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第44話:あかねと生理

「生理ってどんな感じなんだろ…」


 あかねが呟いた。


「姉ちゃんいわく血が一日に何度もドバドバでるらしいぞ。一度はじまると5日ぐらい続くときもあるらしくて、多い時は夜用でも無理らしくて数時間おきにナプキンかえてるみたいだし…」


 こずえが答えた。


「…ドバドバが5日?…」


「一日何度もなんだ…」


 ちょっと思ったのと違った。

 

「あれ?なんかちょろっと…それも一回だけ出るんじゃないの?」


 芽衣が不思議そうに質問した。


「あぁ、それ男子の中で流れてるデマだぞ…生理って個人差あって確かにそういう女子もいるらしいけど、姉ちゃん曰く男子に心配されたくない女子の照れ隠しも多いんだって言ってた」 


「夜用ってなんだ?」


「昼用と夜用があるらしいぞ」


「そういえば生理用品って種類多そうだしな」


 あかねはドラッグストアの生理用品コーナーを思い出しながら言った。なんとなく恥ずかしかったので…あまりよくは見ていないが、かなり多くの種類があったように思う。


「ぼくも8歳まで女の子だったのにそういうこと何にも知らないや…ナプキンだって現物見たことないし…」


 性別適応特別講習を受けていたあかねは性犯罪防止の教育は受けても女子の身体のことや生理に関することはほとんど習わなかった。


「生理なんて8歳の時にはないし…もしもおれたちが女子のままだったら小学校4~5年ぐらいの時に生理のことを習ってたはずだ」


 そのころのあかね達元男子は性別適応特別講習に強制参加させられていたか、小学校にいても周囲の興味を引こうと下ネタばかりみんなで話して元女子なのにありえないと元男子の女子から嫌われていたような覚えしかない。


 今でこそ思うが、当時は下ネタごときで妙に恥ずかしがる元男子の反応が面白すぎて、女子をからかうのが楽しくてしょうがない時期だった。女子は男子と違いあまり下ネタをいわない。


 正直、女心ほどわからないものはない。


「それに、おれたちがナプキンなんて手に取ったら変態扱いされるんだし…普通知らねぇだろ?8歳までしか男子じゃなかった女子の『俺が男子のままだったら女子にそんなことさせない』ほど、うざい指摘はないし、女子だって元男子のくせにおれたちのことなんもわかってねぇんだぞ。お互いさまだと思うけどな?」


 芽衣が想像以上に落ち込んでいたのであかねはそう励ました。


「それ、吉田の話か?」


 耳元でこずえが囁いたが、あかねは無視した。

 

 断じて違う。


 吉田さんならいくら暴言を吐こうとも可愛くて許せる。


 吉田さんの話ではない。一人称『俺』の可愛くない一人称女子の勘違い女子の話だった。


「そうなんだけど…自分の無知さにショックを受けてる」


 芽衣が話をつづけた。


 芽衣は医師志望で生物を勉強している者として無知を恥じている感じだ。


「いくら医者志望だっていってもそんな詳しいことは高校では習わないし、姉妹がいない藤原が知らなくても仕方ないとは思うぞ。恥じらいもなく生理だ生理だってペラペラ弟に喋ってた姉ちゃんがちょっと特殊だって自覚もあるしな…」


 こずえが芽衣をフォローした。


 こずえより8歳ほど年上のこずえの姉、森宮純太郎はT-VIDに感染し性転換した最高齢グループにほぼ属する。この世代が悲惨だったのはほぼ第二次性徴を終える直前、大人の身体になりを得る一歩手前で異性の身体になったことだ。


 こずえの姉・純太郎は当時、身長180cmちかくあった大柄の男子だった。


 T-VIDはDNAの書換を行う。どういうメカニズムかわからないが、180cmあった身長は今では160cmまで縮み、立派な女性へとわずか数か月のうちに変貌を遂げたのだが、初経前の小学生と違い精神面での負荷は計り知れない。


 純太郎は、突然始まった激しい月経に拒絶反応を示し、頭痛、倦怠感、嘔吐反応、あるいは動悸などといったパニック症状やうつ症状を生じさせ、心理療法や薬物療法が必要で入院治療が必要だと診断された一人だった。


「今でこそ薬やめられたみたいだけど、姉ちゃんも結構、薬飲んでたと思う」


 あかねやこずえ達の学年でも性別違和を診断されている人は一定数いる。


 しかし、それは1割以下だ。


 T-VIDは細胞レベルから脳の構造まですべてを異性のものへと変化させた。9割以上の人は生物学上の性に適応しており、それほど混乱は見られないことからもあかね達とは事情が大きく違うといってよかった。


「あんまり話したがらないけど、当時付き合ってた人からなんかかなりひどいことされたらしいし」


「そういえば確か警察に捕まった元恋人…有罪になったんだよな?」


「あぁ」


「警察!?」


 芽衣がびっくりしている。


 こずえの姉・純太郎が具体的にどんな被害にあったのかはわからないが、当時は元女子による身勝手な行動が問題視されていた時期だ。怪我でもさせない限り謝れば、警察にすら通報されない元女子にとってはある意味、理想的な時代。元男子に性犯罪という認識がなかった当時、彼氏持ちの元女子は『合意があった』などと言っては好き放題やっていたのだ。



「姉ちゃんが家に帰ってこなくなって、母さんが警察に連絡して姉ちゃんようやく相手の人から解放されたらしい…なんか姉ちゃんT-VID前のことを持ち出されて弱みを握られて…相手の人の家に監禁されてたらしいし…」


「なにそれ?ひどい」


 監禁…芽衣の驚きは当然だ。


 あかねは性別適応特別講習で厳しい道徳教育を受けている。先日も女性が男に無理やり家に連れ込まれた事件が発生したとはいえ…あかね達犯罪に無縁な男子高校生にとって監禁など論外中の論外だった。

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