第6話:元男子のスカート丈のこだわり
最後に学生服のブラウスのボタンをしっかりと締め、リボンの乱れを整えると着替えは完了だ。
着替え終わった竜二はぼーっと周囲を見ていた。
女子、女子、女子…どこを見ても着替え中の女子ばかりだ。ブラウスのボタンを留めている子、スカートをはいている子、あるいはジャージを折りたたんでいる子、みんな手慣れている。性転換がなければここに自分たちはいなかったと思うとかなり複雑だ。
上の世代と違い、竜二たち元男子は8歳の時に今の性別にかわっている。はじめての学生服は中学の制服で、その時、竜二たちはすでに女子だった。つまり制服といえば最初からスカートだったわけで、竜二は一度も男子の学生服を着たことがない。男子と女子ではブラウスのボタンの位置が逆になっているらしいことも頭では理解しているつもりだったが、男と縁がない竜二にとっては…今さら逆の方が違和感があった。
「一度でいいから女子の着替え覗いてみてー」
男子がふざけていっていたように、元女子である男子は女子の着替えに憧れるのだという。そこには性的な興奮もあるらしいが、竜二には全く理解できない感情だった。8歳だったのだから当然だと言われればそれまでだが、男子だったころは、性的な興奮など感じたことも無かった。目の前の女子の着替え姿のどこに性的興奮ポイントがあるのかどうしても理解できなかった。
竜二がふと明人を見ると、明人はスカートの左サイドに取り付けられているファスナーをしめているところだった。そこに真新しさや情欲をそそる光景はない。自然に眺めていると、明人がスカートを2回ほど折り曲げているのがわかった。
「前から気になってたけどよく、そんなスカート上げるなんて恥ずかしい行為できるよな」
「えぇーこのほうが絶対可愛いってー」
スカートのウエスト部分を折り曲げることでスカート丈を短くすることができる。スカートを本当に切ってしまうと、冠婚葬祭や面接のときに困る。だけど、スカートは短くしたい。
昔からある女子の知恵だった。
「おれには理解できねぇ」
そもそも学校指定の制服は標準でもひざが少しでる、ひざ上丈なのだ。クラスの中には明人と同じようにスカートを折り曲げたり、スカート丈をはじめから短くしている子も多い。だから、明人が少数派ではないということはわかるが…元男子であるはずの子たちがどうしてそんな恥ずかしいことをしているのか、竜二にはまったく理解できそうになかった。
「竜ちゃんもやってみたら?」
「そんな短くして大丈夫なのかよ…その、階段とか…」
明人のスカートはひざ上、何cmだろう。
階段で下着が見えてしまわないか、竜二はつい心配になった。
「大丈夫。ちゃんとお尻おさえるし…それにほら!下、履いてるから」
明人がどうどうと自分のスカートをめくって見せた。明人の1分丈の黒のスパッツ型のオーバーパンツがあらわになり、竜二は思わず目をそらしそうになった。確かにオーバーパンツは普通のパンツとは素材が違い、しっかりとした生地だが、遠目には黒いパンツのようにも見え、やはり人に見せるものではないとも感じた。
大丈夫という意味がわからない。
「竜ちゃんだって履いてるでしょ」
次の瞬間、太ももからスカートの生地が離れる感覚があった。明人がひょいっと竜二のスカートをつまみ、めくってしまったのだ。
「きゃっ、いやっ!」
口から思わず変な声が出た。
明人のいたずらによって3分丈の黒いスパッツ型のオーバーパンツがあらわになってしまっている。竜二は慌てて明人の手をはらいのけ、スカートの裾を両手で押さえた。それから急いで誰かにみられていないかきょろきょろと周囲を見渡した。
たしかにオーバーパンツは中高生女子のマストアイテムで、下着が見えるのを防止するためのものではあるが、竜二はオーバーパンツでも人に見せるのは抵抗があった。オーバーパンツは下着よりましという感覚しかなかったからだ。
「履いてるからいいってもんじゃねぇの!」
幸い誰も見ていなかったことを確認してから、竜二は明人を睨みつけた。
何を履いているかは問題ではない。
スカートをめくられるというその行為自体がめちゃくちゃ恥ずかしいのだ。
それにここは完全な間仕切りのある女子更衣室ではなくただの教室だ。今、女子更衣室代わりになっているとはいえ、時間が経てばとなりの教室で着替えている男子が戻ってきてしまうだろう。幸い廊下に男子はまだいないようだが、どこに男子の目があるかわからない。
こういうおふざけはマジでやめてほしかった。
「竜ちゃん、スカート短い方がぜったい可愛いのに」
「おれはこのままでいいの!それにふざけてるとマジで次の授業に遅れるぞ」
まったく…元男子の心情が理解できない。顔を膨らませながら、可愛い子ぶっている明人は不満そうだ。幸い、竜二が必死にスカートをガードし続けながら、本気で怒りそうになっているのに気づいたのか、明人はそれ以上、悪ふざけはしなかった。
「もう、おいていこう!」
竜二は良太とちょうど着替え終わった信二を促した。無駄話で手がとまっていた明人はまだ着替えが終っていない。体操服のシャツを抜き取るのに苦労しているようだ。
「そやな」「そうだねっ」
信二と良太が同意した。
「はやくしねーと男子たち戻って来るぞ」
「ちょっと!竜ちゃん、みんな、待ってよ~~」
3人が明人をおいて、教室を後にしようとしたのに気づいた明人が小さな悲鳴をあげるが、自業自得である。慌てて着替えを再開した明人をおいて、竜二たちは本当に教室を後にしようとしたのだった。
なんだか複雑な世界観になっています。
どうしてここまで元男子が適応しているのかという話は今後さらに補足していきたいと思います。
現在、7話準備中です。




