第35話:衣服の事情
数年前の某発展途上国
親の理解があったり何とか逃げ出せたりして…どうにか服を手にいれることができた子どもたちも悲惨だった。
「こいついい格好してるよ。今服、売ったら高いっていうし全裸にしてあっちに放置しようよ」
この国では、いじめっ子の男子に恨みを感じていた元女子は決して少なくない。なんとか服を手にいれた少女は身ぐるみはがされることになった。
「や、やめて…」
元女子によって貴重な服を奪われ、街の真ん中に放置されるという悲惨ないじめが大量発生した。そして、そこからは負の連鎖が始まる。全裸の少女をみつけたろくでもない男や、性欲に飢えた多くの元少女が仕返しとばかりによってくるからだ。
この国では…力が弱く無防備な元男子に対して…集団レイプという残虐な行為が日常的に行われていた。
決して服だけが原因ではないのだろうが…せめて元男子が着られる服や靴の供給をなんとかしたかった。だから支援団体の職員の男が最初、本国から元男子に向けの衣服が大量に届くと知らされた時…彼らは大いに喜んだ。元女子向けの衣類に遅れること1か月…ようやく届いた元男子向けの衣類だった。
「なんだこれは?」
しかし…届いた箱を開けてみてすぐに唖然とすることになった。
箱の中に入っていたのは…可愛らしい衣服ばかりだったのだ。
一応はこの国の事情を配慮したつもりなのか、水洗いができるものだったりと手入れは簡単なものばかりだったが、入っていたのは可愛いリボンがついた服だったり、丈が短めのスカートが多かったりとやたらと性差を強調した服ばかりで…この国の元少年である少女たちにふさわしいといえる代物では決してなかった。
「気にしないでいい…その服は洗えるし…洗っても落ちなくなったら…また新しいのを取りにきなさい…服なんていっぱいあるはずなのに当局の方針で…スカートや無駄に可愛らしい服しか渡せないのがおじさんとしては…なんとも心苦しいんだが…それでももらってくれるか?」
この国では…スラム街の幼い少女に可愛い服を着せることは人身売買の犯罪者であっても滅多にしない。だからこういった少女にこんな綺麗な服を着せるとすれば…性的な目的、児童買春などに限られる。
そもそも幼い子どもを性的な目で見るなど…言語道断だ。
「もちろん!ぼく服が着れるならなんでもいいよ!!」
支援団体の職員の男の複雑な表情に比べ、少女は無邪気に笑い、とても嬉しそうだった。
自分はもちろん小さな子どもに性欲など感じないが…ろくでもない大人が現実に存在することを知っている以上、自分たちが人身売買業者と同レベルの行為をしているようにも感じてしまい、支援団体の職員の男はやるせない気持ちでいっぱいだった。
「それにこの服だと…破れたところからその…いろいろ見えちゃうし…」
恥ずかしそうに少女が呟いた。
サイズが合っていない穴の開いた服からは確かに…いろいろ素肌が見えてしまっていた。
「この国、犯罪率も高いですし…いくら元男の子とはいえこんな格好で変な事件に巻き込まれなければいいんですが…」
受け取ったばかりの服を大切そうに胸に抱え…仮設の更衣用テントに走っていく少女を隣の女性職員が心配そうに見つめていた。
「最近、物騒な事件が増えてるしな…」
多くの大人たちが『元男子の性被害』に衝撃を受け深刻に受け止めていた。先日も半裸の少女が…見るに堪えない姿で医療テントに運ばれているのを目撃したばかりだ。大人の男も元少女も狂っている…それがこの国の悲惨な現実だった。
実はこの国の犯罪件数自体は性犯罪を含めて減少傾向だと言われており、「男と女の立場が入れ替わっただけ…つまり因果応報だ」という意見も多くあった。しかし、こうも連日まだ幼い元男の子がレイプされたという話を聞かされては…そこまで非情にはなれそうにない。
「だけどそういうことなら…服を着ていないよりはましだと思うしかないのだろうな」
少なくともこれであの元男子の少女は…ボロボロの靴や穴の開いた服を着る生活から解放されたのだ。
「確かに服や靴がないのは困りますしね」
しばらくすると先ほどの少女がテントから出てきた。女性スタッフに身体の泥を落としてもらい、さっそく服を着たようだ。
「まるで…ほんものの女の子だな」
先ほどまで小汚く見えた少女が本国の子ども、それも上流階級のお嬢様のようにみえた。
ピンクの運動靴に清楚なワンピース…スカートをそれほど恥ずかしく思っていないのか…くるくる回って、スカートがふわりと浮かび上がる感覚を楽しんでいる。
彼女の笑顔がとてもまぶしい。
「喜んでもらえてるみたいですし…わたしたちは最善をつくす…それだけですね」
女性職員が微笑ましそうに語った。
このように発展途上国の子どもたちを含め…世界中の子どもたちに新しい衣服が行き渡ったことは賞賛されるべきことだったが…大量の在庫を抱えたアパレルメーカーにとっては地獄が待っていた。
新規参入も相次いでおり、多くの服が余り、各メーカーは膨大な在庫を抱え…最終的には衣類を大量廃棄せざるを得ない状況となっていた。
「社長!このままでは…少なくとも子供服からは即時撤退すべきです。銀行員として…無責任な発言であることは承知しています。ですが、このままでは御社はもって1年。新たに投資した製造工場の建設即時中止と土地の売却!土地を売却しても負債は残りますが御社であればギリギリ返済できるはずです!」
銀行員はそう語り、少なくないアパレルメーカーが倒産や撤退をするのではと危惧されるようになっていた。
「大手子供服メーカー…減産や撤退決断相次ぐ」
T-VID直後の混乱は誰もが見ている。もう二の舞はごめんだった。
政府は大規模な支援策を次々と再開した。こうして、供給量確保と家計の負担を減らす目的から衣服には国から多額の補助金が出ることになっていたのである。




