きらきら石のしゅんしゅんスープ
戮力協心という言葉がありまして、みんなで心をひとつにして、力をあわせることで大きなことをなしとげることができます。
霜月透子様のひだまり童話館「きらきらな話」「しゅんしゅんな話」参加作品です。
ひとりのたびびとが、ながいみちをとことこ歩いていました。
おひさまがしずみはじめたころ、たびびとは川べりに出ました。
川の水はさらさらと流れ、石ころがきらめいて見えました。
ふと、たびびとは丸くて大きい石をひとつ見つけました。
まるでみがいたように、つるつるできれいな石です。
たびびとはポケットのぬのでそっとこすりました。
石はきらきらとひかり、まるでほほえんでいるようでした。
「これはいいものを見つけたぞ」
たびびとはうれしくなって、その石を大事にポケットへしまい、また歩き出しました。
その日の夜、たびびとは小さな村にたどり着きました。
もう空は暗く、家々にはあたたかいあかりがともっています。
たびびとは一軒の家のまえで立ち止まり、やさしそうな家の人に声をかけました。
「こんばんは。わたしは旅の者です。じつは、この石はまほうの石でしてね。おゆにつけると、なんとおいしいスープができるのです。もしよければ、おなべとかまどをかしてもらえませんか」
家の人たちはおどろきましたが、たびびとのにこにこした顔を見て、家の中へいれてくれました。
台所には古いかまどと大きなおなべがあります。
たびびとは水と石だけをおなべに入れ、かまどに火をつけました。
しばらくすると、おゆがしゅんしゅんと音をたててわきはじめました。
たびびとはおたまでそっとすくい、すこしだけあじみしました。
「うーん……この石はずいぶん古いようで、ちょっとあじがうすいですなぁ。しおをすこし入れると、ぐんとおいしくなります」
家の人がしおをもってくると、たびびとはていねいに入れました。
するとふんわりいいにおいがただよいはじめます。
「もし、どこかにあまったやさいのきれはしがあれば、すこし入れてみませんか。スープがもっと楽しくなりますよ」
家の人たちは、にんじんのはしっこ、たまねぎのかけら、にんにくのおちたかけら、それにかたくなってしまったパンのきれはしを持ってきました。
全部おなべに入れると、台所いっぱいにあたたかい香りがひろがっていきます。
やがて、たびびとはにっこり笑いました。
「わぁ、こりゃあ最高のスープになりました。あなたがたもどうぞ、あじみしてみてください」
家の人たちは、そっとスープをすくって口に運びました。
そのとたん、目を丸くしていいました。
「なんておいしいの! こんなの、はじめてだよ!」
「ほんとうに石だけでできたのですか?」
たびびとは肩をすくめて笑いました。
「ええ、石のおかげですよ。ただし……ちょっとした工夫もね」
家の人たちは、このまほうの石をどうしてもほしくなりました。
そして、「お金を出しますので、その石をゆずってください」とたのみました。
たびびとはやさしくこたえました。
「お金はいりません。そのかわりに、すこしだけ食べ物をわけてください。わたしはまた旅に出ますからね」
家の人たちはよろこんで、パンやくだものをふくろにつめてわたしました。
たびびとはおれいを言い、星の出た夜道を歩き出しました。
そのあと、その村ではたびびとのスープのことがうわさになりました。
みんなでやさいを持ち寄って作るスープは、いつしか村じゅうの人が楽しみにするめいぶつになったそうです。
そしてどこか遠くでは、たびびとが山道をかろやかな足取りであるいていました。
その手には、あたらしいきらきら石が乗っていました。
* * *
「ねぇねぇ。偉文くん。まほうの石はいっぱいあるんだね」
安アパートでひとりぐらしをしている僕の部屋に、いとこで小学生の胡桃ちゃんが遊びに来ている。
僕のかいた絵本の案を見ている。
「そうだね。この話はポルトガルっていう国の『石のスープ』っていう民話をアレンジしたんだ。石のスープは、みんなで協力しあう意味で使われることもあるよ」
「ふーん。ポルトガルってヨーロッパだったかな。学校の授業ででてきた気がする」
「そうそう。ポルトガルではこのお話がモデルのスープも名物になっているんだ。ソパ・デ・ペドラっていうんだ。ペドラは石っていう意味で、ソパはスープ、デは『なになにの』っていう意味。お話に出てくる石のスープだね」
「それ、あたしも飲んでみたい」
「具沢山のスープだからね。すぐには作れないな。あ、似た名前のスペインのスープなら作れるかな。ちょっと待っててね」
僕はカップにインスタントの玉ねぎスープを入れ、おゆをそそいだ。
チューブ入りのおろしにんにくを少し入れ、さらに薄く切ったバゲットの硬いパンを入れた。
「おまたせ。あついから気をつけてね」
僕がカップとスプーンを渡すと、胡桃ちゃんはふうふうしながら、ゆっくり飲み始めた。
「わぁ、おいしい。パンもふわトロでおいしい。ねぇねぇ、これってなんていうスープ?」
「ソパ・デ・アホっていうんだよ」
「アホ? へんななまえ」
そう言って、胡桃ちゃんは笑った。




