13. 発表
首相官邸:総理大臣記者会見
まず冒頭、昨晩の空襲によって突然に、全く理不尽な形で命を奪われた方々に、全国民を代表し、衷心より哀悼の意を表します。家族や隣人を失い、傷つき、平穏な暮らしを奪われた全ての被災者の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また未曾有の空襲の只中にあって、国民の命を守るべく奮闘され、今も懸命の努力を続けておられる自衛隊、警察消防を始めとする皆様に、この場を借りて、心からの感謝を申し上げます。
ここで一つ、朗報がございます。航空自衛隊は在日米軍の支援の下、昨晩の空襲を行った所属不明の大型爆撃機部隊の残余を追跡、根拠地となっていたマリアナ諸島に対する反撃作戦を実施いたしました。先程入った情報によりますと、詳細は現在も分析中ではありますが、同諸島に存在した航空基地群は航空自衛隊の反撃によって壊滅、最低でも1か月以上は作戦行動が不可能となるだけの打撃を与えたとのことです。航空自衛隊および在日米軍は同諸島に対する警戒監視は今後も継続し、航空基地群の再建や増援があった場合には全力を挙げて阻止する構えですが……国民の皆様、もうかような蛮行は二度と繰り返させません。
しかし、何故マリアナ諸島だったのか? マリアナ諸島といえば、まずアメリカ合衆国の海外領土であり、グアムやサイパンなど、まさに南洋の楽園と言うべき観光地としても知られています。同諸島への観光客は年間百万人近い数に上っており、マリアナ諸島へ観光に行かれた方々、出発する直前だったという方々も多くおられるかと思います。そんな島々が突如として、大型爆撃機の一大根拠地へと変わってしまいました。先の戦争末期を省みますと、数多の爆撃機が同諸島の飛行場を発進し、日本各地を襲ったという痛ましい歴史がございますが……驚くべきことにマリアナ諸島一帯は現在、当時と全く変わらぬ様相を呈しております。
信じ難い現象は、そればかりに留まりません。空襲の直前に始まった大規模な通信障害は依然として続いており、原因究明および通信の回復を目的として、政府は自衛隊に調査を命じました。その結果を申し上げますと、アジアやアメリカなど確認できた限りのあらゆる地域が、マリアナ諸島と同じように、先の戦争末期と酷似した姿となっておりました。傍受・解読した短波通信もまた、当時の方式、内容でなされたものでした。朝鮮半島方面から零戦が飛来しもしました。そして天文学的な見地からは、太陽系の惑星配置が過去の観測結果と完全に一致した旨が報告されています。
結論から申し上げます。現在、我が国は昭和20年3月10日時点にあります。正確な影響範囲につきましては目下調査中ですが、我が国のみが特異的時空間災害により、昭和20年3月当時の世界に転移しております。その異常性、激甚性を鑑み、日本全土を対象とした災害緊急事態を、只今をもって布告いたします。
このあまりにも常識を逸脱した、非科学的としか表現のしようのない事実を耳にして、戸惑われない方などおられないであろうことは、重々承知しております。政府が公然と虚偽の答弁をし、国民を愚弄している。そう解釈されても致し方ない内容を発表しているとも思っております。しかし先の答弁が全くの虚偽で、私がその責を負って辞任することになるのであれば、これに勝る喜びはない。それが今現在の偽らざる心境でございます。
つきましては政府は今後、全力を挙げてこの前代未聞の特異的時空間災害について調査し、原因を究明、事態の打開に努めて参ります。状況はあまりに超常的です。しかし国民が一丸となって、既存の枠に囚われない知見を結集していけば、必ずや道は開けると確信しております。
更には昭和20年3月10日時点となりますと、大東亜戦争の只中であり、各国が日本と戦争状態にあると認識している可能性が高いと考えられます。事実、昨晩の空襲などは、過去の戦争においてアメリカ軍が実施したものと形態、時刻等が酷似しております。そのため各国との連絡手段を早急に確立し、速やかなる停戦、戦争状態の終結を目指します。またそれまでの間、何らかの軍事作戦が実施されないとも限りませんので、自衛隊の防衛出動状態は維持いたします。その点につきましても、ご理解いただければ幸いです。
なお昨晩の空襲につきましては、現在の我が国への攻撃を意図したものでなかったとしても、弁解のし様が全くない、あらゆる国際法、人倫、人道を踏み躙った言語道断の犯罪行為です。かような蛮行を主導したアメリカ合衆国に対しましては、停戦についての交渉と並行して、責任者の引き渡しならびに被害の補償、再発防止策の実施等を求めていく所存です。
そして最後に、国民の皆様の生活に関する重大なお知らせがございます。ご存知の通り、我が国は化石燃料資源のほぼ全てを輸入に頼っております。工業に必要な各種鉱物資源、稀少金属資源等も同様です。食糧自給率につきましても、カロリーベースで計算した場合に4割前後という数値となっております。そうした国民生活に不可欠な国際取引もまた、特異的時空間災害によって寸断されてしまいました。無論のこと備蓄は用意してございますが、例えば原油であれば半年分、天然ガスであれば5か月分という状況で、需給が著しく逼迫する状況と言わざるを得ません。
そのため政府といたしましては、可能な限り速やかに各国との貿易を再開させ、経済の維持に必要な各種資源の確保に努めて参ります。しかしながら……貿易が再開されるまでの間は、あるいは貿易が再開されたとしても暫くの間は、国民の皆様には大変な、本意ならざるご不便をおかけすることとなります。どうか皆様、互いに助け合い、励まし合いながら、かつてない窮乏に耐えてくださいますよう、心からお願い申し上げます。
既に一部では、買い占めや売り惜しみの類が発生しているとも耳にしております。今を逃せば次がいつか分からない、そうした不安から必要量以上の購入に走ってしまうのも、やむにやまれぬことかもしれません。しかしそれでは、本当に必要としている人の手に、食糧や生活関連物資が行き渡らなくなってしまいます。政府はいかなる状況にあっても、公平な食糧、生活関連物資の供給に全力を尽くしますので、国民の皆様にも是非、冷静な行動をとっていただけますよう、重ねてお願い申し上げます。
皆様、我が国をとりまく環境は突然、極めて理不尽で過酷なものとなりました。しかしそうした時こそ、我が国の国民一人一人の力が試されます。どれほどの艱難辛苦にも屈することなく、日本国民としての責務を胸に、道を切り開いていこうではありませんか。そして私達のあるべき世界を取り戻そうではありませんか。
以上、ご清聴ありがとうございました。
第13話は総理大臣による転移の発表です。本作は13話で1区切りとなり、14話は明後日更新の予定です。また、それに合わせて一部表記、間違い等の修正を行います。
総理大臣記者会見を目撃した国民の反応や世界とのコミュニケーション、残存する帝国陸海軍部隊との連絡など、まだまだ内容が盛りだくさんですので、14話以降もよろしくお願いいたします。




