できる状況だった。

 

「同任務部隊は間もなく撤退するものとみられます」


 ファーゴは事務的な口調で続け、

 

「撤退が確認され次第、『メイカー』作戦を発動いたします」


「お願いします」


 加藤は力強く肯いた。まさにここが正念場だった。

 直接的なコミュニケーションの確立のためには、ごくオーソドックスな航空機や艦船を用いてのコンタクトなど、他にも様々な手が考えられた。ただそれらはいずれも、リスクが高すぎると判断された。いかな現代のイージス艦といえど、大口径主砲を備えた戦艦と有視界で対峙などしようものなら、最悪撃沈されてしまってもおかしくはない。

 であればやはり、地上部隊同士が接触するのが一番だ。実際、軍使の扱いは19世紀末のハーグ陸戦条約で既に規定されている。

 

「それにしても、航路がちょっと東寄りですね」


 第58任務部隊の航跡を示した、部屋の壁に投影された地図。志村外相はふとそれを一瞥し、唐突に言った。

 どうにも彼は妙にオタクなところがある、加藤はそんな風にだけ思った。

 

「史実とは微妙に異なるような」


「硫黄島への強襲偵察任務が付け加えられていたようです」


 日下防衛相が説明し、

 

「この当時、硫黄島はアメリカ軍が唯一足を踏み入れていた日本領土でした。そこの部隊と音信不通になったが故、艦隊に強襲偵察が命令されたという顛末のようで」


「ん、硫黄島だよな……」


「どうかなさいましたか、総理?」


「いや、ちょっとそれ不味いんじゃないか?」


 加藤は怪訝な顔をして言い、少しの間考え込んだ。

 硫黄島は現在、自衛隊や在日米軍でごった返している。そこで激戦を繰り広げていたはずの日米両軍は、元々あった日本列島と同様に、時空間の彼方に消えてしまっていた。


「大部隊が突然全滅したと、向こうは考えるはずだ」





太平洋:硫黄島南方400キロ



 夜明けの頃、第58任務部隊の最終的な被害報告がまとまった。

 航空母艦は17隻全てが中破以上の判定を受けていた。第1群の旗艦『ホーネット』およびインディペンデンス級の『ベローウッド』、『カボット』、『バターン』、『ラングレー』の4隻は、当たりどころが悪かったのか今も燃え盛っていて、総員退艦の後に雷撃処分を命じる他なさそうだった。

 それ以外にも駆逐艦3隻が沈み、軽巡洋艦『サンタフェ』が深手を負った。何ともうんざりすることに、これらに関しては自分達の不手際が招いた損害だった。

 

「撤退する他、あるまいな……」


 ミッチャー中将は力なく言った。

 全く訳の分からないうちに、世界最強の艦隊は破壊されてしまった。栄光の中に潜み、突如襲ってくる絶望。かつてミッドウェーで破ったナグモ中将もまた、自分と同じような気分を味わったのかとも思う。

 

(いや……まだ12隻の空母を持って帰れそうなだけ、ナグモよりはマシだろうか)


 そう思うことはできても、どの艦も被害は相当に大きい。

 特にエレベータがことごとく破壊されたのが痛かった。穴を塞げばとりあえずは使えるという状況にすらならず、数か月の修理が必要だろう。日本はその間に態勢を立て直すに違いなく。戦争はあと何年続くか分かったものではない。

 

(しかし……いったいどういう訳なのだ)


 カミカゼ攻撃でないことは、割とすぐに察しがついた。機体の残骸やパイロットの遺体が全く見つからなかったからだ。

 恐らくサイパンやグアムを爆撃したという新型機が、今度はこちらに襲ってきたのだろう。ただその場合も、何故事前に探知できなかったのか、何故こうも空母だけを狙い撃ちできたのかは不明なままだった。

 もしかすると自分達は日本と戦っている心算で、何か別の宇宙的恐怖存在と遭遇、その虎の尾を踏んでしまったのではないか。そんな悪寒すら覚えるほどだった。


「あの、司令」


 その凛とした声に、ミッチャーのおぼつかない思考は中断された。

 作戦室のテーブルの反対側には、戦艦部隊の指揮官たるウィリス・リー中将の姿があった。今後の方針を検討するため、『バンカーヒル』にやってきてもらったのだ。


「もはや日本本土空襲が不可能なのは言うまでもありません……沖縄上陸も無期限延期でしょう。しかし……せめて硫黄島への強襲偵察くらいは、実施するべきではないでしょうか?」


「高速戦艦で硫黄島を艦砲射撃するという訳か」


「ええ、現状ではそれが一番です」


 リーは自信満々に、丸眼鏡を直しながら言う。

 この元オリンピック金メダリストはだいたいいつもそうで、艦隊が大打撃を被った現状ですらそうなのだから大したものだ。放っておけばニシ大佐の金メダルを探しに、硫黄島に単身上陸しかねない。


「現状、直掩機は出せないぞ」


「大丈夫です。日本軍は新兵器を使ったのかもしれませんが、これ以上の攻撃は不可能なのでしょう。そうでなければ今頃、この艦も海の底でしょうから」


「確かにな」


 ミッチャーもまた、リーの言い分は正しいと思った。

 それに硫黄島の調査はどうしても必要だった。化学兵器の使用が事実ならその証拠を掴まねばならなかったし、そうでない場合であっても、何故音信不通となっているのか調べねばならない。


「よし……アイオワ級とサウスダコタ級で、硫黄島を強襲偵察してきたまえ。味方に当てさえしなければ、どれだけ撃っても構わん。ただし損害が出るようなら、すぐに引き返せ。これ以上、大型艦を失う訳にはいかんからな」


「了解いたしました。なに、戦艦が簡単に沈みますか」


 リーはこれまた気合に満ちた表情で、元気よく応じた。それからすぐさま踵を返し、戦艦『ミズーリ』へと向かっていった。

 そしてそれがミッチャーの見た最後のリーの姿となった。

『ピース・メイカー』作戦の前段が完了する第28話でした。第58任務部隊の撃破に成功するも、官邸が硫黄島での「米軍蒸発」に感づくなど、一筋縄でいかなくなる気配も立ち込めてきます。第29話は明後日、1月29日(月)更新予定です。

読者の皆様、いつも感想やブックマーク、評価等、ありがとうございます。


戦闘描写が物足りない! と言われると、何のエクスキューズもできません。

強いて言い訳をさせていただくとすると、第二次大戦当時の艦艇が現代の誘導弾に狙われる場合、本当に「撃たれてから気がつく」という形になると考えられます。そうした理不尽さを表現してみたということで、どうかご容赦ください。


そしてちょっとだけ登場したウィリス・リー中将。本当に海軍中将で、しかもオリンピック金メダリストです。

ラノベでしょうか? いいえ現実。本当に何をどうやったらこんなチート人物が生まれてしまうのでしょうね?

https://www.olympic.org/willis-lee

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― 新着の感想 ―
[一言] あの時代のスポーツ選手って(今以上に)個人の生まれや職業に左右されますからね・・・ オリンピックと言っても今以上に狭き門ですから・・・ 軍人だとパットンも近代5種の選手でしたし
[一言] 更新お疲れ様です。 ピース作戦成功も、寄り道したせいで部隊消滅!? 強力無比の『黒鉄の城』に対して対艦ミサイルのつるべ打ちかな? 作中で米兵の心中を慮った描写がありましたが、何れ撤退命令…
[一言] 「戦艦が簡単に沈むか!」(しかもミズーリ)は生存フラグ …のはずなんだけどなぁ… 現状把握してもらうために件の硫黄島にご招待するにしても、とりあえずその物騒なもの(40.6cm砲)どうにかし…
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