第40話:あかねと芽衣とこずえ2
「なんでだ?T-VIDなければ俺たち普通に女子高生だったはずだし…文化祭の出し物で女装するだけなら…捕まることも社会的に死ぬこともないと思うけどな…。女子ってそういう見世物以外と好きそうだし洗って返すって頼めば制服ぐらい貸してくれると思うぞ」
こずえ…お前がイケメンで…イケメンが特別だからだといいたい。
警察当局の取締りが一部で緩くなり、元女子の女装が舞台や芸能界で再び扱われるようになったとはいえ…選ばれたものだけが許される特別な行為だ。こずえがいうように文化祭という閉鎖空間なら捕まらないのかもしれないし、こずえの女装なら見たいという女子がいてもおかしくないが…ろくにかっこよくも可愛くもないあかねが女装なんてしようとした日には…キモいと女子から後ろ指をさされかねない。
「こずえ…性別適応特別講習で習ったよな。女装は人生を棒に振りかねないハイリスクな行為なんだぞ。解禁なんて話は一部のイケメンの話だから、おれたちが女子に制服貸してくれなんて言ったらわいせつ事案だぞ」
一部のイケメンにこずえは当たるのだろうが、あかねはこずえに釘をさすことにした。スカートを最後に履いてからもう8年もたっている。今の自分に似合うはずもないので、女装に興味や未練はないつもりだが…顔や体形で判断が変わるというのは…なんとなく癪だった。
「そ、そうなのか!?…うちの部の子が男子の女装解禁されたって喜んでて、スカート姿の俺がみたいとか言ってたからてっきり全員に解禁されたもんばかりだって思ってた…」
「と、とにかく、一生結婚できなくなるし絶対にやるな!」
天使な吉田さんが言うわけないと信じたい気持ちはあるが、万に一つにも吉田さんにキモイなんて言われた日には、メンタル崩壊の上、不登校確実だ。
「うーん、でもまぁ、あかねがそういうならやめとく。藤原もあんま乗り気じゃねぇみたいだし…」
こずえが素直に引き下がった。ここで反論しないのがこずえのいいところだ。女子に人気だというのも納得できる。
「性犯罪者が結婚できないのは本当だしね。ぼくたちもう8年も女装してないんだし…この年でぼくたちが女装するのはかなりハイリスクだと思う。…でも結婚っていえば…どこかにいい人いないかな?ぼく…お見合いもいいけど昔から壮大な恋愛がしてみたかったんだよね」
両手を胸の前で組んだ芽衣が恋する乙女のようなセリフを吐いた。無意識なのだろうが…上目づかいが若干キモイ。性別適応特別講習中なら確実に指導対象…それもごはん抜きのやつだ。ついうっかりあかねもやってごはん抜きになったことはあるが、それは子どもの頃の話だ。
同年代の元女子はかなり矯正されたはずなのでこの年になってもやる元女子がまだ残っていたとは思ってもみなかった。
もしかしたら無意識というのはとても怖いものなのかもしれない。
「おい芽衣!」
「あぁ…合法的にスカートの中、見せてくれる彼女がいい」
あかねが指摘しようとしたら上目遣いのまま芽衣が呟いた。
ポーズは乙女だが…中身はケダモノだ。
ある意味、芽衣らしいといえば芽衣らしかった。
「なぁ、あかね?こいつホントに医者志望で大丈夫なのか?」
耳元でこずえがボソボソと心配そうにあかねに聞いた。
こずえの心配はもっともだ。
「こずえもそう思うか?…実はおれもそう思ってたんだ。まぁさすがに実行はしねぇはずだけど…」
いくらなんでも友達が捕まるところは見たくない。
フォローできずあかねはそう苦笑いするだけだった。
~~~
「だけど恋愛か…おれもできればお見合いじゃなくて恋愛してみたいんだよな」
恋人いない歴=年齢のあかねだが、恋愛はともかく結婚に関しては意外と楽観的だった。
結婚したいのであれば、大人たちが最近始めたお見合い制度があるからだ。
このお見合い制度でこのところの男女の結婚率は急激に改善している。旦那のよい給料と結婚時の補助金目当ての元男子の専業主婦志望者が増えているのだ。
「はずれも多いらしいしね」
歩きながら芽衣がそんなことを言った。
「はずれ?」
こずえも首をかしげている。色恋沙汰に疎そうなので…こずえが知らなくても仕方がない。
「上玉は…20歳になるまでに確保されちゃうってこと…今学生結婚が流行りなんだって…」
女子は政府公認のお見合いが嫌で嫌で仕方がないらしく…19歳で結婚する人が多いという噂があった。
「マジか…それほどまでに女子に結婚願望があることの方が信じられねぇな」
「森宮君もそう思う?」
「だから芽衣の言うように…吉田さんみたいな人と結婚したいなら早めの確保が必要ってわけだ」
あかねはできることなら自由恋愛で…できれば吉田さんなんかと…相思相愛で結婚したいと思っていた。チキンなので告白はできていないが…。
「吉田?あぁ…あの…自意識過剰のバカ女か」
なんだと!!?
憧れの吉田さんを冒涜され、怒りを隠しきれない。
相手が幼馴染のこずえでなければすぐに反論していたところだろう。
「森宮君…三大美少女に対して…なんか厳しいね」
こずえは妙に女子から人気がある。ライバルが減るという視点でみると嬉しいが、あかねにはこずえの思考が理解できなかった。




