23. プランB
東京都福生市:横田基地
「何の冗談ですか、このプランは!」
在日米軍の中将達のビデオ会議。そこで共有されたファイルに目を通すなり、海兵隊第3遠征軍司令官のノックス中将は顔を真っ赤にして激昂した。
「我々の祖父、曽祖父達を、自ら手にかけるなど論外だ! 頭のネジが吹っ飛んだのか!?」
「レイ、頼むから落ち着いて聞いてほしい」
「これが黙っていられますか!?」
「いいから落ち着くんだ!」
在日米軍司令官のファーゴ中将が実に沈痛な面持ちで、今にも泣き出しそうな怒声で請うた。
4人の中将が閲覧しているファイルには、確かに恐るべき内容が書かれていた。近く日本本土に接近するであろう第58任務部隊を、何と在日米軍の航空機により叩くというものなのだ。
無論その攻撃は抑制的で、艦隊の航空機運用能力のみの破壊が目的だ。それでも当時の航空母艦の飛行甲板を破壊するともなれば、甲板要員やパイロット、整備員等を大勢殺傷することになる。特に巡洋艦改装で小型のインディペンデンス級などは、ハープーン級のミサイルを1発食らっただけで沈没してしまうかもしれない。
だがそれでも恐らくは、そのやり方が最も犠牲が小さくなるのだ。
「自衛隊は、第58任務部隊を全滅させる計画を立案していて……日本政府も同調しつつあるのだ」
「そんなもの止めさせればいいだろう!」
「それができたら誰も苦労などしない。日本政府は今、時空間災害を名目に権力を一元化し、猛烈な勢いで経済統制と戦争準備を進めている。その中心に座ったのが武藤という男だ」
「補佐官のあいつですか。厄介な相手ですね」
第七艦隊司令官のトロスト中将が少しばかり顔をしかめる。
「うちが主催した海洋戦略研究シンポジウムで、少しだけ話したことがあります。何というか……常識的な政治家に見えて、よく言えばかなりユニークな思考をする奴です」
「全く、その通りだよ。で、今はアメリカ版ゴジラに出てきた同じ名前の怪獣みたいになって、第58任務部隊を1隻残らず沈めろと触れて回っている。ついでについさっき、私にまで先制ジャブを食らわせてきた」
「ならゴジラみたいにそいつを黙らせたらいかがですか……ああ、言葉によってですよ」
「無論、試した……だが手強い相手だった。こちらの内情を読んでいる。動けるものなら動いてみろ、そう言わんばかりだ」
ファーゴも言葉尻に悔しさを滲ませ、詳細を軽く説明する。
武藤は先刻、第58任務部隊を全滅させる方針についての理解を求めてきた後、各米軍基地の電力自給能力についても報告をと要請してきた。大変に丁寧な口振りからして、本気で我々の身を案じてくれているのは確かだ。だがそれと並行して、電力需給調整を盾に、暗にライフライン寸断の脅しをほのめかす人間なのだ。
「まあ有り体に言って、いいようにあしらわれた」
「だいたいあの手の映画、ゴジラは第1ラウンドでは負けるのが定番ですからね」
第1軍団司令官のハディントン中将が溜息交じりに言う。
「ですが、第2ラウンド以降で勝ちます」
「だがこれがその第2ラウンド案だと言うのか!?」
「ノックス中将、ちょっと考えてみてくれ」
横からトロストが苦言を呈し、
「我々がやるから、犠牲を最小限に留められるんだ……それに今や我々という言葉は、このたかだか3万ちょっとの日本駐留部隊しか意味していないんだぞ」
「空母が行方不明になって臆病風に吹かれたか?」
「貴様、侮辱する気か!?」
「いい加減にしろ!」
ファーゴが絶叫する。樫の机を拳で叩き、情報回線の向こう側まで鈍い音が響き渡った。
ここまでの反応は滅多なことではない。それを察してか、ノックスも渋々引き下がる。
「私がどういう気分でこのファイルを皆に配布したか、少しは理解してもらいたい。特にレイ、君はまさか、この期に及んでまだ沖縄奇襲占領なんて世迷言を抜かす心算じゃないだろうな?」
「やはり……ダメですか?」
「ノックス中将もシミュレーションは確認されたはずです」
ハディントンも思い返したくないといった調子で、
「沖縄駐留の陸上自衛隊15旅団を都合よく撃破できたとしても、そこから先に何も見通せません。そのまま補給も何もない島で乾き、島民を巻き添えにただ磨り潰されます。三沢や横田、岩国などの部隊は脱出すらできないでしょう。その上、家族や在留者、旅行客などはどうなります?」
「収容所送りにされるとでも言いたいのか?」
「それどころか、まとめて口減らしの対象にされかねません。今の日本はいわば首に縄がかかった状態で1945年に放り出され、直後にナイフで顔を切りつけられたも同然の状況です。そんな窮地で我々まで裏切ったらどうなるか……ステイツの都市という都市を核兵器で焼き払うまで止まらなくなりますよ?」
ハディントンの剣幕とその苛烈な想定に、ノックスも思わず戦慄する。実際、ここが地獄でなくて何であろうか。
「昔誰かが、我々を瓶の蓋と表現していましたが……今こそ蓋にならなければなりません。それもただの蓋ではなく、スマートな蓋にです。今にも爆発しそうな瓶の内圧を、上手いこと抜いていけるような」
「だからって、こんなのはないだろ……」
「レイ……君には色々言いたいことがある」
ファーゴは陰鬱な口調で切り出し、
「だがまず第一に、資料に最後まで目を通してくれないか?」
「えっ……?」
ノックスは虚を突かれたような顔をすると、急ぎ資料の確認に移った。そして漫画みたいに目を丸くした。
海兵隊主力と水陸機動団とで行う、日米合同でのサイパン島上陸作戦。第58任務部隊を撤退させた後、電撃的にサイパン島北部を占領するという内容だった。その上で軍使を送るなど部隊指揮官同士の地に足がついた交渉の場を設け、アメリカ本国とのコミュニケーションを確立、和平の道を啓くというのが最終目標だ。
なお参考として、航空機の強行着陸による交渉要員の輸送という案も併記されている。こちらは帰路の安全が全く保障できない点や交渉要員が拘束され話し合いに発展しない可能性などから、不確実性が高いとして否定されている。
「まさか、そんな……」
「レイ、こうする他ないんだ。やってくれないか」
東京都調布市:調布航空宇宙センター
「ううむ……打ち上げ能力が足りなさすぎる」
JAXAに設置された緊急ワーキンググループは、壁にぶち当たっていた。
宇宙は何処の国のものでもないという理屈に従ったのか、GPS衛星はもちろん、国産の準天頂衛星までが消滅していた。そのため緊急の衛星測位システムが急がれたのだが、普通に衛星を打ち上げていたのでは何年もかかってしまう。
しかも打ち上げればいいのは測位用の衛星ばかりでない。通信や中継、観測といった分野もどうにかせねばならないのだ。
「もはや……衛星を前提とするべきではないかもしれんな」
年配の委員が、一見諦めに似たようなことを言う。
「無論、将来的には構築せねばならんだろう。とはいえこの非常時、疑似GPSでいいのではないか?」
「日本以外はどうも昭和20年3月だそうですから、衛星番号はアメさんのをそのまま借りても文句は出なさそうですね。地上局はいいとして、プラットフォームに航空機や成層圏気球を用いる場合、その位置決定はどうします?」
「皆、何かアイデアはあるか?」
年配の委員の問いかけに対し、次々と手が上がる。
総務省が緊急稼働させる予定のロラン改良型の利用、緯度経度の分かっている地上局からのレーザー信号送信、最近実用性が証明された民生品転用のスタートラッカーの利用、海岸線や河川との位置関係の測定など、アイデアが次々と挙がった。それらを上手く組み合わせれば、確かに使い物になるかもしれない。
「とりあえず誤差をシミュレートしてみよう。一番いい組み合わせは……地上局やランドマークの有無で変わってしまうか」
年配の委員はそう言って苦笑した後、
「だが基本は、多少の誤差は気にしないことだ。まず不完全であってもシステムが使えることが大事で、精度はその次でいい。何、僕が若い頃なんてGPSなんぞまともに使えなかったものだよ」
5ch系避難所:「自衛隊vsアメリカ軍(1945) 100-」
1 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 10:03:11 ID:8bVYkdArB
突然現実的な問題になっちまったけど、お前等どう思う?
~中略~
100 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:24:25 ID:kG9Y4fans
そもそも皆状況を好き勝手に書いてて、全然統一が取れてない。
想定される状況としては、
1 日本本土での防衛
2 太平洋の島嶼(フィリピン、サイパン、グアム、ハワイ)での戦闘
3 アメリカ本土上陸
のどれかに絞れる。1. はどう足掻いても対艦ミサイルの餌にしかならんから、2と3で考えようぜ。
101 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:26:41 ID:xSd6y1q0b
>>99
そりゃ海軍力ではすぐ勝てると思うよ。今の潜水艦が装備してる長魚雷、艦底で起爆してバブルパルスだぜ?
アイオワ級やエセックス級ですらこんなもの食らったら1発で大破、2発で沈没だろう。それに哨戒機がもう空母1隻沈めてる。
公開された画像見る限り、所謂ジープ空母だったけど、視界外からASM-1C食らって爆発炎上、沈没したらしい。
空についても、B-29の撃滅もマリアナ諸島への反撃も損害0で切り抜けてる。こっちも勝負にならんだろうな。
だが陸となると、特に外征となると話が違ってくる。自衛隊の揚陸能力大してないの、皆知ってるだろ?
>>100
2はやる理由が分からない。サイパンやグアムはまあB-29進出阻止ってのがあるかもしれないけど、滑走路が復旧したら爆破する、
輸送船団を全部沈めるなりで対処可能。ついでに飛んできたら全部日本に到達する前に全滅。一昨日の空襲は特殊事例っぽい。
3はもっと分からない。ワシントンD.C.占領して城下の誓いでもさせるの? その前に燃料も弾薬も尽きちまうだろ。
102 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:30:13 ID:WPvMKlk58
やるなら3だ。島なんて占領しても何も採れない。せいぜい不時着用の滑走路が手に入るだけだ。
海と空は圧勝だしいきなり3を想定してもいいかもしれない。まず西海岸か?
103 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:31:08 ID:Hlst1nLt.
3に関して言うなら、俺は西海岸の確保には賛成だな
カーン郡油田って知っているかい? テキサス州ほどではないけど、カリフォルニア州は常にアメリカの原油生産の上位にあったんだ
俺の記憶が正しければ、1940年当時の原油生産は2億5000万バレル。概ね日本の消費量の2割ほどが手に入る計算だ
輸送も太平洋を往復するだけでいいからこれは貴重だろうな
ところで、原油というのは多くの生物の死骸が積み重なったものだとされている。パンゲアの裂け目に生まれた、浅く温暖な海
言ってみればお母さんのお腹の中。小春日和のような暖かさと、ちょっとの塩辛さを兼ね備えた羊水の天国だ
そんな場所で生まれ、死んでいった無数の命の積み重ねを、俺達は暖を取ったり船を動かしたりするために使っているんだ
それが悪いことだとは思わない。間違いなくある、無垢で天真爛漫な少女達の笑顔。理由なんてそれだけで十分じゃないか
だから俺も、いつか遠い未来に生まれる少女達のために、ボトルに貯めるのさ(´・_・`)
104 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:35:44 ID:WPvMKlk58
>>103
ちょっとググったら出てきた。マジで1938年に2億5000万バレルとか書いてあるわ。あと最後意味不明
ttps://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1654640/econ0202.pdf
105 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:40:01 ID:kG9Y4fans
>>101
3は理由としては103みたいな資源確保がメインになるかなやっぱ。西海岸を拠点に爆撃も可能だろうし。
ただ揚陸するまでが鬼門だな。あの当時の西海岸つったら数千機が展開しちまいそうだし、幾ら護衛艦隊が強くても、
ミサイルの方が先に弾切れしてしまうだろう。陸に上がってしまえば、10式戦車の1個中隊で当時の機甲師団くらい、
楽に捻り潰せてしまいそうなものだけど。
つーか皆暇なんだな。今思い切り仕事時だぜ?
106 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:43:56 ID:xSd6y1q0b
>>105
俺スポクラの指導員やってんだけどさ、何処も臨時休業だよ。
施設がすげえ電力やガス使うし、こんな状況じゃしゃあねえんだろうけど、ほんと困ったよな。スーパーもコンビニも空だし。
案外、資源節約のために自宅警備してんのが最適解なのかもw
107 名前:避難所の名無しさん[sage] 投稿日:202X/03/12(水) 15:48:27 ID:qDW83iNja
>>105
俺なんてそもそも職場に入れん。立ち入り禁止地区だ。
あと何と言ったらいいんだろうな……10式なら当時の機甲師団を倒せるとか、F-35なら当時の航空機100機と戦えるとか、
そういうスペック競争みたいなの、全然本質じゃない気がするんだよな。
じゃあその本質は? と言われると頭に思い浮かばないんだが、何かすげえ違和感があるんだよ。
時間や能力が制約される中、代替手段を模索する23話でした。第24話は明日18:00に更新します。
読者の皆様、いつも感想やブックマーク、評価等、ありがとうございます。
在日米軍は極めて苦しい選択を迫られています。犠牲を最小限に食い止めるには、自らの手で祖父、曽祖父の艦隊を撃破する他にない。
軍隊ではより多くを生かすため、少数の犠牲を是とする場合があります。その中でも最も辛い種類の決断かもしれません。
衛星測位システムについては、打ち上げ能力の問題から、西太平洋を覆う準天頂衛星システムを構築するだけでも、完璧なものの構築には年単位の時間が必要となってしまいそうです。
しかもH2/3やイプシロンといったロケット自体、海外製コンポーネントの供給途絶から、新規製造に遅延が発生する可能性まであります。
一方で近年、偽のGPS信号で位置情報を欺瞞する攻撃手法が出てきており、米軍の無人偵察機センチネルがイランに鹵獲された事件も、このやり方だったと言われています。
逆に考えれば、それら手法を応用することで、既存のGPSインフラを活用可能になるかもしれません。
国家規模の転移という極めて特異的な災害が起きた場合には、元の世界の水準を徒に追い求めず、とにかく使えるようにすることが大切ではないでしょうか?




